れた

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「・・・ッあ!・・・くぅ・・・!」
 外気に晒された俺の性器が熱い粘膜に包まれる。時折当たる硬い部分が予想外の感覚を齎して必死に声を噛み殺す俺を嘲笑うかのように腰の奥と脳に激しい電気信号を伝えていた。辛うじて映る視界の端に色素の薄い毛が揺れている。下腹の辺りをさわさわとくすぐるそれすら過敏になった俺には十分なくらいの刺激になり得た。
 所謂フェラチオと言うやつだ。ただし好きな女にしてもらってるんじゃなく、俺を好きだとのたまった男にだがな。
「イイ顔してますね・・・想像以上です。」
 うっとりと呟かれ、またその後すぐに勃ち上がったものが粘膜に包まれる。
 大きな刺激に襲われるたび腰が跳ね、それに連動して鎖がジャラジャラと音を立てた。
 制服の前はとうに肌蹴られ、辛うじて袖を通している程度。ネクタイは気付けばなかったから、きっと前日の内に解かれていたんだろう。身体が起こせないので確認出来ないが、この状態に至るまでにされてきたことから考えればきっと気持ちの悪い鬱血の跡が散らばっているに違いない。下半身に関しては制服のズボンのチャックが降ろされただけの状態でイタされている。
「ゃ、・・・ッあぅ・・・・・・やめ・・・!」
 熱が中心に集まっていく。足と手に力が入って鎖を容赦なく引っ張り、金属部と擦れる箇所が熱を持ち始めていた。痛みは感じられない。ただ、熱い。
 中学高校時代は情熱を持て余しまくる年頃だとも言うが、それでもこんなのは嫌だ。どうして、つい昨日まで仲間だと思っていた男にこんなことをされなければならんのだ。嫌だ。気持ち悪い。こんなことを平気でやってる古泉が。でもこんなことされて気持ちいいと感じている自分が一番気持ち悪い。
「っひあ!く・・・ッ!」
 解放感。引いていく熱。信じられないと繰り返す脳みそ。
 達した後の虚脱感に身体と思考を侵されながら天井を見上げる。瞬きをすると重力に従って目尻から液体が零れ落ちた。吐息を漏らした時のような笑い声が聞こえ、下肢の辺りで留まっていた気配がこちらの顔の近くにやって来る。億劫ながらも瞼を持ち上げると優男が潤んだ唇で綺麗な弧を描いていた。
「ごちそうさまです。」
「なっ、お前・・・ッ!」
 飲んだのか!?
「当たり前です。言ったでしょう?心が駄目ならせめて身体だけでも、と。あなたのものなら唾液も精液も、そして血液さえ欲しいんですよ。」
 うっそりと笑い、男はこれ見よがしに赤い舌で自分の唇を舐めた。
 何なんだこいつは。完全に狂ってやがる。
「ええ、狂ってますよ。それくらいあなたのことが好きなんです。愛しています、あなたのことを。ようやく手に入れた。」
「俺はお前のものなんかじゃない。」
「精神的にはね。ですが物理的には既に僕のものです。だってあなたをここから救い出してくれる人なんているはずないんですから。・・・なに、すぐに実感出来ますよ。あなたは僕のものになったと言うことが。」
 口端を持ち上げ目を眇めた古泉は実に満足そうな顔をしていた。その目がふと俺の手首に向けられる。すると笑みを形作っていた口から、ああ、と嘆くような声が零れ落ちた。
「すみません。怪我をさせてしまいましたね。」
 手首に濡れたものが押し付けられる。同時にピリ、と小さな痛みが走った。
 古泉が言っているのはおそらく手錠が擦れて出来た傷のことだろう。すまないと思うならさっさと外しやがれ。そして俺をここから出せ。まだ今なら一発殴るだけで勘弁してやる。
「それは出来ない相談ですね。しかしあなたがこれ以上傷つくのも忍びない。」
 そう言うと古泉は俺から離れ、サイドボードの引き出しから小さな鍵を取り出した。何の飾りもついていない実用性一点張りの銀色の塊を持ち、俺の足がある方に下がる。左足首の所でカチャカチャ音を立てたと思ったら、カシャン、と最後に軽い音がして左足が自由になった。次いで音の発生源は俺の頭上に移って左手、右手の順に解放される。しかし右足は未だ拘束されたままだ。
「逃げられると困りますから。」
