一護が病院の玄関前で戦闘を始めたのと同時刻。
その場に集まっていた多くの人々には視えぬ光景を確かに見つめる者達がいた。 スイヨウビノダイメイワク 4
(コレは何―――?)
先ほどまで響いていた恐ろしい叫び声は消え、それを発していた男の幽霊も爆音と共に消えてしまった。 その代わり・・・と言うように現れたのは白い仮面を被った怪物。 墓参りをしたあの日、夢か現か判らないが、その時見た怪物と似て非なるもの。 そして現在進行形でそれと戦っているのが―――・・・ 「一兄・・・!」 目の前で自分の兄がソイツと戦っている。 間違えようの無い鮮やかなオレンジ色。 漆黒の衣装に身を包み、身の程もある大きな刃を振りかざして怪物の攻撃を受け止めているのだ。 目の前のこの光景は何だ? なぜ兄があんな格好で戦っている? あの怪物は一体何者なのだ? 疑問ばかりが頭の中で渦を巻き、その回答はいっこうに与えられない。 理解の範疇を超えている。 そう感じていたのは、この少女―――夏梨だけではなかった。 茶渡泰虎。 友人達の間ではチャドと呼ばれる大柄な青年は、目を細め、病院の玄関付近を見つめていた。 見えるのは有名霊媒師のドン・観音寺。 しかしそれだけではなかった。 観音寺の前に立つ人影が一つと、もっと大きな何かが一つ。 それらはぼんやりとしか見えず「何かがいる」という事しかチャドに教えてはくれない。 よく見ようとしてもそれは霞んだままで、一体何かと頭には疑問符だけが浮かぶ。 (・・・何だ?) 自分の周りにいる人々は観音寺が弾き飛ばされたりするのを何事かと騒ぎ立てている。 どうやら彼らには“それ”が見えていないらしい。 実際には人っぽい方の霞んだ何かが彼を引っ張っているようなのだが。 だがチャドがわかるのはそれだけ。 たった、それだけ。 それは有沢竜貴にも言える事で―――・・・ なにやら不思議な光景。 一人しかいないはずの場所に何か別のものがいる。 はっきり見えるのはドン・観音寺なのだが、ボンヤリとした何かが二つ。 (なんだろ・・・) それらが“いる”ことはわかるのだ。 しかし、それらが“何なのか”がわからない。 不審に思っても、ただ思うだけ。 ふと横を見ると目を大きく開いた織姫の姿。 「織姫・・・?」 いつもと違う親友の様子に戸惑う。 先ほど自分と同じ気味の悪い叫びを聞いていたはずだから、彼女にも視えているのだろうか。 この光景が。 「・・・黒崎くん・・・・・・」 そう言って、織姫は口をつぐむ。 何故そこに一護の名が出てくるのか。 竜貴にはわからない。 ただ呼んだだけなのか、それとも―――・・・ けれど真相は闇の中・・・というより“視えている”者達にしかわからないもので。 “視える”が“視えない”竜貴にとってそれはやっぱりわからないものだった。 わかっているのは「いる」ことだけ。 織姫の他にあと何人か、彼の姿をはっきりと捉える者達がいた。 そのうちの一人が――― 浦原喜助は帽子の影からその様子を見ていた。 彼―――死神姿の黒崎一護が視える人々と、そして一護自身を。 「・・・思った通りっスねぇ・・・」 浦原は暗い愉悦を滲ませながら、そうして小さく賞賛の言葉を述べた。 「素晴らしい・・・」 しかしその言葉は賞賛と言えるのかどうか。 「でも・・・」と続け、帽子の影から見るのではなく睨みつけるように浦原は一護へと視線を向ける。 「―――――最悪だ。」 この現状が視えて、尚且つ理解できているからこそ言えるその言葉。 浦原は無表情で前を見据える。 「さて、どうしましょうかね。」 その呟きを聞く者はおらず――― しばらくしてガラスが割れた。 破片が飛び散る。 一護ともう一人、そして虚がガラスを割って病院内へ進入したためだ。 突然のことに慌てる人ごみ。 数少ない「状況を知る者」である浦原は帽子を目深に被って呟く。 「―――なるほど・・・。 やっぱりそういう戦い方をするわけっスね・・・キミは・・・・・・」 抱きとめた体は沈黙を保ったまま。 |