シロキウツロ 3











「今日のところはこれで終わりみてーだぜ。」
「は?・・・ああ。夜一さんの霊力が切れかかってんのか。」

具象化のために送られてくる力が弱まってきたのを感じて“斬月”は刀を降ろした。
それに倣って一護も立ち止まり、次いで夜一がいる小山へと視線を向ける。

「つーか、もう一日経ったのか。」

早ぇなあ、と呟く一護に白い影は苦笑し、送られてくる力が完全にゼロになるのを待った。


「じゃァな、相棒。しっかり休んどけよ。」
「お気遣いどーも。」

“斬月”に向き直り、一護がそう告げた直後、フッと持っていた刀の重みが消え、 そして目の前の白い己の似姿も元の人形へと戻った。



「一日目、終了じゃ。」

高い位置で括っていた髪を解きながらそう言って、夜一は一護の前に姿を現す。
そして、あちらの岩陰に温泉がある・と、血やら汗やら砂やらで汚れた一護に笑いかけ、その方向を指差した。















「ふー・・・温泉か。こんな隅の方にそんなもんが湧いてるとは思わなかったなぁ。 考えてみりゃ、俺、温泉入んの初めてだ。」
「そういやそうだったか。」
「おう。あ゛ー気持ちいい・・・」
「良かったな。」

地下空間の隅に存在する温泉に浸かり、一護はグイっと手足を伸ばす。
近くにある少し大きめの石の上には――いつの間に現れたのか――白い死覇装姿の相棒。
その姿を視界の端に入れ、道理で声が外から聞こえてくるわけだ・と納得し―――。



「・・・おい。」
「どうかしたのか?一護。」

相棒をしっかりと視界に収め直し、疑問の声を発した一護にその白い本人は何でもない風に訊き返した。

「いや、ちょ・・・お前。なんでそこに居んの。つーか具象化出来たんだ?」

転神体を用いたわけでもないのに、その場には白い相棒の姿が確かに存在していた。
問うてくる一護に白い彼はYesと答え、

「斬月さんが出来るんだから俺も出来て当然だろ?」

と言い放つ。


「ふーん。じゃあ“初・自力で具象化”?オメデトサン。」
「うわぁ心がこもって無ぇ。 それにこういう時って普通、出てきた用件とか何で今まで出てこなかったのかってのを訊くモンだろ。」

斬月さんが出来るんだから〜という台詞にそんなものかと思い、早々にこの温泉を満喫する行為に戻った一護。
それに対し、白い彼はガクリと肩を落として“己より温泉”な相棒に恨めしげな視線を送る。
しかし、ふと何かに気づいたように顔を上げると突然その姿を消した。

何も言わず視線の端から消えた白い影に一護は精神世界へと戻ったのかとも思ったが、どうにもその様子がない。
具象化ついでにどこかへと行ってしまったのか。
そう気になってしまいつつも、普段から己の保護者を名乗る人物に対して心配する必要もないか・と思い直し、 一護はずるずると湯の中に身を沈めた。















「・・・で、アンタは俺達に一体何の用だ?元隠密機動第一分隊、刑軍軍団長閣下。」
「気づいておったか・・・」
「俺は一護より鋭いからな。」

一護とそして白い姿をした彼の相棒を岩陰から盗み見ていた夜一の背後に、 たった今消えた筈の白い死覇装姿が現れていた。
突然のことに一瞬体が強張るが、それを隠して夜一は振り返る。

白い髪、白い肌、白い着物。
自身のことではない「誰か」を斬月と呼び、しかし斬魄刀でないにも関わらず転神体で具象化できる存在。
その顔にうっすらと浮かべられた笑みは己の優位を確信しているためか。

「他人の風呂覗くなんざ、あまり趣味がいいとは言えねぇぜ。」
「協力者に嘘をつくのもあまり趣味がいいとは言えんがな。」
「嘘、ねぇ・・・。確かに俺は“斬月”じゃァねえけど。」
―――同じ一護によって生み出されたモノだし。

そう付け足された台詞に夜一は金色の目を眇めた。

「おぬしは・・・おぬしらは何者じゃ。」

少々異例ではあるが黒崎一護は死神で、自分を含めた周りもそう認識していたのに。
共にいる時間が長くなればなるほど「ありえない」「信じられない」という思いが湧き上がってくる。
そして決定打はこの目の前の人物。
死神が斬魄刀以外の何かを具象化させるなんて聞いたことがない。

「言え。一体何者なのか。」

不信感を抱いたままこれ以上の協力をするわけにはいかない、と。
夜一は睨みつけるように眼光を鋭くし、静かにそう問うた。

回答は迷うことなく返される。

「一護は人間であり、死神だ。これは確かに。そして俺は・・・」

そこで言葉を一旦句切り、白い死覇装姿の彼は表情を全て消し去った。



「俺は、アイツから生まれた“虚ろ”だ―――。」






















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