「ウルキオラとヤミーのヤツ、現世に行くんだってさ。いいよなー・・・俺も遊びに行きてェ。」 そう言った瞬間、ディ・ロイはイールフォルトに殴り飛ばされた。 そのまま床に押さえつけられ、驚いたディ・ロイは痛みをこらえながらも抵抗のために腕を伸ばす。 しかしそれすらいとも簡単にあしらわれ、あっという間に頭上で腕を組まされていた。 「ちょっ、イール!いきなり何すんだよっ!?」 何か彼の気に障る事を言ってしまったのだろうかと不安感を抱きつつも、いつもと違うイールフォルトの様子に戸惑いを隠せない。 背中に床の冷たさを感じながら腕を何とかしようとするが、そんなディ・ロイの抵抗など無いもののようにイールフォルトは動じず、それどころか戒めている左手の力をさらに強くした。 「・・・っ」 痛い、と悲鳴が漏れそうになり、ディ・ロイは唇を噛む。 腕の方に気が向いたその一瞬、見下ろしていたイールフォルトの顔がディ・ロイの首筋に埋められ、湿った熱を伝えてきた。 ピクリと全身を強張らせ、何事かと目を見開く。 「イ、ル・・っうぁ!!」 言い切る間もなく、そこに激痛が走った。 じんじんとした痛みと流れ出る熱。 ディ・ロイのもので唇を紅く染めたイールフォルトが顔を上げる。 紅が横一文字に引かれた顔に表情はない。 スッと研ぎ澄まされた冷たい瞳に見下ろされディ・ロイが動きを止めていると、イールフォルトの右手がディ・ロイの袴の帯にかかった。 しゅるっと布同士の擦れる音が聞こえ、黒い帯が床に投げ捨てられる。 「なに、する気・・・」 無意識のうちに拘束された両腕に力が籠もり、抜け出そうと躯を捩りだす。 しかしイールフォルトは無言のままディ・ロイの下肢を覆う布にも手をかけ――― 「やめっ!」 全て剥ぎ取った。 曝け出された中心が力ない姿のまま床を這う冷気に震える。 「イール、ホント冗談も大概に・・・」 「黙れ。」 ぴしゃりと跳ね除け、イールフォルトは己の指を咥えて手早く唾液で濡らす。 その指が躊躇いもなくディ・ロイの臀部へと伸ばされた。 唾液で僅かにぬめる指が後腔を探り当て、そして。 「いっ!」 繊細なけれども決して細いわけではないイールフォルトの指が一本、ディ・ロイの中へと侵入を開始した。 異物感にすぐさま拒絶が起こる。 しかし拒み続ける入り口に容赦も何も与えられはしない。 指先が侵入を果たすと充分な潤いもないままぐいぐいと力押しで蹂躙を始める。 「やっ、やめ!・・い、った・・・」 排泄するためだけに設けられたはずの器官。 それを逆行してくるものにディ・ロイが感じるのは異物感と痛みの二つだけ。 「・・ひっ・・・ィ、ルト・・・・・・やめァ、」 やめてくれと途切れ途切れに懇願するがイールフォルトはいっこうに聞き入れず二本目を差し込んだ。 「ぁぐ!」 無理やり捻じ込まれた二本の指が中で円を描くように動き出す。 くるりと内壁を擦られ、気持ち悪さにディ・ロイは顎を反る。 乾いた髪がパサリと音を立て、白く細い首筋があらわになった。 微かに有ると分かる喉仏のすぐ上には薄らとした青紫色の痣。 それにこっそりと目を細め、イールフォルトは狭い内壁に包まれた指をくいと折り曲げた。 「っ!?」 途端、ビクンとディ・ロイの足が跳ねた。 痛みの中、突然現れた別の感覚に自分自身でも驚く。 「・・・な、に。」 「ここか。」 「ぃひ、やぁ!・・・な・・・っ?」 くり、と先程引っかいた位置を再度指が辿る。その度に未知の感覚に襲われるディ・ロイは声を上げて躯を震わせた。 執拗にそこばかり攻める指はいつしか三本になり、まるで別々の意思を持っているかのように蠢く。 