帰って来た者達の中に『彼』の姿はなかった。 「嘘だろ?弱ってるだけじゃないのかよ・・・!?」 「お前も分かっているはずだ。ディ・ロイの霊圧が弱ったのではなく『消えた』ことに。」 静かに返したのはシャウロン。 薄暗い空間の中で落とされた言葉は立ち尽くすイールフォルトの目を見開かせた。 「・・・嘘だ。」 「イールフォルト・・・」 「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」 「少しは落ち着けよ、テメーも。」 「・・・グリムジョー。」 イールフォルトが声のした方に顔を向ける。 壁に背を預け立っていたのはディ・ロイを殺った死神の腹に穴を開けた本人、グリムジョーだった。 グリムジョーは腕を組んだまま、先の戦闘を思い出すようにして口を開く。 「まぁ、ディ・ロイがあんな弱っちい死神にやられるような奴じゃなかった・ってのは確かだけどな。」 「だったらっ!!」 「お前の責任だろう。」 声を荒げたイールフォルトを遮るように予想外の人物の声が入った。 カツン、と靴音を響かせ、その場に現れたのは――― 「ウルキオラ、テメー何か知ってんのか?」 グリムジョーが些か不機嫌そうな雰囲気を漂わせて問う。 それに「ああ」と短く答え、ウルキオラはイールフォルトに視線を向けた。 「・・・誰が霊圧を揺るがせているのかと思えば、お前だったとは。イールフォルト。 明らかにお前の責任で同胞を一人失くしておきながら、それを認めないと駄々をこねているのか。」 「な、にがっ・・・!」 表情を変えることなく語るウルキオラとは対照的に、イールフォルトは怒りに顔を朱に染め、相手を睨みつける。 視線で人が殺せるなら既に死んでいたかもしれない。 しかし実際はそんなことあるはずもなく、イールフォルトからの突き刺さるような視線を受けながら、何の感情も感じさせない声でウルキオラは問いかけた。 「自分がディ・ロイに対して行ったこと、忘れたわけではないだろう?」 「あ、あれは・・・」 「体中についた痣。切り傷。新しいものから古いものまで・・・ディ・ロイのこれらをどう説明するつもりだ。」 「それは今、関係ない!体についた傷の一つや二つ、破面なら治そうと思えば治るものだろう!?」 「何言ってんだよ。」 イールフォルトの台詞にグリムジョーが口を出した。 「ディ・ロイは俺達よりその能力が劣ってンだぜ?それはアイツをカス呼ばわりしてたテメーが一番良く知ってるはずじゃねェのか?」 「なっ!」 「なるほど。それでいつまでたっても傷が残っていたのか。好意を寄せる相手がつけたものだからこそワザと残しておいたわけではない、と。」 イールフォルトは息を呑み、ウルキオラは淡々と頷く。 「ディ・ロイが俺を・・・?それじゃあ・・・俺は・・・・・・・・・俺が、アイツを・・・」 右手で顔を覆い、イールフォルトが呟く。 その様子を見ていたウルキオラは音もなく踵を返し、その場を去ろうとする。 「行くのか。」 「こういう場合、他人は邪魔らしいからな。」 「らしくねェぜ。」 「・・・だろうな。」 僅かに苦笑のようなものを見せるウルキオラ。 それに驚き、片眉を上げたグリムジョーはイールフォルトを見やると小さく溜息をついた。 「ま、確かに他人は邪魔だろうな。」 そしてウルキオラの後に続いて姿を消した。 他の者達も消えた二人に気づいて姿を消したのか、それとも、もっと前に去っていたのか。 ただ一人、薄暗い空間に残ったイールフォルトが手で顔を隠したまま絞り出すように声を出す。 「俺は・・・ただ、俺だけを見て欲しくて―――!!」 「結局、俺は何も知らなかったということか・・・」 イールフォルトが手をどけた。 「は、はは・・・はははははははははははははは!!!」 そして、狂ったように笑い出す。 「ディ・ロイ・・・ディ・ロイ、ディ・ロイ、ディロイディロイでぃろい、」 見開かれた両目からは無色の雫を流し、イールフォルトが天を仰いだ。 「ディ・ロイ。」 愛してる。
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