「おー・・・なんか喋りながら歩いてるだけで、けっこー時間たってんな。」

6人揃って土手を歩き、ふと見上げれば、すでに空は朱色に染まっていた。












ツカノマノナツヤスミ 2











呟いた一護の後ろでは竜貴と啓吾が花火会場のことで色々話している。
本日の会場は小野瀬川。今歩いている道のすぐ横を流れている川だ。
ただし打ち上げは川向こうの市立グラウンドらしく、もっと進まなくては花火がきれいに見えないという。
ところが竜貴は、

「えー・・・なんかもう、このへんでいいじゃん?あんま近いと出店とかで人多いし。」

との理由で腰を下ろしてしまった。

(あー、確かに。)

進んで人ごみに揉まれたいと思うタイプでもなく、一護も声に出さず賛同する。
しかし―――

「それが若者の言うことかァ!!」

どうやら啓吾曰くそういうことらしい。


(・・・・・・俺って年寄り思考なわけ?)
『いんや。性格の違いだろ。』

一護が頭の中で会話している間にも啓吾の熱はぐんぐん上昇しているようで表情が物凄いことになっている。
終いには花火大会の何たるかまで語りだす始末。

「花火大会ってのはお祭りだぞ!!花火に大騒ぎ出店に大騒ぎ、女子の浴衣は鼻血!!これこそが花火大会の神髄だ!!なのに 大体何だオマエらは!?花火大会だっつッてんのに私服で来やがって!!やる気あんのかコラァ!!」

悔し涙とでも言うのであろうか。女子二人を指差した啓吾は叫びつつ涙を流している。
久しぶりに会った友人のテンションの高さに空笑いしつつ、一護はその様子を眺めやった。

「・・・しばらく見学すっか・・・」
「そうだね・・・」

チャド・水色と共にいくらか離れた所で立つことにする。
その先には叫ぶ啓吾、そしてサラリと受け流す竜貴。

と、一護は遠くからかなり高めの霊圧の持ち主が近づいてくるのを感じた。

(・・・夏梨か。)

一護自身を除く肉親の中で最も強い霊圧を帯びている妹。
そしておそらく、一護の影響を受けて力が増してきている者の一人。

(それに遊子と親父もいるじゃねぇか。)

遊子は元々幽霊はほとんど見えず、霊圧は高くない。
そして一心は――何かに抑えられているのかどうか知らないが――霊圧がほとんど感じられない。
ただしよくよく気をつければわかるもので、夏梨の霊圧に気づいて意識を研ぎ澄ませば感知することが出来た。

そのまま一護が思考の淵に沈みかけた時、啓吾がこれ以上無いというくらい感情のこもった大声を上げた。

「有沢はともかく井上さんの浴衣は見たかったー!!」

「そのとーり!!!」
(オイ。)

叫び返してきたのは間違いようもなく一心の声。
驚きはしなかったが呆れてしまった一護は、内心つっこんでから下駄の音がする方向を見た。
一心・夏梨・遊子が走ってやって来る。
勢いを緩めることなく三人はどんどん近づいてきて―――・・・

「おにーちゃーん!!」
「一護ォー!!」
「一兄ぃー!!」

「・・・え?」



激突。



そしてギャーという一護の叫び声を残し、黒崎家四人は川原の方に転落。
それを上から残りの五人が見下ろす格好となった。





(あっぶねー・・・)

とっさに妹達を抱き込んでいた一護は石と草が混ざる所で動きを止めた後、二人が無傷であることを確認しホッとする。
しかし自身の上に乗ったままの彼女達の様子がどうもおかしい。

「ほらほら、おにいちゃんもチョコバナナたべなよー!おいしいよ!はい、あーん!!」
「あーん!!」

兄の上に乗ったままチョコバナナを勧める遊子。
その横でやけに陽気な夏梨。

「い、いらねえよ!てか何でオマエら隣の市の花火大会に来てんだよ!?」
「なによう!あたしのバナナが食べられないってゆうの!?」
「ボリュームがでけえよ、ボリュームが!!何なんだオマエ、酔ってんのか!?」

妹達の様子を見てそう言えば、横から一心が一言。

「酔ってるぞ。」
「なんでだよ!?」

即座に一護が叫ぶ。

どうやら顔見知りの八百屋のオヤジがやっている出店で酒入りのジュースを飲んでしまったらしい。
わかっていて止めなかったであろう一心にその話を聞いていた各々がつっこむが、本人は無視。
そのまま話は流れていって、一心たちが朝から場所取りに行っていたという特等席に移動となった。

一心を先頭に夏梨、遊子、啓吾、水色、チャドが走り出す。
それを呆れつつ見送って一護は溜息をついた。

「相変わらずだねー、一心さん。」
「まあな。・・・少しくらい変わってくれてもいいと思うんだが。」
「いいんじゃないの?あれで。」

竜貴の台詞に一護は肩をすくめ、それから織姫に顔を向ける。

「悪ィな、井上。驚いたろ?あんな親父で。」
「ん〜・・・ビックリしちゃったけど元気があって良いお父さんだと思うよ。」
「そっか?」

そう言った一護の目の前を一匹のトンボが通り過ぎた。

「秋茜・・・?」

鮮やかな赤色を纏ったそれ。
周囲を見渡せば随分と暗くなってきた空にたった一匹だけ飛んでいる。

「めずらしいね。こんな時期に秋茜なんて。」

動いては止まりを繰り返す秋茜を視線で追いかけ、織姫が零す。
そのとなりで竜貴も「うん。そうだね。」と同じように佇んでいた。

色々と場所を移動していた秋茜が再びスーッと一護の方に飛んでいく。
彼女達の視線もつられて移動し、そしてその先では一護が手を伸ばしていた。
空に向かって伸ばされた腕。
さらに人差し指だけを緩く立てて一護はじっとしている。

秋茜が一護の指先に止まった。

「お。止まった。」
「く・・・黒崎くん、すごーい!!」
「一護、やるねぇ・・・」

織姫と竜貴の声に一護がそちらを向く。
そのままゆっくりと手を動かして近寄ってきた二人の目線の位置に秋茜を移動させた。
一護の指先でじっとしている秋茜。
その様子を見つめ、織姫は軽く目を伏せた。

「・・・あたしのお兄ちゃんも、秋茜を指に止まらせるのが凄く上手だったの。 あたしそれが魔法みたいで大好きだった。だからあたしも、そんなのがやりたくて・・・でも、なかなか。」

「織姫・・・」
「井上・・・」

織姫の台詞が過去系である意味を知っている一護と竜貴はそろって沈んだ顔をする。

「や、やだなぁ二人とも!そんな顔しないでよ!ねっ!たつきちゃんも黒崎くんも!!」

二人の表情の変化に気づいた織姫が取り繕うように大きめの声で明るく言った。



「井上。」
「何?黒崎くん。」

一護が織姫の前に手を差し出す。その指先には秋茜。

「指、出してみろ。」
「え・・・こ、こう?」

織姫が言われた通りに右手の人差し指を伸ばした。
その指先のすぐ近くで一護が軽く指を振れば―――



「うわー・・・」

一護の指先から飛び立った秋茜が今度は織姫の指へ。
指先で秋茜が止まるくすぐったい感触を受けながら織姫は目を輝かせる。



「ナイスフォロー、一護。」
「どういたしまして。」

織姫に聞こえないようにこっそり竜貴と言葉を交わし、一護はクスリと小さく笑った。






















このあと白一護に『キザなヤツー!』ってからかわれるんですよ。きっと(笑)















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