「俺から逃げようとしたね」
「い……ッ」 腕を捻り上げられ、帝人は短く悲鳴を上げた。 臨也が不在の間に逃げ出そうと決めたはいいが、どこもかしこも完璧に対処が施され逃亡を阻む。それでも諦めずに帝人は外へ通じる扉の破壊を試みた。 しかし元々非力な部類に入る帝人の力では限られた時間で充分な成果が得られず、逃げ出す前に臨也が帰宅。帝人の抵抗の跡を見つけた青年の柳眉が不機嫌に吊り上がって――― 「離し、て! 離してください!!」 「痛い思いも苦しい思いもさせてない。俺ができる事は全部してやったのに、どうして逃げようとするかなあ」 苛立ちも露わに臨也が帝人の腕を掴んだまま寝室へ向かう。そのままベッドの上に放り投げられた帝人は、仰向けの状態でスプリングに全体重を受け止められ小さく呻いた。 「く……ぅ、折原、さ……」 「黙れ」 強い口調で告げ、臨也もまたコートを脱いでベッドに乗り上げる。獲物を捕らえた獣のように帝人の四肢を押さえ付け、完全に自由を奪った。 恐怖が帝人の身体を支配する。 「謝罪も文句も抵抗も受け入れない。全部、俺の傍にいてくれない帝人君が悪いんだよ」 □■□ 組み敷いた身体は驚くほど細く無力だった。 帝人が己の元から逃げ出そうとしているのを見た瞬間、臨也の全身には怒りが満ち、気付けばその小柄な体躯を寝室に連れ戻していた。最初は怖がらせるつもりも痛い思いや苦しい思いをさせるつもりも無かったのに。今、臨也の下では帝人の大きな黒い瞳に零れ落ちる寸前まで涙の膜が張っている。 ぞくり、と加虐心が疼いた。 知りたい。暴いてやりたい。逃げようとした事への怒りも合わさり、個人に対して抱くには常軌を逸した量の感情が臨也の中で鎌首をもたげる。 ニイ、と自然に口元が吊り上がるのを自覚しながら、臨也は帝人の青いネクタイを解いて素早く両腕を少年の頭上で縛り上げた。昨日、彼を初めてこの部屋に連れて来た時にブレザーとネクタイは壁に掛けておいたのだが、逃げようとした際に帝人がまたきちんと着込んでいたのだ。 臨也は帝人の逃亡の意志を削ぐように、続いてブレザーの前ボタンを外す。先に手を縛ったため完全に脱がす事はできないが、前を肌蹴させられれば充分だった。 「おりはら、さん……? 何を、」 恐怖でガチガチに身を凍らせて帝人が問う。 この子供は本当に何も解っていないのだろうか。 (まあ、だとしてもすぐに解るだろうけどね) 明確な答えは返さず、臨也は変わりにシャツのボタンを外して晒された白い首筋に思い切り噛み付いた。 「い、ァ……!」 痛みに喘ぐ帝人。 臨也は滲む血を舌で丁寧に舐め取りつつ、その反応を目にして満足気に吐息を零す。痛みが齎された事で帝人の抵抗は激しくなったが、臨也にとっては先刻と然程変わり無い。細い身体を易々と押さえ込んだまま唇をずらして鎖骨の辺りをきつく吸い上げた。 「なに、するんですか! 冗談も程々に……!」 「帝人君は肌が白いからきれいに付くねえ」 どうやら徐々に臨也がやろうとしている事に気付き始めたようだが、帝人はそれを青年の冗談に違いないと思って――もしくは冗談であって欲しいと願って――声を荒げる。しかし臨也はそんな帝人の思考を理解した上で少年の言葉を無視し、薄い皮膚に次々と赤い花を咲かせた。 「やめ……っ、やめてくださ―――ヒッ」 上半身の衣服を取り払い露わになった胸の飾りに臨也が舌を這わせる。途端、非難の声は悲鳴に変わり、帝人の身体がビクリと震えた。 与えられる感覚がどうと言うより、何故そんな所を舐められたのか解らないのだろう。帝人の目は驚愕に見開かれ、唇を戦慄かせる。 「な、んで、そんな所っ」 有り得ない。気持ち悪い。 視線でそう訴えてくる帝人に臨也は一度舌を離して目を合わせた。 