「・・・朽木隊長。」
恋次が振り返る。 そこにはこちらを見据える白哉が静かに佇んでいた。 ワカレノヨル 3
(この恋次とか言うヤツなんかより、さっさとアイツに仕掛けりゃよかったな。)
白哉から感じられる霊圧に一護はこっそり思う。 この人物なら――見せ掛けだけとは言え―― 一瞬でことを終わらせてくれただろう・と。 『まぁ・・・とりあえずはそこの赤髪野郎を倒してからにしとけよ。』 (リョーカイ。) 一護の視線の先。見れば恋次が白哉に突っかかっていた。 「何がスか!?こんな奴にはこんくらいで・・・」 「その黒崎一護とかいう子供・・・見た顔だと思ったら、33時間前に隠密機動から映像のみで報告が入っていた。」 『六番隊の隊長さんにまで知られてるなんて有名人だな。』 (うるせぇよ。) 「・・・大虚に太刀傷を負わせ虚圏へ帰らせた・・・と。」 落ち着いたまま言い終わる白哉。 しかしそれとは全く逆の様子で恋次は大声で笑い出した。 「やってらんねーな!最近は隠密機動の質も落ちたもんだ!! こんな奴が大虚に傷を負わせた!?そんな話信じられるワケがねェ!!」 「・・・恋次。」 白哉が咎めるように名を呼ぶが、それも聞かずに続ける。 「斬魄刀はただデケーだけ、しかもまともな刃の形さえしてねぇヤロウっスよ!? そんな奴がオレに勝つなんて・・・二千年早ぇエよ!!!」 飛び上がり、恋次が擦るように手を当てると、その斬魄刀が一瞬にして形を変えた。 「咆えろ蛇尾丸!!―――前を見ろ!目の前にあるのはてめぇの餌だ!!!」 「それはご遠慮したいね。」 一護の姿が霞む。 「なっ!?」 「まずは左肩。」 一護が呟くのと同時。 恋次の肩がぱっくりと裂け、赤い肉を曝した。 慌ててその場から飛び退くがいつの間にか目の前には一対の琥珀色。 「・・・っ!」 恋次は迫り来る刀身を防ごうと蛇尾丸を斜めに構える。 そして斬月を受け止め――― 「て、めぇ・・・!」 勢いを殺しきれず、蛇尾丸越しに伝わる衝撃。 直に受けた恋次のサングラスが真っ二つになって地面に落ちた。 露わになった額には斜めに走る傷。 その場所ゆえか、かなりの出血を伴っている。 そして恋次が血に視界を邪魔されながら見据えた先はすでに何もなく・・・ 「次はアンタが相手になってくれよ。」 声は後方。白哉がいる方から。 一護が剣を構え走っていく。 しかし白哉は動かない。 「愚か者め・・・」 そして白哉が腰に差した剣に触れた瞬間、一護の胸から飛び出る血飛沫。 いつの間にか一護の隣には白哉が立ち、剣はもとの位置に収まっていた。 「鈍いな。倒れることさえも。」 「白哉兄様!!!」 (悪ィ、ルキア・・・ヤなとこ見せちまって。) ルキアが叫び、一護はそちらを見ることなく声を出さず謝る。 その胸からは白刃が突き出ており――― (・・・疾いな。) 『それでも避けられねぇほどじゃないだろ。』 (そうだけど、今避けるワケにもなぁ。) 『ハイハイ。でもコレ、跡残んぜ?』 (それはしょうがねーよ。) 二箇所に大きな傷を負い、ゆっくりと倒れる一護は、それでも落ち着いたまま返事を返していた。 ドサァ・・・ 一護がうつ伏せの状態で地面に倒れこむ。 いつの間にか降ってきた雨がその身に激しく打ち付けた。 「いち・・・ご?」 呆然と呟くルキアの目に映るのはじわじわと広がっていく赤いもの。 倒れた一護を中心に流れ出て、道を自身の色で染め上げる。 それを見つめながらルキアは何かに導かれるようにふらりと一歩を踏み出した。 「・・・一護!!」 「っルキア!!」 一護に駆け寄ろうとしたルキアを恋次が右腕一本で止める。 しかしルキアはそこから逃れようと必死にもがいた。 「はっ・・・放せ恋次!一護が・・・っ!!」 「何言ってんだてめぇ!?よく見ろ!あのガキは死んだ!!」 ルキアの動きが止まる。 「・・し・・・?」 「そうだ!死んだんだよ!!」 急に大人しくなったルキアから手を離し、恋次は言い聞かせるように続けた。 「朽木隊長に鎖結と魄睡をやられた。駆け寄っても何にもならない・・・お前の罪が重くなるだけだ。」 「死んだ・・・一護が死んだ?・・・・・・ぇ・・・そんな・・だって・・・」 「オイ、ルキア?」 一護の姿を瞳の中に捉えたまま頭を抱え込むルキアに恋次が不審がる。 しかし恋次の声も姿も・・・一護以外その目に映すことなくルキアは目の前の光景を見つめていた。 そして――― 「・・・・・・ぁ・・・うぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」 「ルキア落ち着け!!」 恋次が両肩を掴みルキアを揺する。 それでも彼女は一護しか見ておらず、口から出るのは悲痛な叫びのみ。 「一護!一護!!・・・嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!!嫌だぁ!!!一護っ!いち・・・」 トン・・・と手刀を入れる軽い音がしてルキアの体が崩れ落ちた。 その身を恋次が受け止める。 「ルキア・・・お前・・・・・・」 そう言って口をつぐんだ。 恋次はルキアを抱えたまま白哉の方に振り向く。 「・・・行きましょう。もう用は済みました。」 「そうだな。」 何事もなかったかのように白哉が答え、そのことに口を開くことなく恋次は斬魄刀を虚空に差し入れた。 すぅと息を吸い込む。 「開錠!」 空間が捩れ、キン・・・と澄んだ音を立てて障子扉が現れた。 黒い蝶が三匹、ひらひらと空を舞う。 それに付き添われるように三人は扉の向こうへと姿を消した。 (あそこまで悲しまれるとはなぁ・・・) 『・・・・・・・・・・・・』 扉が消え、その身に雨を受けながら一護は目を閉じる。 遠くに響く下駄の音を聞きながら。 |