混沌暗転迷走虚空終焉



















「・・・揃ったか。」

人口の明かりにより星が殆ど姿を消した夜空。
三日月を背にグリムジョーが呟く。
そこに新たに現れた人影は全部で5つ。

「誰にも見られてねえだろうな。」
「無論だ。」

グリムジョーの問いに答えたのは5人の中で一番前に出ていたシャウロン。
その彼が続けて言う。

「・・・此処へ来る途中、複数の強い霊圧を感じた。ウルキオラの報告と一致しない・・・」
「・・・ちっ!」

グリムジョーが舌打ちし、続ける。

探査神経ペスキスを全開にしろ。」

目を閉じ、感覚を鋭敏にする。
まるで暗闇に浮かび上がるような光の揺らぎを複数感じ、瞳を閉じたままグリムジョーが毒づいた。

「・・・思った通りだ・・・メチャメチャ増えてやがる・・・!
尸魂界から援軍を呼びやがったか・・・ゴタク並べてねェで最初ハナから殺しときゃ、こんな面倒にゃならねェのによ・・・ だからテメエは微温ぬりィってんだバカが・・・!」

この場にはいない人物を罵り、グリムジョーが目を開けた。


「ディ・ロイ、シャウロン、エドラド、イールフォルト、ナキーム。・・・全員、捕捉は完了したか?」

グリムジョーがニイっと口を吊り上げる。
そして、

「・・・いくぜ。一匹たりとも逃がすんじゃねえぞ!!」

散開。

















ディ・ロイが向かった先には風変わりな腕の男がいた。

「何でえ。死神じゃねーのかよ。」

浅黒い肌をしたその男が気づいてこちらを向く前に、ディ・ロイはその胸の中心へと左手を滑らせた。

「ハズレだ。」


しかし指先が浅く皮膚を傷つけただけで、何者かに手を掴まれる。
突然の乱入者に驚いてそちらを見れば、オレンジ髪に死覇装の人物―――死神。
大刀を背負ったその死神が眉間に皺を寄せたままディ・ロイを睨みつけた。

「ハズレかどうかなんてのは、戦ってから決めるもんだぜ。」

「・・・ハッ。それもそうだな。
そんじゃあ、てめえら全員殺してから、もう一度言わせて貰うとするぜっ!」


掴まれていた手を振り払う。
大柄の男は逃げたが死神の方はこちらを睨みつけたまま額に巻いてあった包帯を剥ぎ取った。


「・・・さァ・・・どーやって殺してやっかなァ・・・!」

さらには死神の後ろからもう一人。
・・・なにやら様子を見ていると、後から来た少女の死神が最初の相手になるらしい。
しばらく目の前で繰り広げられる漫才を見ていたが、それも早々に飽き、ディ・ロイが地面を蹴った。

ガンっ!

ディ・ロイの突きを少女の死神が受け止める。
しかし勢いまでは殺せずに何十メートルか後方へと飛ばされ、オレンジ髪の死神だけが残された。


手刀と刀で攻防を繰り返しながら、あまり力が入らないことにディ・ロイが内心眉をしかめる。
邪魔なのは・・・そう。ついこの間負った傷だ。
イールフォルトによってつけられた脇腹の傷が、まだ癒えぬまま痛みを訴え続けている。
さらにそれより酷いのが右目。
頭に突き刺さるような痛みが片時も退くことなく襲ってきていた。
しかしそのことを微塵も感じさせず、口角を上げてディ・ロイが名乗る。

破面No.16アランカル・ディエシセイス、ディ・ロイだ。」

「十三番隊―――「・・・あァ言わなくていいぜ。」


共に名乗ろうとした死神の言葉を遮り、ディ・ロイは続ける。

「これから皆殺しにする連中の名前なんかイチイチ聞いてたらキリ無えからな。」
「・・・成程。」

そして、死神が距離を取る。

「ならばせめて、刀の名だけでも覚えておくといい。」

死神が斬魄刀の刃を下に向け、口を開いた。

「舞え―――袖白雪。」

始解によって姿を変えた斬魄刀は白く、涼やかな音を立てる。
一瞬、音がそれだけになったように世界に静寂が落ち、それと同時にタイミング悪く、ディ・ロイは今までの比ではない激痛に襲われた。

「・・・っ」
「初の舞『月白』」


気づいたときには既に遅く、死神が描く円陣の内。
白く染まった円の中で足元が凍り始め、ディ・ロイは息を呑んだ。

「・・・な・・・何だこりゃあ!?」

腰まで這い上がってきた氷にギョッとし、激痛が襲い来る中で力任せにそこから脱出する。
空中に留まり、ディ・ロイはそこから地上の死神を見下ろした。

「ハハッ!!残念だったなァ死神!!俺の本来の戦場は空中なんだよ!!」

途切れることのない強い痛み―――既に痛みとすら認識するのも難しくなってきたそれに思考回路を邪魔されたまま叫ぶ。

「地面を凍らせるその剣は空中戦には対応できねえ!!―――死ねッ!!!」
「―――残念だったな。」

ディ・ロイが耳にしたのはその台詞。
そして。

「袖白雪は"地面を凍らせる剣"ではない。この円にかかる天地の全てが袖白雪の氷結領域だ。」



シャン・・・

氷柱が崩れる澄んだ音。
それと共に、内に閉じ込められたディ・ロイの体が砕け散った。



















同時刻。


「・・・ディ・ロイ?」

突如途切れた霊圧に、イールフォルトが振り向く。

「あのカスが・・・!
連れて行ってくれとせがむから連れて来てやったのに・・・」

そして赤い髪の死神へと向き直る。
―――早くこいつを倒さねば。
く意識に苛立ちを感じながらも、それに抗うことなど出来ず、イールフォルトは毒づいた。























サヨナラ。愛しい人。










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