web掲載小説(11本)と書き下ろし(1本)を収録しております。
収録内容は下記の通りです。 きれいな彼はとてもきたない (web再録) 逆行(原作開始よりずっと前にタイムスリップ)したレオと何も知らないスティーブンのお話。年上レオでスティ(→)←レオ。 レッドネイル (web再録) 番頭さんが少年を後ろから抱っこしたままマニキュアを塗るだけの話。 ランチ! (web再録) 食費を切り詰めるために外食(テイクアウト含む)から自炊に変わったレオ君の話。 ツイン・ブルー (web再録) 逆行ウォッチ兄妹で無双。 愛を乞うなら穴ふたつ (web再録) 番頭が少年の義眼をえぐり出してから本体(少年)に愛してるよって言う話。スティ(ガチ)→←(憧れだと思っている)レオ。 褐色の獣 (web再録) ザップさんは美人だねと言いたいだけの話。ザプレオ。 バラの下にはバラバラ死体 (web再録) 「眼の問題が解決してもレオ君をHLに留めておくために、外に出られない身体にしてしまおう大作戦」なお話。スティレオメインに上司サンド。 綺麗なあの子には見せられない (web再録) 紙袋番頭と少年。紙袋以外にノコギリやバール等の工具も装備しているため若干スプラッタ。スティレオ。 アウグストゥスの紫斑 (web再録) 義眼保有者が死亡すれば対価として盲目になっていた人間の視力が回復する、としたら。牙狩りの都合で自死不可となったレオナルドの薄暗いお話。 Twinkle Twinkle Little Star (web再録) 星を吐くレオナルドくんと、お兄ちゃんが大好きなミシェーラちゃんの話。ふんわり10巻(ガミモヅ戦)後。 甘いケーキの面の下 (web再録) ケーキバース設定。フォーク(捕食者)なスティーブン×ケーキ(被食者)なレオナルド。 薄れて消えてきらきらと輝く (書き下ろし) サンプル↓ 「すまない、レオナルド君。スティーブンを見かけなかっただろうか」 「……はい?」 ライブラの執務室に足を踏み入れ中をぐるりと見渡した後ここの主人たる赤毛の紳士がそう問いかけるのを聞いて、彼の登場前から部屋にいたレオナルド・ウォッチはきょとんと目を丸くした。 普段は瞼の奥に隠されている神々の義眼が青白い光を放つ。座っていたソファから腰を浮かせたレオナルドは我らがリーダーの疑問を頭の中で反芻し、再度首を捻った。 「スティーブンさんがどこにいるか、ですか?」 「ああ」 「クラウスさん、それ本気で言ってます?」 「ん? もちろんだが」 至極神妙な顔で頷くクラウス。その様子にレオナルドは眉尻を下げ、紳士の背後にあたる場所―彼の人物が絶賛捜索中のスティーブン本人がいる執務机の方を見やる。そう、スティーブンはそこにいるのだ。そこにいて、レオナルド同様訝しげな顔をしている。 「えっと……」頬を掻きつつ、レオナルドはリーダーに告げた。「スティーブンさんならいつもどおりそこの席にいますけど」 「そうだぞクラウス。どうしちまったんだ、いきなり」 苦笑を滲ませた色男の声が続く。が、背後を振り返ったクラウスは更に奇妙な反応を見せた。 「スティーブンがそこにいるのか? いや、確かに今、スティーブンの声がしたような……」 紳士の呟きにレオナルドとスティーブンが揃ってぎょっとする。自分たちのリーダーは冗談でこのようなことを言うタイプではない。だとしたら、とレオナルドはスティーブンと顔を見合わせ、そして図らずも同じタイミングで口を開いた。 「「緊急事態だ」」 スティーブン・A・スターフェイズが他者に認識されにくくなっている。 