 いつもの如才ない笑みと苦笑を半分ずつ合わせたような表情で言い、更に「あ、でも。」と付け足す。
「両手が自由になったからって僕を如何にか出来るなんて思わないでくださいね。これでもあなたよりは体力も技術的なものも鍛えているつもりですから。」
 つまり俺がお前を殴って無理やり残りの手錠――いや、足枷か――を外させるのは不可能と言うわけだな。
「ご理解が早くて助かります・・・・・・・・・おや、また閉鎖空間ですか。」
 台詞の途中でバイブレーション機能を遺憾なく発揮したのは古泉のズボンのポケットに入っていた携帯電話だった。古泉はベッドから身を起こしてそれを手にする。不機嫌そうに見えるのはあながち俺の思い違いでもないんじゃないか。
 小さな液晶画面から視線を外し、整った顔が苦笑を浮かべて俺を見た。
「涼宮さんにも困ったものです。あなたが行方不明だというだけでこんなにも心乱してしまう。・・・まあ、あなたに想いを寄せる一人の少女としては当然のことかもしれませんけどね。」
 ハルヒが俺に想いを寄せているかどうかはさて置き。クラスで目の前に座ってる知り合いが行方不明になってちゃ、そりゃ心配もするだろうよ。それでお前はこれから閉鎖空間に行ってあの青白い巨人と戦うんだろ?わざわざ自分から危険性を上昇させるのはお前だって望んじゃいないはずだ。神人狩りを好いている訳でも無いくせに。こんな馬鹿な真似は止めてさっさと俺を解放しろ。そうすればハルヒの不安定さもマシになるんじゃないか。
「嫌ですよ。あなたが何度そう言おうとも僕はあなたを手放したりしません。」
 すっと目を細め、笑顔を消した優男が手錠の鍵をチャラチャラと弄ぶ。それから携帯電話をポケットに戻すとベッドの足側に跪き、金属の擦れ合う音をさせた。
 再び立ち上がった古泉の手に握られていたのは随分長さのありそうな銀色の鎖。どうやらそれは俺の右足に繋がっているらしい。
「僕は今から閉鎖空間へ行ってきますけど、その間あなたは自由にしてくださって構いませんよ。鎖はトイレにもお風呂にも行ける程度の長さがありますから。まあ、玄関には届きませんけどね。それからあなたの携帯電話は廃棄させていただきましたし、この家にある電話は僕が今持っているものだけです。外界との連絡は一切出来ません。」
 ああそうかい。そりゃご丁寧にどうも。ところで腹が減ったんだが、キッチンには勝手に入っていいのか?
「構いませんよ。あるものは何でもお好きになさってください。」
 ほう。じゃあ俺が台所にある包丁で自殺するのもOKなのか?
「・・・・・・ふふ。」
 何が可笑しい。
「可笑しいですよ。だってあなたが僕に監禁された如きで自殺なんかするはずないでしょう?そんな見え透いた嘘に僕が慌てるとでもお思いですか?」
「・・・っ、」
 こんな嘘程度、簡単に見破られてしまうらしい。そうだよ。監禁されて一度イかされたくらいじゃ俺は自殺なんかしないさ。
 睨み付けると殺しきれない笑い声が降って来た。
「あなたは本当に可愛い人だ。・・・それでは行って来ます。」
 台詞と共に古泉の顔が近づく。抵抗しようと両手を上げるが、いとも簡単にベッドへと押し付けられてしまった。どんなに力を入れてもビクともしない。
 ちゅ、と額に湿った音が落とされる。デコちゅーとは、お前も意外と乙女チックな思考の持ち主だったんだな。
「そうですよ。好きな人と離れがたいと思うくらいにはね。」
 そう言って淡い笑みを残し、古泉は部屋を去った。
 俺は閉まったドアを睨みつけ、奥歯に力を込める。ぎり、と頭蓋に音が響く。
 "あなたが僕に監禁された如きで自殺なんかするはずないでしょう?"―――如き、って何だよ。お前にこんなことされて俺が平気いられると、本当にそう思ってんのか。自殺なんか"死んでも"しないが、だからってイコール平気で繋げられるわけがないだろう・・・ッ!?
 チャリ、と右足の方から金属音。ベッドの上で胎児のように身体を縮め、俺はひたすら強く目を瞑った。








(2007.10.02up)



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