「ここで気持ち良くなるのは女の子だけじゃないって知らないのかな」 「知りませんよそんな事! もう本当に離してください!」 「駄目だよ。俺は怒ってるんだから」 笑いながら臨也は再び顔を伏せ、帝人の胸の飾りに唇を寄せる。 「……やめ」 舌で押し潰すように捏ね繰り回し、時には前歯でやわやわと挟み込んで。 その間、完全に抵抗を封じられている帝人は唯一自由になる口から拒絶の言葉ばかり吐き続けた。しかし暫らく続けていると帝人のそこが徐々に芯を持ち始めた。臨也は舌や唇でその感触を確かめながら「そろそろかな」と心中で呟く。そして、 「あっ……」 今までとは性質の異なる声が帝人の口から零れ出た。 「ぇ……な、なに……?」 本人も困惑しているらしい。 臨也は濡れそぼったそこへ息を吹きかけるように笑う。 「ほら、気持ち良くなってきた」 「ち、違う! これは……あン!」 今度の声は誤魔化しようもない。どう聞いても甘ったるいものが混じっていた。帝人もそれを自覚し、己の意思とズレを生じ始めた身体に絶望の表情を浮かべる。 「こんなの嘘だ」 「嘘じゃない。これからもっと気持ち良くしてあげる」 「ふ……ぅ、…………っ」 臨也が刺激するたび赤く熟れた小さな飾りは最早少女のそれのように帝人の脳へ快楽を伝え続けた。 「帝人君、こっちの才能あるんじゃない?」 「っうるさい! ……あ」 「ほら、気持ち良いんだろう?」 「や、あ……なんで、え……!」 受け入れがたい現実に歪められた幼顔は、しかし目元に鮮やかな朱を刷いており、それを目にした臨也は喉を鳴らす。なるべく声を漏らすまいと噛み締められた唇は充血して真っ赤に染まり、ひどく甘そうに見えた。 (はは……本当に才能あるんじゃないの。ねえ、帝人君) 胸を弄る役割を口から手に変更し、臨也は思わず帝人の唇に齧り付く。 「んん!?」 突然の口づけに帝人が驚いて臨也の口の中に声を放った。臨也は少年の顔が逸れないようもう一方の手で頭を固定し、声を放った時に開いた口内へ舌を捩じ込む。 「ぁ、ふ……」 「……ッ」 奥で縮こまっていた帝人の舌を強引に絡め取って引き摺り出し、甘噛を施す。粘膜同士の接触は慣らされていなかった胸とは異なりすぐさま帝人の快楽を刺激した。 「ん……ふぅ、…………んん」 くちゅくちゅといやらしい水音が耳に届く中、甘さを増した帝人の声が臨也の脳を揺らす。 心地よい酩酊感を覚えながら、臨也は口づけする一方で、胸を弄っていた手を下へ移動させる。途中で脇腹から腰を撫で下ろせば、帝人の身体がビクリと跳ねた。 下ろした手が金属に触れる。カチャカチャとベルトのバックルが奏でる音に帝人が口づけから解放されないまま「んんー!?」と叫んだ。だが勿論臨也が手を止めるはずなど無く、ファスナーを下ろし、下着の中に納まっていたそれに直接指を這わせた。 「……ふ……ん、ぅ!」 (硬くなってる) 臨也の愛撫で感じた証拠だ。 僅かだが硬さを持ち始めているそこを認めたくないのか、帝人は両足をばたつかせて臨也を退けようとする。しかし臨也は自身の身体を帝人の両足の間に滑り込ませており、充分な抵抗にはなり得ない。 指で輪を作って扱くとその硬さが一気に増した。幾度か上下運動を繰り返すうちに透明な先走りが溢れ、掌と幹の間で泡立つ。 やはり男なら一番はここか、と頭の中で呟きつつ、臨也は一度帝人を解放させるため鈴口に軽く爪を立てた。同時に長い口づけを終わらせれば、 「……っ、ああ!!」 甲高い嬌声が少年の口を突いて出る。 飛び散った白濁は帝人の腹や臨也の指に付着し、臨也が躊躇い無く己の指に付いたものを舐め取ると、それを目にした帝人が呼吸を乱したまま顔を羞恥に染めた。 「きたない、です」 「汚くないよ。帝人君のだし」 精液特有の苦味を舌の上で転がしながら臨也は口の端を持ち上げる。