それまでディ・ロイの顔を見下ろしていたイールフォルトは、ふと視線を下げた。 口に浮かんだのは蔑みを含んだ笑み。 「ははっ!俺にこんな事されて感じてんのか?」 冷気に震えていたディ・ロイの中心が徐々に立ち上がりだしていた。 先端から零れる雫は白濁色。 粘性を持ったそれがとろりと幹を伝う。 「淫乱。」 「ゃ・・・ちが・・・っう!」 自身の反応に愕然とするディ・ロイ。 それでも下肢の奥から背筋を這い上がってくるものに声を詰まらせ喘ぐ。 「もっ、イールやめッ・・・・・・っああ!」 内壁を強く引っかかれディ・ロイの全身を走ったのは紛れもない快楽だった。 味わったことのない感覚にディ・ロイの意識がじわりと溶け出していく。 ただどこかへと駆け上がって行くような。そのまま登りつめたいという思いだけが脳内を満たし始める。 しかし開放の寸前、ぬちゅと水音を立ててディ・ロイに喪失感が襲った。 「・・・ぁ。」 漏れた声は喪失によるものか。または開放に達せなかったためか。 うすぼんやりとしたディ・ロイの瞳を捉え、イールフォルトは小さく舌打ちした。 「カスのくせに躯だけは女みたいに・・・・カスの上にとんでもない淫乱だったか。」 その呟きでディ・ロイの脳にかかっていた霞が晴れだす。 「そん、なこと・・・ない。」 「どこがだ。」 苛立ちを含んだ声でイールフォルトが吐き捨てる。 そしてディ・ロイの足の間に入るように躯をずらしたイールフォルトは両腿を掴んで薄い胸板に押し付けた。 「うやっ・・・」 ありありと秘部が曝され、ディ・ロイの顔が羞恥に染まる。 前を寛げたイールフォルトは構わず怒張した自身を解した箇所にあてがい、一気にディ・ロイを貫いた。 「うぁああああああああああ!!」 慣らされたと言えども指とは比べ物にならない質量に全身を引き裂かんばかりの激痛。 ぶつ、と切れる音がして後腔にはぬめり。 愛情を確かめるためのものでもなく、ましてや子孫を残すためのものでもない。ただの搾取と成り果てたこの行為に全身が悲鳴を上げる。 痛みのあまり目を見開いて涙を零すディ・ロイは、それでも縋るものを探して両手を空中に彷徨わせた。 その行き着く先は目の前にあった白い布。 こんな状況でも殆ど皺になっていないイールフォルトの上着を握り締め、次から次へと襲ってくる痛みの波を耐えようと必死に縋り付く。 そんなディ・ロイの行動にイールフォルトが動きを止めた。 目の前には下肢から全身を侵そうとする痛みに涙を流し続けるディ・ロイ。 作られた笑顔も何もかも消えて本心から涙を流す。 縋る腕も零れ落ちる雫も、全てが本物。自分だけが見ている彼の本物。 「ディ・ロイ、」 無意識のうちに名前が口をついて出た。 苦痛の中から呼び起こされてディ・ロイの片目がイールフォルトを捉える。 「っな、に?・・ひぁ!」 すると突然、先程の挿入の際に萎えてしまっていた自身を弄られ、痛みの中から覗いた快楽にディ・ロイの躯が跳ねた。 「うゃ・・・ぁっ・・・・・ん、」 ディ・ロイの中心は上を向いて立ち上がり、熱を失っていた白濁の上に新たな熱が滴っては広がる。 それはとろとろと際限なく溢れては、イールフォルトの手を汚し、さらに自身の薄い茂みを越えて奥へと伝って、裂けた後腔から流れ出していた鮮血と交じり合い、小さな水溜りをいくつも床に描き出した。 ディ・ロイを弄くり続けながらイールフォルトがそろりと腰を動かす。 「ひぁ・・・」 「キッツ・・・」 ずる、と出て行くものに中身を引きずられるような感覚。 