フタリノアニ 5











白哉の刀を文字通り突き崩し、そのまま相手の首筋に天鎖斬月の切っ先を宛がって、一護は小さく息を吐いた。

「俺の勝ちだ。・・・だから、このまま退いてくれ。」
「・・・何故だ。何故、止めを刺さぬ。」

数ミリでも動けば刀が喉を裂くという状況で白哉が返す。
静かな声に含まれるのは困惑。
その言葉に一護は「だって、」と口を開いた。

「アンタが傷つくと、きっとルキアは悲しむ。俺はアイツを助けたいだけで、だから嬉し泣き以外で泣かせるつもりは無ェんだよ。」
「悲しむ、だと?」
「義理だろうが何だろうが、ルキアはアンタの妹で、アンタはルキアの兄貴なんだ。当たり前だろ。」
「ッ!」

その言葉に白哉がハッとする。
そして一度ゆっくり瞬きをした後、秀麗な顔に薄らとではあるが初めて笑みを刷いた。

「私は、私の四大貴族としての誇りや、守らねばならない掟を無碍にすることは出来ぬ。ゆえに肉親の情に捕らわれ、当主としての“朽木白哉”を見失うわけにもいかぬのだ。・・・しかし、」

白哉は一歩後ろに下がって一護を見据える。
その黒い双眸に浮かぶ感情を読み取って、一護も刀を下ろした。
シャラリと柄の鎖が涼やかな優しい音を奏でる。

「黒崎一護、兄に刀を砕かれた“私”は最早ルキアを追えぬ。・・・・・・後は頼むぞ。」

告げて、白哉は姿を消した。
瞬歩によって去った彼の霊圧の名残が風に吹かれて双極の丘に舞う。

「・・・後は頼む、ね。素直なのか強情なのか、それとも狡猾なのか。ま、いずれにせよ、そう言われちまうと少しばかり心苦しいかな。」
『それなら無傷で返してやれば良いだけだろ?嬢ちゃん達を。』

白哉の姿を見送ってから苦笑に似た表情を浮かべてそう言う一護へと、白い彼はからかうように言葉を返した。

『何なら、藍染に崩玉を取り出させるんじゃなくて、お前が自分でやるってもアリだぜ?』
「俺、が・・・?」
『おう。どうせ使い方は浦原から聞いて来たんだ。それなら藍染が嬢ちゃんから崩玉を取り出して余計なこと仕出かす前に、お前が奴を伸しちまえば良い。結局、道具が手に入ればそれで充分なんだし。』
「・・・それもそうか。」

元々藍染がルキアから崩玉を取り出した後を狙っていたのだが、内から聞こえる相棒の声に、そちらの方がより安全性が増すかも、と考えを改める。
確かに、藍染が事を終えてからでは不要となったルキアがどうなるのか分かったものではない。
それならば、まだ彼女に危害が加えられぬうちに此方が動いた方がより良いだろう。
頭の中にあった今後の策を幾らか修正して、一護は「よし。」と呟いた。

「んじゃ、余計な芝居はいらねーな。何事もサクッとやっちまえば良いか。」
『そうだな。・・・まあ、だったら卍解は保っとけよ。藍染の斬魄刀の能力は厄介だからな。始解される前に片付けちまった方が良い。』
「了解。俺も鏡花水月の餌食になるのだけはゴメンだ。」

薄く笑って一護は後ろを振り向く。
感じるのは見知った四つの霊圧と、知らない誰かのものが一つ。
此方に駆け寄って来ているそれら五つの影が表情まではっきりと視認出来る位置にまで辿り着くと、一護は片手を上げて彼らを迎えた。

「なんとか無事だったみてぇだな。」

穏やかな声を向ける先は、織姫、チャド、雨竜、岩鷲の四人。
後方にいるもう一人に見覚えが無いのでどうしようもないが、まぁ気にすることは無いだろうと判断して無視する。
相手もそれで良さそうな顔をしていることだし。

「本当に“なんとか”だけどね・・・。君も隊長格相手によくそれで済んだな。」
「相手が良かっただけだって。」

雨竜が安堵を織り交ぜて告げたその台詞に苦笑でもって答える。
やがてその苦笑を収め、一護は皆をゆっくりと見渡しながら目尻を下げて小さく微笑んだ。

「本当に、みんな無事で良かった。」
(誰も失わなくて良かった。)









(・・・あとは全部、俺がやるから。)






















きっともうすぐ終わるから。終わらせるから。

全てを。

(そして、戻ろう。)












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