レオナルドの持つ義眼にのみその姿を捉えられることから、状況確認のため召集された面々のうちザップがぽろりと零した「まさか番頭、ユーレイになっちまったんじゃ……」という説に一瞬スティーブン本人すら戦慄したが、ペンや書類やスマートフォンといった物には触れることができたのでひとまず幽体離脱もしくは死亡説は却下された。 なお「魂だけの存在であっても物に触れられるという映画が昔あったような。主人公が地下鉄で先輩ゴーストから空き缶の蹴り方を教えてもらってましたよね」という博識魚人の呟きは聞こえなかったことにする。「だいじょうぶだ。僕は地下鉄の小汚いおっさんから空き缶の蹴り方なんて教わってないしインチキ霊媒師の女性とも出会っていない……!」と妙に必死なスティーブンをレオナルドは見なかったことにした。おそらく死別した恋人とろくろを回したこともないのだろう。しかしヘルサレムズ・ロットであればインチキ霊媒師と出会うことくらいは両手の指の数以上にしていそうであるが。 閑話休題。 兎にも角にもスティーブンの存在が仲間達から認識されにくくなっているのが問題である。姿は完璧に見えず、声もほとんど届かない。普通に喋った程度では風の囁きの如しであり、大声で叫んでようやく伝わるレベル。不幸中の幸いは、物に触れられるおかげで筆談やメール等でのやり取りができることだろうか。 こうなった原因は不明。ひとまず声ではなく文字で指示を出して可能な限り仕事を進めることとし、同時にスティーブンの身に何が起きているのか調査する運びとなった。 ライブラのメンバーの中で唯一スティーブンをはっきり認識できるレオナルドは問題が解決されるまでスティーブンのサポート役に任命された。ザップやツェッドに比べると今まで関わる頻度の少なかった上司の傍に突然張り付いていなければならなくなったことで多少の緊張はあったが、何よりもこの状況に一番参っているのはスティーブン本人である。そう思えば、緊張よりも心配や自分が頑張らなくてはという感情の方が強くなろうというもの。「精一杯頑張りますから! スティーブンさん、何かあれば遠慮なく言ってくださいね」と本人に告げれば、目尻を下げた柔らかな笑みで「ありがとう、少年」と返された。イケメンは本当にずるいと思ったのは内緒である。 それからしばらく、レオナルドを除く皆がスティーブンの姿と声を確認できないこと以外は何とか平常通りの日々が続いた。ライブラの面々はスティーブンがその場にいるかどうかについてレオナルドの存在で判断し、単純なやり取りの際はレオナルドを介して意思疎通が行われ、複雑な内容であれば筆談やスマートフォン・パソコンを使って行う。 一方、原因の解明は進んでおらず不安や苛立ちといったものが僅かずつ皆の中に蓄積していっていたが、こればかりはどうしようもない。定期報告で「進捗なし」と聞くたびレオナルドは肩を落とし、それを見たスティーブンに逆に慰めの言葉を掛けられるという始末だった。 「なかなか進みませんね……」 「そう暗い声を出すなよ、少年。事態は好転しちゃいないが、それでも悪化まではしていない。まぁ君には面倒をかけてしまっているが」 「あっ、僕のことは気にしないでください! そういう意味で言ったわけじゃないですから!」 別にスティーブンと一緒にいることが苦痛で定期報告の内容にうんざりしているわけではないのだ。誤解のないよう慌てて両手を顔の前で振れば、ライブラ随一の伊達男は手の甲を唇に近づけてくつくつと肩を震わせた。 「わかってるよ」 その一言でレオナルドの身体からほっと力が抜ける。「面倒どころか、むしろスティーブンさんについて回ることで色々学ばせてもらってますし、僕の方が迷惑かけてないかって心配になるくらいです」と、ほっとしたついでに付け足せば、スティーブンは「嬉しいことを言ってくれるなぁ」と破顔してみせた。 「よし。口が上手な部下へのご褒美として夕食を奢ってやるとしよう。