コツンと額に杖が当てられる。
自然と見上げる形になり、一護は帽子の影に隠されていた浦原の瞳を見据えた。 そして、唐突に思う。 (あぁ・・・でも、コイツも俺のこと何かに利用しようとしてるよな。) そうして、一護は体から押し出された。 ワカレノヨル 2
空を蹴る。
耳元では風を切る高い音が鳴り、身に纏う黒綸子の着物は裾を激しくはためかせた。 霊圧を辿りしばらく走っていくと見えてきた人影。 気配は4つ、立っているのは3人。 その内の1人は刃を振り上げ・・・ 「石田、ヤラれんの早すぎ。」 呟いてさらに加速し、次の瞬間一護は斬月で地面を叩き割った。 「・・・な・・・!?」 捲れ上がるアスファルトの道。 足元を崩され、赤い髪の男―――阿散井恋次は驚いて近くの塀の上に飛び移り、 それから些か緊張した面持ちで一護を見据える。 「・・・!何だてめーは・・・!?」 斬月を打ち下ろしたままの体勢だった一護はそれを肩に担ぎ直し、恋次に顔を向けた。 「黒崎一護・・・・・・よろしく?」 「なっ!ふざけんじゃねぇ!何がよろしくだ!! それにその格好・・・・・・死覇装だと・・・?何だテメーは。何番隊の所属だ・・・!?」 そして一護の斬魄刀に目をやり、息を呑む。 「しかも何なんだその・・・バカでけぇ斬魄刀は・・・!?」 「やっぱデカいか、コレ・・・形も普通と違うみてーだしな。」 柄も鍔も無い大刀を見やって一護が笑った。 でもコレが自分の霊圧の大きさとその質のカタチなのだ・と。 恋次はギシリ・・・と奥歯を噛み締める。 その視界の端で人影がふらりと動いた。 「一護・・・!莫迦者・・・何故来たのだ!」 立っていた3人のうちのもう一人、ルキアが一護を見て悲しげに目を細める。 その言葉で一護が何者なのか気づき、恋次は犬歯をむき出して一護を睨みつけた。 「そうか・・・てめぇがルキアから死神能力を奪った人間かよ・・・!」 「だったらどうするってんだ?」 (実際は違うけどな。) 一護は恋次を見てニヤリと笑う。 『お前、その顔悪役過ぎ。』 (いいんだよ。これくらいで。) 「殺す!!」 「やれるモンならやってみやがれっ!」 顔を怒りに染めて恋次が塀の上から飛び掛った。 一護はわざと隙を作るような態勢をとり、斬月を横にして構える。 そうして、恋次の一撃を刃で受け止めた。 「・・・ッ!」 (なにコレ。弱すぎだろ。) 表に出ている表情は苦しげなもの。 しかし内心、恋次の手ごたえのなさに一護はこっそり溜息をつく。 (強い死神はコッチじゃ力をセーブされるらしいけど・・・それでこんなのか?) その間も恋次は「オラオラオラオラぁ!!」と威勢よく一護に刀を振り下ろしていた。 一護もそれにあわせて一撃一撃を地味に防いでいく。 「どうしたどうしたァ!?何だてめぇ!?そのデケー刀は見かけだけかよ!?あァ!?」 「・・・っうるせェ!」 (まったくさっきからベラベラと・・・遅いし力はないし、立派なのは口だけかよ。) 外と内が全く一致しないまま、一護は大きな動作で斬月を振り上げた。 (そろそろくらってやるか。) 一護はそこから刃を振り下ろし、恋次は垂直に飛び上がる。 そのまま空中で回転。 一護の背後に降り立つと同時にその右肩を切りつけた。 一瞬の間を置いて噴き出す血。 「・・・・・・!」 一護は膝を折り、肩を左手で押さえる。 恋次がその背後に立ち、跪く一護を見下ろした。 「終わりだな。てめーは死んで、能力はルキアへ還る。そしてルキアは尸魂界で死ぬんだ。」 その声を聞きながら一護は振り返ってルキアを見る。 彼女はこちらを見ない。ただ俯いてそこに立っていた。 なおも恋次は続ける。 「せっかくルキアがてめーを巻き込まねぇように1人で出てきたんだ。 おとなしくウチでじっとしてりゃいいものを追っかけて来ちまいやがって・・・」 (グダグダと・・・ホントに口だけは達者だなぁコイツ。) 一護は恋次を睨み、しかし内心呆れながらその話を聞いていた。 相変わらず思っていることとその表情は全く違っている。 「てめーなんかが追っかけて来てどうにかなると思ったのかよ?」 (ルキアを止める気があって来たわけじゃねぇけど、こう言われると何かムカつく。) 一護は斬魄刀を握り直した。 それに気づく者はいない。 「てめーみてぇなニワカ死神じゃ、オレ達本物にはキズ一つだってつけられやしねえん・・・」 恋次の言葉を遮って一護が斬月を素早く切り上げる。 「・・・!」 目を見開く恋次。 一護が立ち上がった。 「おっとワリー・・・ハナシの途中だったけどよ、あんまりスキだらけだったもんでつい手が出ちまった・・・」 (話が長ェんだよ・・・ったく。) 「悪いな。続き聞かせてくれよ。“キズ一つ”が何だって?」 「・・・てめぇ・・・・・・!」 恋次は顎に出来た赤い線を親指でなぞり、一護に対し毒づく。 その様子を見て一護の中では相棒が楽しそうに笑った。 『ククッ・・・やるねぇ一護・・・でもコイツにヤラれんじゃねぇの?』 (こんな弱いヤツに負けるのはさすがに癪だ。) 『左様で。そんじゃ後ろの朽木白哉に任せんの?』 (ん。そのつもり。) 一護の返答とほぼ同時。 それまでじっと立っていただけの朽木白哉が口を開いた。 「・・・気を抜きすぎだ。恋次。」 |