残りの指に関しても見せ付ける事を意識して舐め取れば、耐えられないとばかりに帝人が目を閉じた。だが臨也がサイドテーブルの引き出しの中から何かの液体が入った瓶を取り出し、その中身をとろりと帝人の下腹辺りに零した瞬間、「ひっ」と喉を引き攣らせて再び彼の大きな黒い瞳が露わになった。 臨也が傾けた瓶の中身は帝人の腹、そして一度欲を吐き出した中心に落ち、そこをてらてらと濡れ光らせる。中心や下生えに落ちた液体は重力に従い更に奥へ。粘性を持つ液体はそれだけである程度の刺激になるらしく、臨也の下で少年が戸惑いながら、どこかもどかしそうに小さく身動ぎした。 (これが無意識だってのは……性質悪いなあ) 「お、折原さん? これ、何……」 「これ? ローションだけど」 「ロロロロロ、ローション!?」 「そんなに驚く事かな。それとも帝人君、男同士の行為には全く、欠片も知識が無い?」 「え? や、あの、その」 「まあネットに触っていれば多少は知っちゃうだろうね」 ふっと吐息だけで笑い、臨也は己の指にもローションを馴染ませる。その際、少年の顔を固定していた方の手も瓶を持ち替えるため外れていたのだが、臨也の発言に驚き、また恥ずかしがっていた帝人には抵抗を再開させるという考えが浮かばなかったようだ。たとえ抵抗を再開しても、体勢的にも体格的にも帝人が臨也を退ける事は非常に困難だろうが。 右手に満遍なく液を絡ませた臨也はその手を帝人の足の間に沈め、 「苦しかったら声、出して。無理に力を入れると切れるらしいから気を付けてね?」 「へ!? ちょ、ま…………ぐ!?」 中指の第一関節を侵入させただけで帝人から異物感による呻き声が上がる。しかしそこで止めてやる気など起こるはずもなく、ローションの滑りを利用してぐにぐにと指を奥へ進ませた。 「やぁ、ちょ……いた、い!」 「そのうち慣れるみたいだから大丈夫だよ。それよりほら、力抜いて。切れて困るのは帝人君だろう?」 「そんな、こと! 言われても! 抜いて、抜いてください!!」 「却下」 「……ッッ!!」 ぐにゅ、と中指が付け根まで埋まる。 いつまで経っても消えない、むしろ指の体積分だけ増していく異物感と圧迫感に帝人が顔を顰めた。 (やっぱり初めてはこんなものか) 臨也は胸中で独白し、続いて埋めた指をナカで動かし始める。 「へ、あ……うあ……あ!」 痛いと言うより気持ち悪い。帝人の顔にはでかでかとそう書かれていた。 しかし帝人の体内に収まった指が伝えてくるのは、とろけるような熱と、こちらに絡み付いてくる肉壁の感触。 「……ッ」 少年を貫いた時の事を想像するだけで頭の後ろに痺れが走った。 (でも、まだまだ) 指一本受け入れるだけで精一杯な帝人を今すぐ臨也のモノで感じようとしても、出血するどころか入る事すらままならないに違いない。もっと慣れてからでなければ。 頭の中で囁く加虐心と本能的な欲をそう言って抑え付け、臨也は指の動きに集中した。 そしてある一点を掠めた途端、 「や、あ!!」 びくんっと小柄な体躯が大きく跳ねた。 「え、今の、なに……」 「前立腺じゃないかな。ここだろ?」 「ひ……あ、や、あ……や、あん!!」 「嫌、じゃなくて、気持ち良いんだねえ。ほら、また勃ってきてる」 触ってもいないのに立ち上がり始めた帝人の中心を目にして、臨也はそこに指を這わせる。内と外の両方から責め立てれば、帝人のそこはあっという間に自ら少し白濁した液を吐き出し始めた。 「ふ……あ、そこや、……あ、ンン」 ぐじゅ、じゅぶ、とローションに濡れた後孔に指を出し入れする音が響く。 帝人が喘ぎ始めてすぐ臨也は中に埋める指を一本から二本に増やした。よって圧迫感は増したはずなのに、帝人が苦しむ様子は無い。