持って行かれまいとしたのか、きゅっとそれを締め付けてしまい、秀麗な顔が些か顰められる。 しかし、食い千切られそうなほどキツイ締め付けと目の前に居るのが誰なのかという認識、そしてその人物が今や自分だけのものになっているという状況にイールフォルトはこの上もなく高揚した。 「・・・んぅっ」 唇と唇を合わせる行為。 初めてのそれにディ・ロイは酷く戸惑う。 その隙に歯列を割ってぬるりと熱源が侵入を果たし、ディ・ロイの口腔を満たした。 縦横無尽に中を犯すイールフォルトの舌が奥で縮こまっていたディ・ロイを見つける。 触れた瞬間慄いて逃げ出すそれをあっという間に捕らえ、引き抜かんばかりに強く絡めた。 「っふ、んん・・・はっ・・・・・・っ、ル。」 痛みではなく、口づけによってとろりと溶けた瞳にイールフォルトが映る。 満足げにその様を見つめ、イールフォルトは再度唇を触れ合わせた。 深く、浅く。 僅かに離れ、間に銀糸を引きながら唇の動きを伝えるように呟く。 「・・・キだ。」 「・・は、ァ・・・・・・ん・・・っ」 もう一度深く口づけ、そのままイールフォルトはギリギリまで腰を引く。 そして中心を弄る手と同調させるように一際強く、ディ・ロイを最奥まで貫いた。 「ぁあああああああああ!!!」 「お前が、好きだ。」 意識を飛ばす寸前、真っ白に弾けた世界の奥でディ・ロイはそんな声が聞こえたような気がした。 「ん・・・・・・」 意識が浮かび上がる。 背中にシーツの感触を感じながらディ・ロイは薄く目を開いた。 目覚めたばかりの所為か、ぼやけた視界にまず映ったのは白い天井と自身の前髪。 それからゆるりと視線を動かして横を見れば、自分が見知らぬ部屋にいるということだけ分かった。 ・・・何処だろ、ここ・・・ ふわんと浮かんだ疑問は特に答えを欲しているような感じも見せずに霧散し、再度ディ・ロイを眠りの縁に誘う。 うつらうつらとほとんど目を開けない状態で何度も瞬きを繰り返すうちに閉じている時間の方が長くなり、終いには完全に目を瞑って周囲の音もだんだんと遠のくような感覚に陥った。 カチャ・・・ そんな時に部屋のドアが静かに開かれた。 なるべく音を立てないようにして姿を見せたのはイールフォルト。 イールフォルトは自分のベッドに横たわっている人物、ディ・ロイが目を閉じ安らかに眠っているのを見て、ほっと安堵の息をつく。 そして足音を抑えて近づきベッドの横まで来ると、殊更ゆっくりとした動作でその脇に腰を下ろした。 片手をディ・ロイの方へと伸ばして瞼の上にかかった前髪をその手で払い、掠めるように額そして頬を撫でる。 その淡い感覚を心地好いと思いながら、ディ・ロイは「もしかしてこれは夢なのでは?」と思った。 夢でなければ、どうしてあれほど自分にキツク当たっていたイールフォルトが今こんなに優しいのか。 そしてどうして、 「ディ・ロイ・・・」 こんなに優しく名前を呼んでくれるというのか。 やはり夢だ。それになんて都合のいい夢だろう。 そう思い、折角だからしばし現実を忘れて存分に浸ろうと考えてしまうのも事実で。 夢現の思考も相まってディ・ロイはふにゃり、と笑みを浮かべた。 「・・・ロ、イ?」 ピクとイールフォルトの手が止まったが、気づかずにディ・ロイはその手を取って自分の顔を擦り付ける。 肌理が細かく荒れていないイールフォルトの手は大層滑らかで気持ちいい。 「イール、あのね。」 夢だから、と思う気持ちがそうさせるのだろうか。 本人には絶対に言うまいと決めていた言葉がディ・ロイの口から滑り落ちた。 「俺さ・・・イールのこと、だぁい好き。」 へへ、と頬を染めてはにかむ。 