「これは・・・オレンジ頭がスゲーのか?」
自分達の店の店長に劣らぬスピードで移動し剣を振るう一護を見ながら ジン太は横にいるテッサイに呟くように問うた。 「でしょうな。どちらも瞬歩で戦っていらっしゃいますし。」 あの浦原が大幅な手抜きをしているわけでもないのに 充分すぎるほどその動きについていける一護をなんとか視界に捉えながら、テッサイはそう返す。 あまりの速さにときどき自分達ですら見失ってしまう二人の影。 剣を打ち合わせたときの甲高い音がその残像を捉えるよりも数瞬あとに聞こえてくるという体験をしながら 浦原商店の店員三名はやや緊張気味にこの勉強会を見守っていた。 センセイトセイト 2
「おお。スゴいっスねぇ、黒崎サン。」
「そんな余裕の態度で言われても全然嬉しくねーよ。」 一応は斬魄刀の名を呼び始解の状態で戦っているが、あとは瞬歩を使う以外ほとんど実力を出していない浦原の様子に眉間の皺を深くしつつ、一護は吐き捨てるように応えた。 (コイツは力の出し惜しみするし、さらに俺は俺で頭がどうもスッキリしねーし。なんだかなぁ・・・) 相棒の扱きによる精神的疲労にさらに瞬歩の多用による肉体的疲労も重なりだして 一護の表情には徐々に不機嫌さが追加されていく。 愚痴のような思考も増えだす中、なんとか戦いに集中しようとするが、 そうすると次は己の感覚の不透明さが強調されて更に愚痴が頭の中に浮かんできた。 (マジで一太刀浴びせるぞ。) ついつい不穏な空気を纏いそうになるが、それをとりあえず抑えつつ、 一護は右方向からやって来た紅姫を縦に構えた斬月で受け流し、そこからひるがえして真正面の浦原に突きを放つ。 ドゴォという轟音がして、浦原が立っていた所からそのすぐ後ろの岩までが一瞬にして崩れ去った。 「うわー・・・今のってチョットやりすぎじゃありません?」 声は背後から。 一護はそれを見越していたかのように素早く振り返り、その勢いと共に斬月を旋回させる。 そして、斬月の切っ先に掠め取ったのは深緑の布切れ。 「おしいな。」 「恐いっスよ。その言い方。」 淡々と呟かれた言葉に浦原は口元を引きつらせた。 バックステップで距離をとる浦原に、一護も素早く後を追う。 そして――― 「アンタ、それくらいで俺を引き離せるとでも?」 ひそりと放たれた声。 浦原の眼前には一対の琥珀。 「なっ!?」 (その驚いた顔も演技なのか?) 帽子の影から覗く瞳が大きく見開かれたように見えた一護は、ほんの僅かに眉をしかめて右手に持った斬月を突き出す。 髪の毛の数本でも持っていってやろうかと思い、一護が突き出した斬月は狙い通り浦原の左頬のすぐ脇を掠った。 パラッとくすんだ金色が飛び散る。 と、その時。 疲労の溜まり過ぎか、突然一護の意識がぶれた。 (っ!?) グラリと視界が揺らいだかと思えば、剣を握る手に微かだが嫌な感触。 斬月から伝わってきたのは肉を切る時の感じだった。 すぐさま後ろへ飛んで距離をとり、前を見る。 立っていたのは――さっきので一緒に飛ばしてしまったのだろう――帽子のない浦原喜助。 少し俯き加減で、加えて長く伸びた前髪によって表情がうかがえない。 ただ、その左頬の辺りから赤い雫が何滴も滴っていた。 「・・・やっちまった?」 そのつもりもないままヒトを斬ったという感覚に少しばかり気をとられてしまっていた一護は ぽたぽたと落ちる赤い雫を見てそう独り言つ。 しばらくその様子を眺めているとカチリという音がして、それまで脇に下げられていた紅姫を持つ浦原の腕が上がった。 殊更ゆっくりと親指で血を拭う仕草を見せたと思えば、浦原は顔を上げて一護に視線を向ける。 その両目に映っていたのは、これまでその一欠けらすらなかったもの。 強い相手を前にした者に特有とも言えるヒカリ。 それは―――戦うことへの、歓喜。 (これはもしかして・・・) 浦原の変わり様を目の当たりにした一護は期待を込めて小さく口角を上げた。 「黒崎サン、スミマセンね。今まで退屈だったでしょう?」 そこまで言って浦原は腕を伸ばし、一護の方にまっすぐ紅姫を向ける。 「これからは本当の本当にマジでやらせていただきます。」 浦原の台詞に一護はニッと笑った。 「ようやくその気になったのかよ。」 (災い転じて福となすってか?) 『俺のおかげだな。』 (エラそうにっ・・・!) 頭の中で響く声にうっすらと青筋を立てながらも、一護はようやく本気になった男を前に斬月の柄を握り直した。 当初の目的を忘れて気分が高揚する。 (双方共に“始解”の状態。どんな戦いを見せてくれんのか、楽しみだぜ。浦原喜助。) |