ふっと意識が浮かび上がる。

背中にあたるのはスプリングの利いたベッドの感触。
それと皺の寄りまくったシーツ。

近くに希薄だけどあの人の気配を感じられて俺は身を起こした。

「いっ――!」

しかし腰から来る鈍痛に再びベッドへと戻ってしまう。

「ああ、起きた?おはよ。」
「ぅ…お、はよ…ございます。」

声のした方に視線を向ければ、あの人がベッドサイドに腰掛けてこちらを見ていた。
もちろんいつも通りの姿で。

けれどそれに違和感を覚えるのはなぜだろう。
“朝”など無いのに「おはよう」と言ったからか。
否、これはただの形式であって、違和感を感じるほど意味を持っている訳ではない。
じゃあ何故…。

「ん?オレの顔に何かついてる?」
「い、いえ!そんなことは…!」

俺の視線が外れない事に気付いて彼は首を傾げる。
それにワタワタしながら答え、俺はまた作り主の苦笑を誘ってしまった。

そこで俺はなんとなく分かった。
この違和感の理由を。
今この時こそ、この人が俺に見せてくれた中で最も機嫌の良い状態なのだ。
今まで見てきた彼のどれにも当てはまらない表情だったから、今更の初めてな表情だったから、違和感を覚えてしまったのだろう。

嗚呼、俺はあの人が望む様きちんと振る舞うことが出来たんだ。

そう思うと下肢の鈍痛さえ幸せなものに感じられた。

「お前も目ぇ覚めたし、オレもう行くね。」
「あ、はい。」

彼を前にして喜びに浸っていると彼がそう言って立ち上がった。
こんな時に自分だけ座っている訳にもいかず、慌てて――でもきちんと腰を気遣いつつ――俺も床に足をつける。
けれど今度は。

「っ…!?」

ドロリと下肢を伝う何か。
思いもよらぬ所からの感覚に襲われ、そのまま床にぺたりと座り込んでしまった。

俺の異変に気付いて部屋を出ようとしていた彼が振り返る。
力の抜けた下半身とガチガチに固まった上半身を見てこちらの状態がわかったらしい。
動けない俺に彼はクスリと微笑してまた戻って来た。

「やっぱり最後まできちんと教えてあげなきゃダメだね。」

そう言いながら俺の正面に膝を付け、腕を背に回す。
するりと撫でる微かな感覚にさえピクリと感じて肩を揺らせばクスクスと楽しそうに吐息が漏らされた。

「オレに掴まって良いから。腰、上げて。」
「ぁ、はい…ッ!?」

言われた通り、目の前の白い衣に掴まって躊躇いがちに浮かせると、腰を持ってさらに高く上げさせられる。

「ふ…や、ァ!」

そして細い指がツプリと侵入して来た。

「っ、う…ふぁ、ンンッ」

くちゅりと探るようにナカを掻き回され、再び熱が燻りだす。
抑えられない声が部屋に響いて居たたまれない。

「掻き出してあげてるだけなのに。…ホント、イヤラシイ子。」
「あァ、やっ!」

イイ所を擦られ、ナカのものをぎゅっと締め付けてしまった。
差し込まれているのは二本。
それが分かった自分にさらなる羞恥を覚える。
きっと真っ赤になっているであろう耳のすぐ近くで囁かれるのは面白がっているとしか思えない言葉だ。

「これじゃあ指が抜けないんだけど?…あぁそれとも、離したくないくらい気持ち良かったのかな。」
「…ッン、」

くいっと曲げられた指にまた体が反応する。
この身に籠もった熱は早々に俺の意識まで持って行きそうなほど。

「随分辛いみたい?ちょっと感じやすく作りすぎちゃったのかな。」

涙で霞む視界には彼のパサつく明るい色の髪。
そう言ってクスクスと笑う声が聞こえたと思ったら、瞬間、指を引き抜かれ、俺は床の上に押し倒されていた。
背中へと触れる温度差にぞわりと肌が泡立つ。

「あ、ぇ…あの、」
「手っ取り早くイかせてあげる。」
―――もう粗方掻き出せたし。

そう言って、ニコリと笑った顔が目の前に。
それが下に移って…。

「ひ、やアァ!」

全身を貫く快楽。
直接的な刺激を下肢に与えられ、俺は悲鳴じみた声を上げた。

視界の端で髪が揺れる。
そして、それから幾らもしない内に熱い粘膜に包まれていたそこが大きく脈打った。

「ッあ!もう…ッ」
「いいよ。」
「、あああッ!」

一際強く吸われ、俺は呆気なく達した。
ごくりと飲み干す音。
さらに自分だけが熱い息を吐き、そうしてあのいつもと変わらぬ瞳の前に晒されて、俺はたまらず顔を逸らす。

「はいオシマイ。」

残滓と唾液で僅かに汚れた口元を拭い、彼はそう言って立ち上がった。

「それじゃ、行くからね。」
「は…い。」

未だ呼吸整わず、力の抜けた体でその背を眺めやる。
俺の所為で引き止めてしまったが、先刻「オレもう行くね。」と言ったことからも考えられる様に、この後に何か用事でもあるのだろう。
そう思えば急いでいる様に見えなくもない。

あの人が“急ぐ”なんて初めてかもしれないな。

そんな事を考えて俺はこっそりと笑った。
その時―――。



「ぐ…かはっ」



ぴしゃっ………ポタっ…ポタポタ



「……え?」

目を見開く。

視界の中央で真っすぐに立っていた姿が崩れ落ち、口を押えて蹲った。
続く水音は手の隙間から溢れだした大量の液体。

ねぇ…その色って…?なんで蹲ってるの?
どうして吐き出されたモノが…紅い、の?



「   っ!」



何と呼べばいいのかも分からず、ただあの人の元に駆け寄った。








誰か嘘だと言って。

(2006.07.17up)



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