「十日間、お疲れ様でした。」
「おう。アンタもな。」 十日間の勉強会もとい手合わせを終え、一護は自宅に戻ってようやく学生らしく夏休みを謳歌できるようなった。 ただしそれは、浦原が穿界門を作るまでの、ほんの少しの間だけ――― ツカノマノナツヤスミ 1
「おーかえりィー!!!」
八月一日。空は目に痛いくらいの蒼。 その下で浅野啓吾は友人達を大声で迎えていた。 「待ちわびたぜ、一護!!一人で遊ぶのは淋しかったぞォ!!」 「ありがとよ。」 滝のように涙を流して抱きついてくる友人に一護は容赦なく蹴りを送る。 ズドンと鈍い音がして一護の右足は吸い込まれるように啓吾の顔面にヒット。 「手厳しい!!」 そう叫ぶだけに終わった啓吾は慣れ故だろうか。 「ただいまー僕も帰ってきたよー!一人で遊ぶのは淋しかったかい?ケイゴ!」 続いて現れたのは小麦色の肌にアロハな少年、小島水色。 その日焼け具合から予告通り南国リゾートを満喫してきたことがありありと推測された。 「うるせえ外国かぶれが!!てめーなんか塩でも喰らえ!!」 「ああッ!しみる!!プーケット焼けにしみる!!」 そう言って大げさな動作で塩をかける啓吾とあえてそれを受ける水色。 「おみやげだって持ってきたのにィ。」 「ヤシの実なんかいるかァ!!・・・いや、丁度いい!てめーのアタマで割ってやらァ!!」 塩自体何処から取り出されたのか不明だが、さらに水色の手にはヤシの実なんぞも出現していて。 ますますヒートアップしていく二人を少し驚きつつ眺め、一護は他の友人達がやってくるのを待っていた。 今日は花火大会。ただし現時刻は午後三時。 メンバーが揃うのはもう少し後のようである。 啓吾と水色の漫才も収束し、今度は花火大会に行こうと集合をかけた本人――啓吾だ――が 友人たちのいなかった夏休みをどのように過ごしていたか涙ながらに語っていた。 (お。みんな来たのか。) 一護か感じ取ったのは、よく見知った者たちの霊圧。 ただ、やはり己のせいか。全体的にその濃度が高くなっていた。 加えてこの十日間、おそらく夜一に訓練してもらったのだろう。 特に織姫とチャドには目を見張るほどの成長が伺えた。 一護の内心の変化など知るよしもなく、啓吾は未だ騒ぎ続けている。 と、その背中をこれまた鈍い音と共に蹴りつける足が。 「ジャマ!!」 「ぐふぁ!!」 蹴った仕草のまま「よっ!」と左手を上げて挨拶したのは有沢竜貴。 その後ろに井上織姫と茶渡泰虎。 一護が感知したとおりの3人であるが・・・ 「たつき!?オマエどうしたんだよその腕!!」 竜貴の右腕はギブスで固められ首から吊り下げられていた。 「あーこれ?これはね・・・」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「「「準優勝ォ!?」」」 織姫とチャドは前に聞いていたらしくそうでもなかったが、 竜貴のインターハイの成績を知って、一護たち三人は大声を上げた。 「じゅ、準優勝って・・・インターハイで2位ってことか・・・?」 (・・・1位じゃないのか。) 『そんなこと考えんのはお前くらいだよ。普通は2位まで行ったのかって驚くもんだぞ?』 啓吾や水色とはズレた所で驚いた一護に対し、白い彼は溜息混じりに呟く。 「そーよ!やってらんないっての!このケガさえなけりゃ優勝できたってのに!」 「しかしオマエの腕を折るなんてな・・・一体どんなバケモノと試合したんだよ。」 幼馴染の強さを知っている一護としては――女性に対しては失礼かもしれないが――竜貴に怪我を負わせるような 強い女子高生がいるとも思えず、ついついバケモノなんぞと揶揄ってしまう。 しかしそうではないらしい。 「あー違う違う。」と左手を振って竜貴が告げる。 「試合じゃないんだコレ。準々の後ジュースを買おうとして車にハネられたの。 で、その後なんとか準決勝の相手は左腕一本で倒したんだけどね。決勝の相手がゴリラみたいな女でさー・・・」 「へぇ・・・納得。ホント惜しかったなぁ。ハネられてなかったらマジで優勝だったのに。」 「でしょー?」 怪我さえなければそのゴリラのような決勝の相手に勝てていたこと前提で話す幼馴染な二人。 それを啓吾と水色が青ざめて見ていたのを一護達は知らない。 |