フタリノアニ 2











「さて、一護。ではまず、具体的に私は何をすれば良い?」
「そうだな・・・。もうすぐ迎えが来るから、とりあえずそいつと一緒に逃げてくれ。」

そう一護が答えた瞬間、下の方から鈍い打撃音と男の呻き声が聞こえてきた。
視線をやれば双極の解放に携わった者達が地面に倒れ伏している。
彼らを足元に転がしてしっかりと立っていたのは、赤い髪の男。
その男の姿を確認した途端、ルキアが彼の名を叫んだ。

「恋次!!」
「っ!?ルキア!!」

恋次も上からのルキアの声に反応して顔を上げる。
見下ろすルキアと見上げる恋次。
互いの無事な姿を確認して、顔には安堵と喜びの色が広がっていた。
だがルキアがハッと気づいて一護の方を見る。
その顔は「まさか・・・」と訴えかけてくるもの。
一護は声に出さず口の動きだけで「ご明察。」と告げ、ルキアに苦虫を噛み潰したような表情をさせた。

「あやつも巻き込むのか。」
「恋次以外に適役はいねーよ。」

先刻、双極まで連れて来られる途中で恋次の霊圧が急激に衰えたのを感じ取っていたルキアは、一護の台詞を聞いて心配そうに眉根を寄せる。
それを見た一護は、しかし大丈夫だとでも言うように口元に笑みを刷いた。

「そんな危ねぇ目には合わせねーから。」
「本当だな?」
「俺を信じろよ。」
「・・・わかった。」

頷いたルキアに一護はニッと口端を上げる。

「んじゃァまあ、」
「い、一護!?」

ぐいと片腕で持ち上げられ、ルキアが焦ったように名を呼んだ。
下方では恋次も瞠目している。
一護が取ったのは物を投げんとする体勢。
それに気付いたルキアと恋次の両名は盛大に頬を引き攣らせながら一護の声を耳にした。

「恋次!受け取れっ!!」

「きゃぁぁぁぁあああああああ!!!」
「馬鹿野郎―――!!!」



がしぃ!ズザァ――・・・



一護がルキアを力いっぱい投げつけ、それを恋次が見事に受け止める。
もし受け止められなかったのなら目も当てられぬ惨事になっていたのだが、一護は「莫迦者!一護、貴様ぁ!!!」「落としたらどうすんだこの野郎!!!」と叫ぶ二人が無事だったことを当然とでも言うように、斬月を肩に担いで視線を向けた。

「連れてけ!!」
「な・・・」
「ボーッとしてんな!!さっさと連れてけ!!」

唖然と見上げてくる恋次をひたと見据えて一護は笑う。

「てめーの仕事だ!死んでも放すなよ!!」
「・・・!」

恋次はハッとし、次いですぐさまルキアを抱えて走り出した。
とにかく此処から離れるように、と。

その姿を確認した後、一護は恋次達を追いかけようと飛び出した三人の副隊長達に目を留める。
二人を逃がした一護には今此処でそれを無駄にされるつもりなど毛頭無い。
瞬歩で副隊長達の正面に移動し、不要とばかりに斬月を地面に突き刺した。

「邪魔だァ!!!」

行く手をさえぎる一護へと二番隊副隊長が吼える。
そしてその声が合図であったかのように三人は己の斬魄刀を抜刀して始解を叫んだ。

「奔れ!!凍雲!!!」
「穿て!!厳霊丸!!!」
「打っ潰せ!!五形頭!!!」

一瞬で姿を変える三本の斬魄刀。
真の姿を現わしたそれらに対し、一護は呼気と共にフッと笑って拳を握る。
そして向かってくる彼らに一歩踏み込み、

「遅ぇよ。」

静かな呟きが本人以外に届いたかどうか定かではない。
理由は、呟きと同時に一護が三人の副隊長を伸してしまったから。
最も体格の良い一人に拳を、残り二人には手刀を一撃ずつ打ち込み、弾き飛ばされた彼らに視線をやる間も無く、一護は次いで斬月の柄を握る。
その瞬間。



ガン!!



「だから、そんな程度じゃまだまだ遅ぇって言ってんだよ。朽木白哉!」

瞬歩を用いて攻撃してきた白哉の剣戟を受け止め、一護はニィと口元を歪ませた。
そんな一護の表情を見た白哉はほんの僅かに眉根を寄せると、斬魄刀を合わせたまま「・・・何故だ。」と問う。

「何故貴様は、何度もルキアを助けようとする・・・!」
「こっちが訊きてぇよ。アンタはルキアの兄貴だろ?なのに、なんでアンタはルキアを助けねぇんだ!」

一護の問い返しに白哉は再び気付かぬほど小さく表情を変える。
しかしそれも一瞬の間だけ。
短い沈黙の後、白哉が再び口を開いた。

「・・・下らぬ問いだ。その答えを貴様如きが知ったところで、到底理解などできまい。」
「ははっ!そう来るか。」
「無益な問答は不要だ。―――――いくぞ。」

一護のからかいの声には聞く耳持たず、白哉が打ち込んできた。
それを難なく斬月で弾き返し、一護は彼から距離を取る。

「ほんっと。難儀な兄貴だぜ。」

“四大貴族の当主”と対峙し、一護は呆れるように呟いた。
その声に僅かな悲しみを滲ませながら。






















「ルキアの兄」ではなく「朽木家当主」として。

それはたぶん悲しいこと。












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