数日後、任務が下った。

内容は、未だ藍染様に従わず虚圏の各所に散らばる虚達の討伐。
たとえ我らに崩玉をもたらし破面化の手助けをしたとしても、やはり基本が死神である藍染様に反感を抱く者は少なくない。
そんな虚達が徒党を組み、牙を剥くような様子を見せた場合、こうして俺や他の破面が始末しに向うのだ。


「こちらに就かなければどうせ消される運命だと言うのに…。愚かだな。奴らも。」
「殺されたいんでしょ?だから吠えるんだよ。」

俺の呟きに応えたのはこの任務に同行しているディ・ロイ。
先日、城の地下であれほど殺したのにまだ満足していなかったらしい。
俺一人で向う筈が自分も着いて行くと言ってこっそり城を抜け出して来てしまったのだ。

「ふん…まぁどうでもいいがな。」
「所詮、全ては無意味だから?」
「ああ。」

口癖ではないが俺がよく思っている通りの言葉を言われ、素直に頷く。
この世界もこの世界に存在するモノもその存在が思う事も、全てに意味などない。
誰の下に就こうが就くまいが、それもまた同じく。

「ウルキオラにかかれば何もかも無意味になっちゃうねー。」
「それが俺にとっての真実だからな。」
「ふーん…」

目を眇め、常より低いトーンで返されたのは何故なのか。
だが目的の地に足を踏み入れ、俺達は立ち止まる。

「無駄口は終わりだ。予定ではこの辺りだからな…あまり暴れるなよ。」
「善処しまーすっ」

おどけた返事は岩陰に隠れていた虚の首が空高く舞い上がるのとほぼ同時だった。















「ウルキオラはオレが消えたらどう思う?」

断末魔の叫びも途絶え、またこの地が静寂を取り戻した後、やはり血塗れで姿を見せたディ・ロイが唐突にそんなことを言ってきた。

「何だいきなり。」
「いや、なんとなく。」

らしくない物言いだと本人もわかっているのだろう。
俺の訝しげな顔を見るまでもなく、「やっぱ今の無し」とこちらに背を向けた。

「ただの気紛れだから。忘れてよ。」

お前の気紛れはいつもの事だろう、と先を行く背に言いかけるが、俺は一度開いた口を閉じてその言葉を飲み込む。
結局、明確な音として告げたのは――ディ・ロイのが伝染ったかの様に――俺らしくない台詞だった。

「少なくとも悲しいなどとは思わないな…だが、」

遅れて返した質問の答えにその歩みが止まる。
他人の言葉に耳を傾けるなんて本当に彼らしくない。
こちらとしても聞き流して欲しいのに、と思うのは今更だろうか。

「…だが、寂しい、と思うかも知れない。」
「……寂しい?」

振り向かず、ディ・ロイは呟く。
それに肯定を返せば隻眼がひたりとこちらを見据えた。

「ウルキオラの言葉が本当だとして、その気持ちに意味は無いんじゃないの?」
「意味が無いのと俺がどう思うかはまた別だ。」
「なるほど。」

納得した様に呟き、ディ・ロイはまた向き直って歩きだす。
血を主に正面から受けていた所為か、背中の方はあまり汚れておらず、きれいな白を保っていた。
だが逆にその白さが今のディ・ロイを弱々しく見せて、俺はありえないと頭を振る。

「わかっていると思うがその格好で皆の前に出るなよ?」
「だいじょーぶ!このまま自分の部屋に直行だから。」

振り返らずそう告げる顔はどんな表情を浮かべているのだろう。
何故か一度感じた危うさは思考の片隅から去ること無く、前を行く背に重なり続ける。


「そっかそっか。ウルキオラは寂しいのかぁ。」


からかう様な、大きめの独り言の様な、そんな言葉から導かれる結果を俺はまだ知らない。
ただ漠然とした不安を覚えるだけで。








もし「知って」いたとして、俺には何も出来なかっただろうけど。

(2006.07.22up)



<<  >>