いつもどおりの暗い灰色空間。現れた神人の数は一。動きもそれほど激しいものではなく、これは楽勝だと慣れた脳味噌が呟いた。
 早く帰って休もう。なんなら異父弟を自分のマンションに呼び出すのも良いかもしれない。そんなことを考えながら三年間使用してきた力を今日もまた解放する。赤い球体になった僕は先に飛び立っていた同志達と同じように青白い巨体へ向けて空を飛んだ。
 ある程度直線的に近づいた後、隙を狙うように目標の周りを大きく旋回する。とその時、神人がこちらに顔(?)を向けて一瞬動きを止めた。背筋に悪寒。見つけた、と言われたような気がした。神人が「赤い球」ではなく「僕」を狙って腕を振り上げる。
 ああ、そうか。神は自分の鍵が僕に盗られたことを知って、僕に嫉妬したわけか。
 愉快なくらい笑いが込み上げて来たのはどうしてだろう。視界に映る青の割合は猛スピードで増していく。でもすみませんね。こんな所でやられてやるほど僕は貴女に罪悪感を抱ける人間なんかじゃないんですよ。
 迫り来る攻撃を避けながら僕は確実に神人の身体を切り刻んでいく。仲間も戸惑いながらだが、僕がターゲットにされていることに気付いて、その隙に、と積極的な攻撃を繰り返した。


 しかし神の鍵に対する執着は想像以上に激しかったらしい。一見無意味に思えた神人の一撃がビルを破壊し、そして僕は―――。
 最後にこの目が捉えたのは、コンクリートの塊が降って来るシーンだった。








「5」のすぐ後の話。

(2007.10.12up)



<<  >>