「死神が二人。」

ベッドの上に横になったまま一護がポツリと呟く。
窓から見える景色はまだ薄暗く、太陽が顔を出すまでもうしばらくかかるだろう。

『嬢ちゃんにもとうとうお迎えが来たようだな・・・お前はどうするつもりだ?』
「・・・尸魂界に行く。」
『そうか。』

寝返りをうって一護が顔を枕に押し付ける。

「いろいろ・・・嘘ついたりしなきゃなんねぇけど。」



くぐもったそれは僅かに悲しそうな響きを伴っていた。












ワカレノヨル 1











「現在、午前1時を余裕で過ぎております。二階に持って来た晩御飯もすっかり冷え冷えです。 で、肝心のルキアさんは例の二人組みの死神と接触。石田の野郎も共にいる模様・・・って戦ってんな、こりゃ。」
『何、その実況みたいなのは。』
「実況だけど。霊圧を感じながらの。」
『・・・・・・・・・』

沈黙する相棒をよそに一護は机に置いてある手紙を手に取った。
封筒はすでに封の切られた状態となっており、たった一枚の便箋を取り出して広げる。
見れば妙に「た」の多い文章。
何度目かになるそれを読んで一護は口を開いた。

「ルキアも人が良すぎんだよ・・・俺のこと喋っちまえば“現世への長期滞在”だけで済んだのに。 いや、それすらもお咎め無しになるかもしんねぇ・・・でもこんなことしたら“能力の譲渡”まで罪に問われちまうぞ。」

手紙の内容から推測すれば、一護の秘密を明かすことなく尸魂界へ帰るつもりなのだろう・・・彼女は。
しかしその場合“一護に死神の力を渡した”ことになっているルキアはかなりの罪を背負うことになる。
そんな彼女の先に待ち受けるもの。下手をすれば―――・・・極刑。



一護が顔を上げた。

「絶対に死なせねぇ。」

もう庇われたりしたくない。
今度こそ護る。
護ってみせるから。



「・・・それじゃ、準備しますか。」

そう言って部屋を出る。
コンの霊圧を辿って階段を下りながら一護は呟いた。

「ルキア・・・ちゃんと護るから。 少しだけ辛い思いをさせちまうけど・・・ゴメンな。」














「オイ一護!なんで死神化して姐さん助けに行かねぇんだよ!」

そう叫びながら飛び掛ってくるヌイグルミを片手で押さえつけた。
ぐぇと言いながら、それでもコンは腕を振り回してじたばたと暴れ続ける。
それを見て「オマエなぁ・・・」と一護が溜息をついた。

「この状況で俺が行ったらルキアのしたことも思いも全部無駄になっちまうだろうが。」
「・・・あ。」

一護の言葉にコンが大人しくなる。

「ずっと逃げていればいいかも知んねーけど、それは不可能に近い。 しかもその選択は自分の周りにいる人間、つまり俺達を巻き込むことになる。 それを分っていたからルキアは一人で出て行ったんだ。 だから俺達はアイツの思いを無駄にせず、なおかつアイツを助けるために・・・今はじっとしとかなきゃいけねーんだよ。」
「そ、そっか・・・でもそれじゃあどうすんだよ。オレはヌイグルミのままだし・・・」

手の下から這い出したコンが床の上に座り込んだ。
一護は立ち上がり部屋の窓を開け、コンの方に向き直る。

「言っただろ?“今は”って。」
「へ?それってどういう・・・」

聞いてくるコンに一護はクスリと笑った。

「とりあえず俺の言う通りにしてくれ。 ・・・・・・そうだな・・・そろそろ言い合いでも始めてみるか。」
「お?・・・おぉ。」

いまいち釈然としないが一応頷くコン。

「じゃ、俺に合わせてくれよ?」

そう言って一護が大きく息を吸い込んだ。

「ああッ!本当だ!!俺、ルキアがいねーと死神になれねえッ!! どうすんだコノヤロウ!!ルキアは尸魂界の連中とモメてんだろ!?せめて死神化してかねーと手助けも何もできやしねぇぞ!?」

いきなり大声を出した一護に一瞬戸惑う。
しかしその瞳が平素の落ち着いたものであることに気づき、コンはそれにあわせるように叫び返した。

「何だコラ。オレのせいか、あァ!?ぬいぐるみナメんなコラ!!」

一護がニィっと笑う。
感じるのは薄い気配。場所はすぐ近く。

(タイミングばっちりだな。)

そして窓の外から声がかかった。

「まいどォ〜vどうやらお困りみたいっスねェ。」
「・・・・・・あんた・・・!」

窓枠に腰掛ける浦原の姿を視認し、一護が驚いたような声を上げる。
横ではコンが本気で驚いていた。

その姿を認めつつ浦原は杖の先をこちらに向けて口を開く。

「何かあたしにお手伝いできることは? なに、大事なお得意様の一大事。今回は特別にツケといてあげますよンv」

「・・・・・・それなら・・・俺を、死神にしてくれ。」
(悪ィな浦原さん・・・ちょっと利用させてもらうわ。)

今のことも、そして予想されるこれからのことも、全て胸の内に隠し、 琥珀色の瞳で一護は浦原をまっすぐに見つめた。






















書くたびに黒くなっていく一護・・・もうどうしようもない(笑)











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