そんなディ・ロイの様子に今度こそしっかりとイールフォルトの動きが止まった。 固まって無言のままディ・ロイを見下ろし続ける。 「・・・あの、えっと・・・イールは?イールは・・・俺の、こと・・・」 何も返って来ないことにディ・ロイが不安げな声を出した。 白く弾けた世界で聞いたと思ったような優しい言葉をかけてはくれないのか。 どうせ夢なのだからありえないくらい幸せな言葉をかけてくれても良いではないか。 お願いだから。夢なら幸せな夢を見せて。 大層我侭な言い分だとわかっていても、そう思ってしまう。 返ってこない答えに、胸が、詰まる・・・ はらり、とディ・ロイの目から雫が零れ落ちた。 「・・・っ」 イールフォルトが息を呑む。 そして何かを決心するかのようにゆるりと一度瞬きし、未だ頬に触れていた手でディ・ロイの涙を拭った。 「・・・ああ。好きだ。・・・・・ロイ、お前が好きだ。」 呟くように小さく、けれどはっきりと告げられた言葉にディ・ロイは大きく目を見開いた。 「ほん、と・・に?」 「本当だ。」 「っイール!!」 ディ・ロイは感情に任せて両腕をイールフォルトへ精一杯伸ばす。 イールフォルトがその手を取り、自分の元へと引き寄せた。 抱きしめる腕は、強く。 互いの背に回された腕は痛いくらい相手を抱きしめた。 「ディ・ロイ、もう一度言ってくれないか?」 「好き。大好き!俺、イールが大好き!!・・・っこの夢サイコー!」 「・・・は?」 夢だと?とイールフォルトがハッとしてディ・ロイを凝視する。 ニコニコと笑っていたディ・ロイはそんなイールフォルトに気づいて「ん?」と小首をかしげた。 「ディ・ロイ・・・その・・・これは夢じゃないと思うんだが。」 「へ?あ、れ・・・イール・・・ホンモノ?」 「それ以外の何と言うつもりだ?」 ディ・ロイの物言いにやや不機嫌さを滲ませて、イールフォルトは目の前の頬に両手を伸ばす。 そして、左右同時に頬を抓った。 「っにゃ!」 「何が“にゃ”だ。コレで夢じゃないって分かったか?」 「わひゃった!わひゃったから、はなひて!いひゃい!」 「っ!あ、・・・ああ。」 痛い、という単語にイールフォルトの肩がビクリと揺れた。 すぐさまその手を離して引込めると申し訳なさそうな顔をする。 視線は斜め下に逸らされ、皺の寄ったシーツだけを捉えて。 「その・・・すまなかった。」 「イール・・・」 謝罪は頬を抓ったことを言ってるのではなく、あの事なのだとわかった。 最後の方は自分がどうなって何を感じたのかさっぱり記憶がない。 ただ不安と恐怖と、そして空白。白いイメージ。 しかし散々傷つけられたはずの箇所に痛みは感じられず、目の前の人物が眠っている間にわざわざ治療してくれたのだとディ・ロイは気づいた。 人知れずディ・ロイは目を細める。 そうして口に緩やかな弧を描いたままイールフォルトを見つめた。 「許してくれ、なんて言える訳ないが。それでも、」 「いいって。俺、今すっごい幸せだから。」 「幸せ・・・?」 イールフォルトが顔を上げた。 ディ・ロイは笑う。心から。 「だって俺達ソウシソウアイ、なんだろ?」 唖然としたイールフォルトは続けて「違う?」と問われて一瞬返答に窮し、そして。 苦笑を織り交ぜたような顔で笑った。 「相思相愛、な。・・・・・・違いない。」 互いの笑みを瞳に映して。 瞼を下ろせば、唇が重なる。 ―――嗚呼。満たされていく。 喪失が埋まった。
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