少し早いが今日の業務はここまでだ」 「えっ、いいですよそんなの!」 「遠慮するな。と言うか、君がいないと今の僕じゃ外食もままならないからね。何せ店員に存在を認識されないもんで」 まるで妹のミシェーラが自身の動かない足を指して「これがこれなもんで!」と告げるのを思い起こさせるようなコミカルな仕草を披露するスティーブン。そうされてしまうと断れないのがレオナルドだ。「じゃあお言葉に甘えて」と答えつつ仕事の片づけを開始する。 だが机上の書類を集めて整えていたその時――。 「ちょっとスカーフェイス! あんたいきなりなに仕事入れてくれちゃってんのよ! こういうのは事前に連絡寄越しなさい!」 バァンと勢いよく執務室の扉を開いて現れたのはスレンダーな肢体を赤いコートに包んだ金髪の美女、K・Kだった。レオナルドとスティーブンは片づけの手を止めて美女を見つめ、次いで互いの顔を見合わせる。スティーブンが事前連絡なしでK・Kに割り振った仕事などここ最近あっただろうか? という顔だ。 再びK・Kへと視線を戻したスティーブンが「待ってくれ、K・K」と呼びかける。 「K・Kさん。スティーブンさんが待ってくれって戸惑ってます」 「戸惑ってる? ねぇレオっち、そいつ戸惑ってるフリしてるだけじゃないわよね?」 「フリじゃないと思いますよ。だって俺が見てた限りじゃスティーブンさんが突然K・Kさんに振った仕事ってここ最近なかったですから」 「……どういうこと?」 訝しげに片方だけ覗いた目を眇めるK・K。会話が途切れた隙にスティーブンが「少年、彼女に突然割り振られたっていう仕事の内容を確認して」と依頼する。 「わかりました。……K・Kさん、すみませんが仕事の内容を確認させていただいてもいいですか」 「え、ええ。もちろんよ。内容は――」 そうして彼女がスティーブン経由ではなく次の仕事でチームを組むことになった面々から聞かされたという内容を説明する。 彼女の話を聞いてレオナルドとスティーブンは更に首を捻る羽目になった。それは先日スティーブンがK・K宛でメールした仕事の内容だったからだ。 ライブラの事務所にほぼ常駐しているザップやツェッドとは異なり、K・Kは私生活のこともあるためこちらに顔を出す機会は少ない。よって電話かメールが主な意思疎通の手段となるのだが、仕事の内容上特別な回線を使っているため通話は元よりメールも届かなかったことなどなかった。念のためまだ電源を落としていなかったパソコンでメールの送信履歴を確認すれば、きちんと送られている。 「すみません、K・Kさん。こちらのメール、届かなかったんですか?」 もしそれが事実なら通信回線の確認が必要になる。そう思いつつK・Kをパソコンの前に呼んだレオナルドだったが。 「あ、この時刻のメールね。それなら来てたわよ」 「え? だったら――」 「本文白紙のメール。誤送信でしょ、これ」 「……え?」 動きが止まるレオナルド。その傍らでスティーブンも息を呑んでいる。 K・Kが白紙と言って指差した画面上のメール送信内容にははっきりと仕事の依頼内容が記載されていた。そのようにレオナルドとスティーブンの目には見えている。そもそもスティーブンがパソコンを操作して文章を作り上げ、それを横で見ていたという記憶がレオナルドには確かに残っている。だというのに、何の冗談の気配もなくK・Kは本文がないと言ってみせた。 K・Kは二人の――実際にはスティーブンを認識することができないので一人の=\―様子からこれまで以上の異常事態を察したのだろう。彼女は顔色を変え、「まさか」と呟いた。 そう、そのまさかだ。事態は停滞しているどころか更に悪化してしまっていた。 「スティーブンさんが起こした行動すら、みなさん、認識できなくなってきている……?」 (以下略) |