隠し合いはもうお終い。
あんたが知ってたのも俺は知ってるし、だから俺が知っているということをあんたに知って欲しい。 知ってただろ?俺が死神だということ。 でも知らなかっただろ?俺が、あんたが死神だと知っていることを。 これはちょっとした「けじめ」なんだと思う。 だって、これから俺はこの空さえ繋がらない世界へ行くのだから。 ツカノマノナツヤスミ 3
「く、くそっ・・・」
満月が輝く空の下、一護は酔っ払ったまま寝てしまった妹達を背負って夜道を歩んでいた。 「なんだって俺がこんな・・・」 (スッゲー不平等だ。) 隣には左右の手に酒瓶と拳銃型の玩具を持った一心。 どうにもその身軽そうな様子が視界に映ると、両腕と腰にかかってくる重量が余計に重く感じられていけない。 「まーまーいいじゃないか。たっぷり感触でも楽しめよ。」 嫌な予感のする父親の言い様に一護の眉間の皺が深くなった。 一心は気づかず――あるいは気にせず―― 一護に耳打ちする。 「なんせ浴衣の下はノーパンですぜ☆」 「娘に何させてんだ、てめぇは!?」 一護が即座に怒鳴り返した。 『おいおい。霊圧まで上げんなよ。』 (親父が悪い。) 怒鳴り声と共に些か霊圧まで上げてしまった一護に白い彼が声をかければいじけた様な反応が返される。 どうやら意図してのものではないらしい。 ついつい霊圧を制御し損ねた自身を恥じている一護が可愛く思えて相棒は小さく笑い声を立てた。 『くっ・・・はは。左様で。』 それが余計に羞恥を煽り、一層きつくなる一護の目つき。 ギンッと音がしそうなくらいきつくなった息子の視線を受けて一心が泣き真似までしてみせる。 「じょ・・・冗談だよ。冗談。そんなコワイ顔しなくてもいいじゃんよ・・・」 「・・・・・・・・・ったく。」 一心の様子に一護はそう短く吐き捨てて数歩先へと進んだ。 自分たちの周りにあるのはコンクリートの塀と所々に立っている街灯。 それに僅かにだが未だに昼間の熱を溜め込んでいるアスファルト。 妹達は兄の背で寝息を立てている。 実質的には父親と二人きりの状態で一護はゆっくりと口を開いた。 「―――・・・親父。俺、また一週間ぐらいしたら出かけるから。今度は夏休みの終わりまで帰ってこないと思うけど・・・」 「おっ!?なんだなんだ一人旅か!?いいねえ!旅先でかわいいコ見っけたら紹介しろよな!!」 (本当にウチの親父は演技が上手いのかそれとも天然なのか・・・) 振り返ればまさに“父親”の顔をした一心。 それが嬉しいようなもどかしいような。 なんとも言えない気分になり、一護は無言で自分の父親を見た。 「・・・・・・・・・・・・」 「お、何だ何だ?"いない間ウチの事が心配だ"ってカオか?そりゃ。」 一護の表情をそういうものとして取ったのだろう。 ウインクまでして一心が自身をビシィッと親指で示す。 「ウチの平和ならまかしとけ!父ちゃんがいる限り「違ェよ。」 「へ?」 一護は前に向き直って歩き出す。 一心はそんな息子の様子に戸惑って一瞬呆けたが、すぐに立ち直ってその後を追った。 父親が付いて来ているのを感じ取って一護は言葉を紡ぐ。 「家の事は心配して無い。親父・・・アンタがいるし、それに・・・」 「ん?」 一護は少しだけ口ごもり、意を決したように再度口を開く。 「・・・それに、浦原もいる。」 「浦原・・・?誰だそれは。」 父親の言い様に一護は苦笑。 「とぼけなくて良いって。ちゃんと教えてもらったから。」 『俺にな。』 (まぁね。) おそらく今の状態ならば一心は自分の息子が浦原から話を聞いたのだと勘違いしているであろう。 それをあえて訂正せず頭の中で短い会話をして少し深めに息を吸う。 「・・・一護・・・」 一心に名を呼ばれ、しかし振り返ることなく一護は続けた。 「ルキアを助けて崩玉もちゃんと持って帰って来る。 俺だってアレがどんなに危険なものか知らないわけじゃないからな。」 「・・・・・・」 「大丈夫だって。ヤバくなったらちゃんと逃げるし、それに一緒に行く仲間だっている。」 一護が言い終わるとその後ろで一心は「そうか・・・」と嬉しそうに微笑んだ。 「知らん間に随分と成長しやがって。」 「育ち盛りだからな。」 「よく言う・・・」 隣に並んだ一心を横目で確認し、一護は彼に問いかける。 「そんじゃぁさ。息子の成長祝いに一つお願いがあるんだけど?」 「いいぜ。俺に出来ることなら何だって叶えてやらァ!」 どん!と胸を叩く父親に一護の目はきらりと輝いた。 そんな一護の表情を見て一心が固まる。 表情筋は笑みの形をとっているが、目がちっとも笑っていないのだ。 「あー・・・一護?」 呼びかけは無視。 一護がその表情のままサラリと告げた。 「一発殴らせろ。」 「・・・・・・・・・Why?」 「いくら仕方なかろうが世界のためだろうが遊子と夏梨に怪我させたんだぜ? そこら辺はしっかり責任を取るというか罰を受けてもらわないと。」 ―――もちろん浦原にも先に一発喰らわせて来たし。 ニッコリと音がしそうなくらいイイ表情で笑う息子に一心の顔が引きつった。 今度は意図的に一護の霊圧が上がる。 父親だからといって手加減はしないらしい。 ぎゅっと握り締められた拳にははっきりと筋が立っていた。 「歯ァ食いしばれっ!」 その夜、妙に鈍い音が一発だけ静まり返る住宅街に響き渡ったという。 |