あの出会いから数年後。

俺はあの時抱いた名もない思いを胸に、真央霊術院の生徒となっていた。












感情











「一護!!」



廊下の向こうから声をかけつつ走ってくる黒髪の少女。

名を、朽木ルキアという。

俺の少し前に入学した生徒で、死神の卵の先輩として、また友人として良くしてくれる人物だ。



「おう。ルキア、おはよ。」

「ああ、おはよう。

それでだ、一護!今日の午後の実習に貴様も参加すると言うのは本当か?」



そう。

ルキアたちの学年では、今日の午後から現世に行って魂葬の実習をする予定なのだ。

そして、その実習には俺にも参加が許されていた。



「ああ、そうらしいな。」



そう答えると、彼女は嬉しそうな顔をして、

「そうか!用はそれだけだ。呼び止めてすまなかったな。・・・それでは午後の実習で!」

「おう。よろしくな、ルキア。」



















午後、魂葬実習の参加者達は一ヶ所に集められ、

ドクロや火の玉のようなイラストが描かれた紙を一枚ずつ引かされた。


自分の分を引いてからしばらくあと、

午前中に廊下で別れたルキアが手に俺と同じような紙を持って此方へやって来た。



「一護、何の絵が描かれていた?私は月だったのだが・・・」



彼女は三日月が描かれている紙を広げて見せた。



「俺も同じ柄だったぜ。・・・これって、実習の班決めのつもりなのか?」

「さあな。本当の所はわからんが、もしそれならば同じ班だな。よろしく頼むぞ!」

「おう。そん時はよろしくな!」







それからやる事もないので二人で談笑していると、時間になったのだろうか、

上級生の三人―――そのうち一人は女性、二人は男性で、

片方は檜佐木修兵と言い、とても有名な人物らしい―――が説明を始めた。

やはりこの紙の絵柄は同じもの同士で班を作るためのものらしい。



「と言うことは、あと一人か・・・」



三人で一つの班が作られるということは、俺とルキアにあと一人。





「あ、それ、俺だわ。」

「!?」



俺とルキアの間からひょっこりと顔を出したのは、

赤い髪を頭の高い位置でくくった人物、阿散井恋次だった。



「び、びっくりするではないか、恋次! もう少し心臓に優しい登場の仕方はないのか!?」



口では怒っているが、ルキアが紡ぐ言葉の端々には気安さがにじみ出ている。

彼―――恋次はルキアの流魂街からの友人で、俺はルキアを通じて彼と知り合ったのだ。



「あはは。悪ぃ悪ぃ。ま、二人ともよろしくな!」

「「ああ!!」」













シュウウゥゥゥ・・・





「よし。魂葬終了。」

「これで三人とも終わったな。」

「意外とあっけないもんだなぁ。」



俺、ルキア、恋次の順でそれぞれが言葉を発したあと、 「イデェェェ」と少々痛そうな声が向こうの方から聞こえてきた。

どうやら今のが最後だったらしい。





「それでは尸魂界へ帰る。全員、地獄蝶は持っているな!?では、一班ずつ門を通れ。」



檜佐木先輩の声を合図に門が開かれ、一つ目の班の人々が一歩踏み出した。





「檜佐木く・・・ア゛ッ!!」



鈍い音と共に途切れる声。

目を向ければ、巨大な爪に体を貫かれた蟹沢先輩の姿。

そして、赤く染まったその爪の先には胸に穴が開いた白色の巨体・・・





巨大虚ヒュージ・ホロウ・・・っ!」



檜佐木先輩の顔色が変わる。



「皆!!門をくぐれ!!早く!!でなければ何処か遠くに逃げろ!!

―――――尸魂界へ救援要請!

こちら六回生筆頭、檜佐木修兵!!現在定点1026番北西2128地点にて巨大虚の襲撃を・・・ぐっ!」





舞う、血しぶき。



顔の右半分に傷を負い、しかし斬魄刀で虚の爪を受け流しながら、

その剣を返して腕を切りつける―――だが、先輩がつけたその傷は浅い。





「くっそおぉ!!!」



もう一人の六回生、青鹿先輩が剣を上段に構えて疾走。



「・・・っあ!」



しかしその肩を虚の巨大な爪が掠め、勢い良く後方に飛ばされて壁に激突。

そのままぐったりと動かなくなった。



上級生二人があっという間に殺され、残るは檜佐木先輩一人のみ。

俺たち三人はそれを視界の端に収めつつ、門をくぐろうと走る。





―――が、俺の足は途中で止まった。



「おい、一護!てめぇ何止まってんだよ!?先輩が時間稼ぎしてくれてるうちに・・・!」

「そうだぞ一護!早くせぬか!!」



焦る二人。

それとは対照的に俺の頭はどんどん冷えていく。





「・・・なぁ。何で逃げなきゃいけねぇんだ?」



「え?」



「俺たちだって見習いとはいえ死神だ。

その死神が、虚を目の前にしてなんで逃げなきゃならねぇんだ?」



「「!!」」

「俺は行くぜ。」




そう言って、俺は斬魄刀を右手に構え虚の方へと走り出す。



「・・・っ、くそ!!」



そうして、何かを振り切るように恋次が、そしてルキアも走り出した。









ギイィィィン!!





金属同士を思い切り打ち合わせたような音が当たりに響き渡る。

先輩を四方から狙っていた虚の爪を、先輩自身と俺たちで防いだ音だ。





「・・・っ!お前ら逃げろと言ったはずだぞ!!」



叫ぶ先輩に俺は叫び返した。



「命令違反はわかっています!処罰もあとで受けます!ですから・・・っ」



そうして、「はっ!」と息を吐いて巨大な爪を押し返す。



「そんな怪我で言うもんじゃありませんよ、先輩!!」





四人、背中合わせにして四方からの攻撃に備える。



「四体か・・・!応援はまだか!?」

「しかたねぇ!何とか持ち堪えるしか!!」



ルキアも恋次も次々にやってくる攻撃を受け、更に切りつけ、何とか防いでいく。

しかし防戦一方。

こちらの方があまりに不利だ。

そして、突然増える気配。





「!!四体じゃない!周りにもっといる・・・!」



姿を現したのは数多の巨大虚。



「こいつら、気配を消してやがったのか!!」

先輩が毒づく。



「ヤバイ!このままじゃ・・・!」



数多の爪が伸びてくる。



「防ぎきれねぇ・・・!」























「おやおや。間一髪ってところっスか?」





ひらりと舞う白い羽織。





「あとはアタシがやりますから、皆さんは下がっていてくださいね?」





そこに黒で書かれた十二の文字。

まとう人物の髪は月色で―――





「う、浦原隊長!!」



誰かが叫ぶ。



その声は歓喜か、それとも恐怖か。



名を呼ばれた人物は、まるで舞でも舞っているかのように飛び、そして剣を振るう。

剣を一振りすれば一匹の虚が倒れ、消える。

二振りすれば更にもう一匹の虚が・・・





―――その美しき舞に、俺たちは息すら出来なかった。

















彼は全てにおいて美しく、そして恐ろしく強かった。





憧れた。



強烈に。





二度の邂逅を経て、その感情は最早、崇拝に近かった。























もとはあのお話ですね。

「雛森、吉良、阿散井」が「黒崎、朽木、阿散井」に(笑)


















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