「いい子にしてた?」

扉が開いて彼が顔を覗かせる。
いい子にしていたつもりは無いけれど、此処から逃げ出そうという気はこれっぽっちも起きなかった。
何故かは分からないけれど。

「自分が何か知りたいんだよね。」

その声にコクンと頷く。
従順な俺の様子に彼は笑みを浮かべた。

「前がアレだったから目覚めた時はまた失敗かと思ったけど…今度は成功したみたいで良かったよ。」
「失、敗…?」
「そんな顔する必要なんか無いよ。お前は成功だから。」
「…そうじゃない。」

そうじゃないよ。
そんな、失敗とか成功って区別する以前に………俺は誰?俺は何なの?

返されたのは前と同じ、薄い笑み。
それを目の当りにしてスッと体が冷えた。
それでも。


「俺は…何?」


口を突いて出た言葉に目の前の笑みが深まった。


「お前は身代わり。お前は偽物。」

―――オレの姿をした“人形”

「人、形…?」
「そう。人形だよ。」

にこりと目の前の人物は微笑む。
決してふざけている訳ではないのだと解った。

でも、そんな、嘘だろ?だって打たれた頬は。

「痛かった。」
「そういう風に作ったからね。」

「腹が立った。」
「その設定も難しいもんじゃないよ。」

「嘘。」
「本当。」

「…どうして、」

俺を作ったんだ。

問い掛けに、彼は目を伏せる。
その口端に浮かぶのは…嘲笑?

しかしこちらがほんの数瞬戸惑っている間に、彼が再び目を開けた。

「言った筈だよ。お前は身代わりだって。」
「それは、誰の…」

ゴクリと唾を飲み込む音がいやに大きく鳴る。
だって答えは予想出来るものだから。

「もちろん、オレの。」

そう言って彼、ディ・ロイは自分と同じ顔をにこりと見つめた。














破面No.16ディ・ロイとはどういう人物なのか。
周囲にどんな存在として認識されているのか。

俺はまず、その事からたたき込まれた。
拒否権は無い。
拒否すればそこで俺の存在意義は消滅する。
消えるのは嫌だった。
偽物だろうが何だろうが、この人の傍にいたいと願った。
だから、廃棄されない様に言の葉一つ聞き漏らさないでディ・ロイというものを学んだ。

…その仮面の厚さといったら。
たった一つの為にそこまで道化に成れるのか。

覚えたのは呆れや興味ではない。畏怖だ。
何故誰も気付かない?この狂暴な存在に。
時折纏ってくる濃い血臭が何を示すのか、理解できる者はいないのか。

…いや、気付いた時には無へと返されているのだろう。
この人の手によって。



「ねぇ、一度外に出てみる?」
「…え?」

俺の思考の大部分を占める人物がふと思いついたとばかりに言葉を発した。

「話ばっかじゃ実感なんて湧く筈無いし。」
「でもバレたら…」
「その時はヘーキ。オレがちゃんと見てるから。」

にこりと笑った顔もその言葉もなんら可笑しな所は無い。
でも俺は彼の台詞に安堵どころか背筋に冷たいものを感じた。
…絶対にバレてはいけない。もし正体を知られたら、その知ってしまった誰かが命を散らす事になる、と。



「ホラ、」


そう言って彼は扉を示す。


「行っておいで。お前がどこまで出来るか楽しみにしてるよ。」








『心』があるのは偽物の証?

(2006.07.17up)



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