少年はただ臨也の下で与えられる圧倒的な快楽に翻弄され続けている。 「ああ、もうぐちゃぐちゃだよ、帝人君。俺の指そんなに美味しいのかな」 「……ぐ、や、ちが……!」 「違う? でも……三本目、入っちゃったね」 「ひゃ、あ、あ……」 三本の指をバラバラに動かし、更に快楽を煽る。帝人は頼りない背をしならせ、それがまるで臨也に胸の飾りを差し出しているかのようだ。 臨也はぺろりと舌で唇を濡らした。全身薄桃色に染まった肌、そこに二つの赤。視覚効果だけで眩暈がする。 「……もう、いいよな」 確認ではなく己の我慢が尽きた事を示すように臨也は呟き、指を引き抜いた。代わりに宛がったのは――― 「……いッ!!」 「はっ……まだキツ、い……」 帝人の痴態に高ぶっていた己を寛げたズボンの中から取り出し、一気に挿入した。しかし指と臨也のそれではサイズが違う。いくらも入らないうちに動きが止まる。 「みかど、くん……息、吐いて」 「む、むり……抜いて、抜いてくださ、い。痛い、痛い痛い、い!」 ヒックと嗚咽が聞こえた。見れば、少年の目元には汗ではない水滴が現れている。そしてさっきまで上を向いていたはずの中心も、痛みで萎えてしまっているではないか。 「抜、いて…………い、痛い、痛いです……許して、ゆるしてください」 「……謝罪は聞き入れないって言っただろ」 自らも締め付けられる痛みに顔を顰めながら臨也はそう言い放った。ただしこのままと言うのも辛過ぎる。 臨也は空いた手で帝人の萎えていたそれをぎゅっと握り込むと、すぐさま動かし始めた。 「っは、あぅ!」 謝罪と嗚咽が途切れ、嬌声が上がる。と同時に後孔が若干緩み、臨也自身がズブリと沈む。その勢いのまま臨也は己を帝人のナカに埋めきった。 「かっ、は……っ!」 「―――ッ」 (あっつ……) 包み込んでくる壁は熱く、帝人の呼吸に合わせて、じわり、と臨也を締め付けてくる。本能的な快楽に頭の中が焼けるようだ。 暫らく己と帝人のナカが馴染むのを待って臨也はゆっくりと腰を動かした。 粘着質な水音が空気を震わせ、淫靡な行為を知らしめる。ぐじゅ、ぐじゅと耳からも帝人を犯しながら、指で探り当てた一点を抉るように打ち据えると――― 「ひゃああっ!!」 これまでで一番激しく帝人が跳ねた。 臨也はそこに狙いを定め、思い切り何度も何度も責め立てる。帝人の口からは抑えられない嬌声がひっきりなしに漏れ、頭上で縛られた腕が縋る物を探して揺れる。 「……」 それに気付いた臨也がしゅるりと戒めを解いた。そして解放された細い腕を取り、己の背に誘導する。激しい快楽に犯された帝人はされるがまま、ぎゅっと臨也の背にしがみついて声を上げた。 「や、ん! は……あ、あ……あ」 「帝人君……」 「はう……あ、」 「帝人、君」 「ひゃあ! は、はい……おりはら、さ、ん?」 ぐじゅ、と一度動きを止めて、臨也は至近距離にある黒い瞳を覗き込む。快楽の波が途切れた直後の少年は呆けた顔で臨也の名を呼んだ。ただし今までずっとそうだったが、『姓』の方で。 「ねぇ帝人君」 「は、……あっ」 僅かに中のモノを動かして臨也は帝人に掠れた声を注ぎ込んだ。 「いざや、だよ」 「っひ、ん! ああ!」 細い腰を掴み、動きを再開する。解放を目指して与えられる刺激は容赦が無い。 「や、おりは……」 「い、ざ、や」 「あっ、い、いざやさん! いざやさんいざやさん!! はげし、もう、やめ! ゆるし、て……!」 「っく」 水音と、肌を打つ音と。 そして帝人が己を呼ぶ声が臨也の脳を痺れさせる。 (ははっ……たまんない……) ニイ、と口元を歪め、臨也が帝人の奥を抉る。ついに達した帝人が白濁を放ち、連動して強い締め付けに襲われた臨也もそのままナカに欲を放った。 (2010.09.08up) |