「ここで傷の治療を行う。」

そう言って夜一は一護を床の上に下ろした。

「だから!俺はもう大丈夫なんだっての!頼むから早く服を着てくれ!」

なるべく夜一を見ないように横を向いたまま、一護は必死に告げる。
死神をやっていようが自分はれっきとした男子高校生であり、そういうものに赤面してしまうのも当然のことだ・と、 胸中では赤くなった顔の言い訳も。












ヨソウガイノデキゴト 2











「これで良いか?」
「・・・ああ。」

ようやく着てくれたか、と一護は些か疲労感を漂わせながら頷いた。
人型に戻ってから裸身だった夜一は動き易そうな服を着込み、「すまんすまん。」と苦笑する。

「服なんぞ久しく着ておらんかったものじゃから、ついの。」
「“つい”でまっぱは止めてくれ・・・」
「ホレ。次はおぬしの番じゃ。傷を見せい。」

一護の呟きを無視して夜一は傷を診るために手を伸ばした。
それに気づき、一護が「いや、だから・・・」と口に出す。

「傷はもう塞が・・・「なんじゃおぬし。傷が無いではないか。」
「だからそう言ってんだよ。」

乾き始めた血液が付着しているだけで肝心の傷口が何処にも見当たらないことに夜一が目を丸くする。
そんな彼女に一護は不貞腐れるようにそう告げてそっぽを向いた。

「まったく・・・」
「それは儂の台詞じゃ。心配して損したぞ。」

横を向いてしまった一護の顔を見つめ、夜一は深く息を吐き出す。
自分も血を流す一護の姿を見て、らしくも無く些か気が動転していたことは認めるが、 それでも・と思うことはあるのだ。

「おぬしがもっとはっきり言ってくれれば儂も勘違いせずに済んだと思うのじゃが?」
「・・・わ、悪かったよ。」
「なんだ。いきなり素直になりおって。」
「ウルセ。」

夜一のからかいを含んだ物言いに一護は短く吐き捨てる。
『心配して』という台詞の所為で確かにすんなりと言葉が出てきてしまったが、そこは指摘しないでいて欲しい。
ちらりと横を見ればニヤニヤと笑い出した夜一。
居心地の悪さに一護が「笑うな。」と言おうとした、その時―――


「・・・っ!これは朽木白哉!?」
「懺罪宮の方か!!」

感じたのは圧倒的な大きさの霊圧。
抑える様子のないそれに混じって伝わって来るのは殺気か。
気づいた一護があからさまに舌打ちして表情を歪める。
今は懺罪宮に花太郎と岩鷲が到着した頃だ。
あの二人が白哉と鉢合わせしたことによりこの状況になっているのだとしたら―――

(あいつらが危ねぇ!)

「夜一さん。俺、行って来る!」
「待て一護!!」

夜一の制止を振り切り、一護は瞬歩で部屋を後にする。



「莫迦者が・・・!」

そのスピードに目を見張りながらも、飛び出して行った一護に向けて夜一はそう毒づいた。














(・・・・・・居た。)

四深牢と懺罪宮内の他の塔を渡す橋の上に人影が五つ。
右から岩鷲、白髪の隊長――浮竹十四郎だろう――、白哉、ルキア、花太郎。

血まみれで倒れている岩鷲の姿に眉を顰めた後、一護は白哉からルキアと花太郎を護る様に二人の前に降り立った。


「・・・っ!一護さん!!」

一護の姿を認め、花太郎が駆け寄る。

「大丈夫か花太郎。・・・悪ィ。先に行かせて逆に怖い目に遭わせちまったな。それに・・・」

花太郎から岩鷲へと視線を移し、眉根を寄せる。

「岩鷲も・・・」
「そうなんです!岩鷲さんが朽木隊長に―――!」

自分も白哉の霊圧に当てられて辛いだろうに、それでも重症の岩鷲を気にかけて、 花太郎は一護に此処で何があったのかを説明しようとする。
しかし、それを遮るようなタイミングでルキアが声を発した。

「・・・い、ちご。」
「ルキア・・・」

その声に一護は顔を向ける。
一護が浮かべていたのは微苦笑で、ルキアは苦しそうに顔を歪めた。

「何故、来た・・・」
「え?」

驚きに目を丸くしたのは一護ではなく花太郎。
ルキアを助けるために一護も、岩鷲も、一護と一緒に来たという現世の人々も、そして自分も頑張ってきたというのに、 その本人から拒絶されるなんて。
しかし花太郎は知らないが、ルキアには拒絶するだけの理由があった。

生きていてくれたことは純粋に嬉しい。けれど。


「何故、私なんかを助けに来たのだ・・・!」


貴方の事がバレてしまうのに。

一護と、その本人から教えてもらったルキアだけが知っている秘密。
死神としても人間としても、あまりに特殊な存在である一護のことが尸魂界に知られたら、 彼は一体どうなってしまうのか。
一護自身がよく解っている筈なのに如何して来てしまったのだ、とルキアは顔を伏せた。


「バーカ。」
「・・・は?」

苦しさに胸を満たされてしまったルキアに向かって軽い声が放たれる。
呆れているような、笑っているような声に、ルキアは顔を上げ、 声と同じく微妙な表情を浮かべている一護の顔を見つめた。

「ば・・・バカとはなんだ!」
「バカだよ、オメーは。俺がなんで“そう”だったか、お前も知ってる筈だろ?」
「・・・あ。」

一護が自分の存在を隠したがっていたのは余計な制約を受けないため。
それは・・・人を、護るため。

ハッとしたルキアの表情を見て、一護はニッと笑った。

「目的と手段を間違えるつもりは無ェよ。・・・ルキア、俺はお前を助けるぜ。」
「一護・・・!」

ルキアの声に含まれていたのは、それでも残る苦しみと、そして大きな歓喜。
表情にも明るみが増し、きゅっと寄せられていた眉根も緩む。
しかし、ふわりと漂う異臭に気づき、ルキアはその発生源を見て息を呑んだ。

「一護!?この傷は・・・!!」
「ああ・・・これは大丈夫だから。」

わき腹の事を言ってくるルキアに一護は苦笑する。
そして心配そうな彼女に、もう治っているのだと告げようとするが―――


「白哉・・・。あれは誰だ?」

初めて聞く声に口を噤んだ。

「無関係だ。」

声の主、浮竹十四郎への答えは硬質な響きを持っていた。
前を見据え、背後の浮竹には目を向けぬまま、白哉は静かに続ける。

「―――少なくとも、今、兄の頭を過った男とはな。奴は何者でもない。ただの旅禍にすぎん。 私が消して、それで終わりだ。・・・この些細な争いの全てが全て終わる。」






















一護、邪魔されるの二回目。











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