浦原商店での修行が始まった。 泊まりの用意を持って浦原商店を訪れた時、親に説明した外泊理由が「友達の家に泊まる」だと言ったおかげで浦原さんにまた「処女の外泊の言い訳みたいっスね」と返されたのには笑うしかなかったけれど。 ただし『前回』もそうだったが、もう腹を立てることはない。 こちらが適当にあしらって、噛み付いてこない俺に浦原さんが面白くなさそうな顔をするという流れを作っちまったからな。 っとまぁ、それはさておき。 修行開始である。 でも今の俺は完全に自分の力で死神になっているし、浦原さん達もそれを知っている。 加えて『前回』『前々回』から引き継いだ記憶と力のおかげで卍解も可能。 なのでやることと言えば単純に死神としての力を高めていくってことになるんだが・・・。 「本当ならアタシも卍解して黒崎サンのお相手が出来れば良かったんスけど、生憎アタシの卍解は他人様の修行をするには向いてませんので。」 という浦原さんの言葉により、卍解をしての修行は行わない。 じゃあ何を学ぶのかって言えば、始解までの実践、及び斬術・白打・歩法・鬼道の基本的な四つの戦闘方法になる。 ま、基本は大切だよな。 それに今の俺は霊圧が大きいくせに扱いが下手な所為で、所謂「宝の持ち腐れ」状態なのだとか。 だったらその宝とやらを少しでも活用出来るようになることがまず大きな一歩ってわけ。 「つまりこれまでと何ら変わりが無い、と。」 「そういうことっスね。それにこの期間はキミを鍛えるためであると同時に、キミと一緒に尸魂界へ向かう“二人”の修行用という意味もありますから。」 「石田と井上か・・・。本当は巻き込みたく無ェんだけどなァ。」 チャドを巻き込まずに済んだのだから、井上や石田も同じくこの町でのんびり暮らしてくれればよかったんだ。 でも今更それを言ったってもう遅い。 あの二人はどちらも結構頑固者だから、俺が何か言ったところで聞き入れてはくれないだろう。 上手くいかねぇな、と呟きながら眉間に皺を寄せて頭を掻くと、浦原さんが肩を竦めて笑った。 「まあ、しょうがないっスよ。井上サンのことは今まで判ってなかったんですし、石田クンが撒き餌をばら撒いて大虚を呼び出すってのは朽木サンが尸魂界に見つかるためには必要なことなんでしょう?加えてそれ以前に石田クンが死神の黒崎サンに敵意を燃やして突っ掛かってくるっていう、黒崎サン本人にはどうしようもないことがありましたから。」 「確かに。」 大虚を呼び寄せるため餌を撒くのは俺にだって出来る。 でも石田がこちらに敵意を持ってちょっかいを掛けてくるのは如何ともしがたい。 ま、そちらの方は別に俺自身が気にしなければスルー出来る可能性も無きにしも非ずだが。 (そしてその後、俺が自作自演で大虚を呼び出すってな。) あと、井上(とチャド)のことは浦原さんが言う通り『今回』で知ったばかりであるため、今の俺に出来ることは無い。 それでも過去にやれば良かったことなんて沢山あるもんで、それを思うと溜息が零れ落ちた。 項垂れる俺に、しかし浦原さんは小さく笑みを浮かべて言う。 「これから出来ることを見つけてやっていきましょ。それがキミにとっての最善でしょうからね。」 「俺に出来ること、か。・・・そうだな。後悔してても始まんねぇし、出来ることからやるとするか。」 「ええ、その意気っス。アタシも出来る限りお手伝いしますから。」 「サンキュ。本当に助かるよ、浦原さん。」 いくらか気分が上向きになり、俺も笑ってそう返した。 さあ、ぐだぐだ悩んでても仕方がないし、早速修行でも始めますか。 気分の切り替えと共に浦原さんの杖で死神化し、身体を地上の部屋に置いたまま地下の勉強部屋へ向かう。 勉強部屋には俺の方が先に辿り着き、後から浦原さんが降りて来た。 かつて一段一段梯子を使って降りていた俺も今じゃすっかり慣れてしまって、死神化している場合は一気に下まで飛び降りるのが普通だ。 勿論この部屋を作った浦原さんも(義骸のまま)何事も無いようにあの高さを飛び降りる。 加えて死神姿の俺と戦うのだから、本当にこの人の義骸って凄いんだよな。 などと考えながら相手の姿を目で追っていた所為か、目が合うと――とは言っても相手の目は帽子の影になっていて、視線があったような気がしただけなんだが――浦原さんは小首を傾げて「どうかしましたか?」と問いかけてきた。 俺は苦笑を混ぜて首を横に振る。 「いや、なんでもねぇよ。そんじゃ始めようぜ。」 感謝の言葉は時折口にしても、まだまだ相手のことを褒めるのは苦手だ。 何より物凄く照れくさいし、そんなの俺のキャラじゃない。 浦原さんは特に何も気にしなかったようで(助かった)、「そうですね。」と頷き出入口から離れる。 これまでの修行で所々地面が割れたり抉れたりしているのを横目にある程度まで歩を進めると、俺達は立ち止まって向かい合った。 「では、まず斬術と歩法から。移動はなるべく瞬歩で行ってくださいね。」 「わかった。月牙を飛ばすのは?」 「アリで。アタシも技を使いますから、黒崎サンも本気でどうぞ。」 憎らしくも浦原さんはそう言って余裕の笑みを浮かべた。 が、今のところ俺が浦原さんから完璧な一本を取ったことがないのは事実であり、悔しいけれども認めるしかない。 出来れば浦原さんも義骸から出て死神化せざるを得ない状況まで強くなりたいのだが・・・はてさて、この十日弱の間にそれは叶うのだろうか。 いや。叶うのだろうかではなく、叶えてやるって言わなきゃ駄目かな。 それくらいの気持ちでぶつかって行った方がいいに決まってる。 よし、と気合を入れ直し、斬月を構える。 そして俺は視線の先に立つ浦原さんに向け、地面を蹴って駆け出した。 |