剣八と戦った後、一護はその場を動かずにじっと佇んでいた。
花太郎と岩鷲、先に行かせたその二人を追いかける素振りなど少しも見せぬまま。












ヨソウガイノデキゴト 1











ルキアを助けるため、今もあの二人は足を動かしているのだろう。
けれどそれによって開いた距離は一護の力を持ってすれば無いに等しい。
つまり、今からでも簡単に追いつける。
普通ならすぐにでも追いつき、そしてルキアを四深牢から救い出すべきなのだろう。
―――ただ、それはルキアが捕らえられている“だけ”の場合である。
その魂魄に崩玉という爆弾を埋め込まれている彼女を全てにおいて解放するには、“今”は時ではないのだ。

「あいつら捕まっちまうんだろうなぁ。」

牢屋を見張る者にか、それともまた別の誰かにか。ルキアを助ける前か、ルキアを助けた後か。
それは分からないが、自分がこのまま手助けしに行かなければ、 おそらく二人とも護廷の死神達に捕らえられてしまうだろう、と一護は思う。

別にそれはいい。
今は“その時”ではないのだし、元々、花太郎と岩鷲にルキアを助け出せるとは考えていなかった。
ルキアを助けに行ってくれ・と言ったのは本当に助けに行かせるためではなく、 彼らが一護と剣八の戦闘に巻き込まれるのを防ぐためだったのだから。
死神に捕まっても殺されたり酷い怪我を負うような事態にはならないだろう。
しかし、先程の自分達の戦いに巻き込まれてしまっていたら・・・

瓦礫の山と化した周囲を見渡して一護は苦笑を浮かべる。
もし巻き込まれていたなら、彼らは怪我どころの話ではない筈だ。
また二人が捕まってしまえばそれを助けるために時間を割くことになり、 一護の望む“時”が来るまでの暇潰しにもなる。

それじゃあ二人が捕まってしまうまで何をしていよう、と考えていた時、 一護は見知った気配――それもかなり薄い――が近づいて来るのを感じた。

(これは・・・)

「一護。」
「・・・夜一さん。」

一護の前に音もなく現れたのは漆黒の毛並みを持った猫。
金色の双眸がひたりと一護に向けられ、それはある一点に固定されると途端に険しく狭められた。

「その傷は・・・!」
―――更木剣八か。

夜一が目を留めたのは一護の脇腹付近。
そこは死覇装が破れ、中の白い襦袢がべっとりと赤く染まっていたのだ。
一瞬の隙を衝かれた、剣八からの一撃。
それを思い出し、一護は苦い笑みを作る。

「ああ。ミスった。でももう大丈・・・」
「何をしておる!早く治療せぬか!」
「へ?」
『血みどろだからだろ。』

まだ乾いていない、しかも大量の血液に、夜一は傷が塞がっていないのだと勘違いしているのでは?と、 白い彼が告げる。
一護もそれに「なるほど。」と思うが、その間にも夜一はズンズンと近づいて来て怒った様な声を出した。

「まったく!世話の焼ける。」
「いや、これは違・・・っな!?」

誤解を解こうとする一護の目の前で黒猫の体がメキメキと異様な音を立てながら変形を始める。
そして黒猫の姿は消え去り、代わりに一人の女性が立っていた。
黒髪金眼、褐色の肌。
それは四楓院夜一、本来の姿。
一護もそれは知っていた。夜一という名の金眼の黒猫が四楓院家の姫君であるということを。
だから変身したこと自体に対し、驚いた訳ではないのだが。


「ちょっと待てぇぇぇぇぇえええ!!」
「黙っておれ。」

耳まで真っ赤に染まった一護を夜一は構わず肩に担ぎ、 何処からとも無く取り出した翼のついた奇妙な道具を腕に巻きつけると、大空へと高く飛翔した。

「叫ぶと傷に障るぞ。」
「そうじゃねぇよ!そうじゃなくて・・・!」


頼むから服を着てくれっ!!!


裸身の美女に担がれ、一護はめいっぱい叫んだ。






















初心一護。











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