フタリノアニ 4
「まさか、ここまでとは・・・」
「その台詞・・・わかっちゃいたけど、俺も随分見縊られたモンだな。」 白哉の呟きに一護が返す。 勿論、無傷のままで。 一方は卍解、もう一方は常時開放型の始解。 その状態で互角という現実に白哉が眉を僅かに顰めた。 「貴様は・・・現世で私に負けてから一月もせぬうちに、ここまで力をつけたと言うのか。」 「さあ?どうだろうな。」 「惚けるつもりか。」 「大事なのは結果だろ?あン時、俺はアンタに負けた。それだけだ。」 白哉の問いを終わらせるかのようにそう言って、一護は斬月の切っ先を正面に向ける。 「・・・だがまぁ。あン時は見せらんなかったものも、今なら見せられるようになってるぜ。」 「なに?」 前方の秀麗な顔が訝しげに顰められるのを見て、一護が胸中で笑った。 (これ以上長引かせてもあんまり良くねぇしな。) 『ラストスパートといきますか。』 頭の中で響く声を合図にしたかのように、一護の霊圧が跳ね上がる。 「卍解!」 「ッ!?」 一護の口から出た言葉に瞠目し息を呑む白哉。 ありえん、とでも思っているのだろう。 しかし一護から発せられる霊圧は確実にその思いを裏切っていた。 周囲に広がった強大な霊圧が次いで一箇所に収束する。 勿論その収束地点は一護の元。 霊圧による衝撃で巻き上がっていた砂埃を一護は刀の一振りで消し飛ばし、その姿を白哉の前に晒して笑いかけた。 「―――天鎖斬月。こいつが俺の卍解だ。」 「卍解、だと・・・?ただの斬魄刀ではないか。」 幾らか形を変えた死覇装と、漆黒の刀身を持つ斬魄刀。 そんな一護の姿を認めて、白哉は「ふざけるな」とでも言いたげに言葉を吐き捨てる。 しかし当の一護はそれで気分を害した様子も無い。 「見れば解るさ。」 『見られれば、な。』 呟いた瞬間、一護の姿がかき消えた。 白哉は目を見開き、そして瞬時に己の立っていた場所から離れる。 その行動はただの勘によるものでしかなかった。 だが。 「・・・避けられたか。この辺りが年の功ってやつ?」 一護の感心したような声が白哉がもと居た場所から発せられる。 その格好は斬魄刀を振り下ろした姿のまま。 剣先で白哉の黒髪を数本掠め、一護はハラリと散ったそれに目を留めた。 「でも逃げてばっかだと髪だけじゃ済まなくなるかもよ?」 何者にも捕捉することを許さぬスピード。 まさしくそれを“見せ付けた”一護は、カチャリと鍔鳴りの音を立てて天鎖斬月を構える。 「俺と斬り結ぶか。・・・それとも、」 「戯言を抜かすな。」 一護の言葉を遮り、白哉が低く唸るように呟いた。 「私が貴様に背を向けるとでも思うのか。・・・物の本質をも見抜けぬ小僧が、粋がるな。」 「本質・・・?」 『千本桜の卍解には三つの段階があるって話だ。』 一護の疑問に答えるのは脳内の白い彼の声。 しかしその彼でさえも残り二つの姿は知らないらしい。 忌々しそうな舌打ちが聞こえてきて、一護は表情に出さずに苦笑を零す。 (ま、例えどんな姿であっても何とかするさ。むしろ今以上に強くなってくれるならコッチの卍解につり合ってくれるってことで面白くなるだろ?) 長く遊んでいられないのも事実だが、一護は舌打ちした相棒を宥めるかのようにそう告げた。 そして意識を白哉に向け直す。 「何を始めるのか知んねーけど、一撃で決める気で来ねぇと俺はアンタを斬る。」 「ふん・・・ならば見るがいい。」 白哉の声に合わせて刃の群れが決まった形を取り始めた。 その形は―――。 (・・・刀?) 上空に浮かぶ数多の剣。 淡く発光するそれが一護と白哉を取り囲むように姿を現わした。 「これが防御を捨て、敵を殺すことだけに全てを捧げた千本桜の真の姿。―――殲景・千本桜景厳。」 (全部で来られると流石に骨が折れそうだな。) 顔を前に向けたまま視線だけを動かして、一護は胸中でポツリと零す。 ただし負ける気など欠片も無いのだが。 そう思った矢先、まるで一護の心を読んだかのようなタイミングで白哉が言葉を紡いだ。 「案ずるな。この千本の刃の葬列が一度に貴様を襲うことは無い。・・・この『殲景』は私が必ず自らの手で斬ると誓った者にのみ見せる姿。見るのは貴様で二人目だ。」 「そりゃどーも。」 「そして、」 「・・・?」 千本の刃のうち一本を手にした白哉がそれだけでは終わらず、左足を一歩引いて片手での構えを取る。 一撃で決める気で来ねぇと、と先刻自分が告げた言葉を思い出して一護は「あっ」と軽く目を見開いた。 白哉がようやく本気になったのだ。 それはつまり、千本桜の三つめの姿を目にすると言うこと。 一護の視線の先で白哉の構えた刀から純白の光が迸る。 それはまるで、翼のような。 「終景・白帝剣。・・・これで貴様を斬る。」 「・・・いいぜ。来いよ。」 白哉に同調して一護の霊圧も上がる。 可視出来るほどに密度を増したそれは漆黒。 そして、白と黒の霊圧が世界を貫くような音を立てて激突した。 |