「もーやだ・・・」 三回目だぜ、三回目。 降って来る雨は季節のワリに冷たいし、その前に色々と鬱陶しいし、しかも現在進行形で傷口から血がダラダラと流れ続けている。 え、ちょっとコレまずくね?くらいの量だ。 『前回』と同じく(と言うかそれよりは幾分上手に)致命傷は避けられたのだが、それでも大きな怪我を二箇所も負ったってことに変わりはない。 だからこうやって地面に這い蹲りつつ愚痴の一つや二つ零すくらいいいだろ? 「そう言ってますけど、今のキミならあのくらい倒せないことも無いでしょうに。」 「やられたフリする理由くらい解ってるだろ?・・・ってか、いつからいたんだよアンタは。」 「キミが"もーやだ"と呟いた辺りからっスね。」 「・・・あっそ。」 おいおい、全く気配が無かったぞ。 これまでとは違い、下駄の音もさせなかったしな。 この辺りがこの人―――浦原さんの実力を垣間見ることが出来る部分なんだろう。 まぁぶっちゃけそんなことは、今はどうでもよくて。(だってこの人がどんなに強くたって、どうせ尸魂界には来られないんだからな!) 「とりあえず放っとくと流石に死にそうなんで助けてくれ。」 暢気なお喋りタイムは早々に終了させて手当てプリーズ。 石田はここでちょっと治療すれば良かったはずだが、俺は『今回』も浦原商店に運ばれるだろう。 何せ俺は回復系の鬼道なんて全く使えないからな。 浦原さんか(鬼道の得意そうな)テッサイさんにお任せするしかあるまい。 ってなわけで俺の意識はブラックアウト。 目覚めたら治療済みで、出来るだけ痛くねぇことを望むよ。 知らない天井だ。 なんてちょっとばかり有名(?)な台詞を頭の中で呟いてみるが、目を開けて視界に入った天井は残念なことにもう何度も眺めたことのある、よく見知った天井だった。 和室に、でん、と敷かれた布団から身を起こし、身体の調子を確かめる。 腹の怪我はやっぱり治りきってなかったけど、慣れのためかそれとも浦原さん達が頑張ってくれたおかげか、記憶にあるものより幾分楽な気がするのは事実だ。 死神としての力も健在らしい。 ええっと、確かこの後は浦原さんとちょっと話して薬貰って、こっそり家に帰って――何せ家族は俺が夜中に出掛けたことを知らない。ってか出掛けたのは俺の魂だけで、身体は後から浦原さん達がこっちに運んで来たのだが――から学校で終業式だよな。 学校が終わったら井上とルキアのことで云々。 そっから一度家に帰って荷物持って浦原さん家で修行スタート。 日数は『前回』より一日か二日縮めるはずだから、八日間もしくは九日間ってところか。 ついに来たって感じだよなー・・・。 とか思っていたら襖の向こうに人の気配。 わざとさせてんだろうな、なんて考えつつそちらに視線を向けると、襖が開いて浦原さんが顔を見せた。 「どうです、気分の方は。」 「まぁまぁってところか。それから傷、ありがとな。」 「いえ、アタシらが出来ることと言ったらそれくらいですからね。・・・そしてこれを。」 布団のすぐ傍に腰を下ろし、浦原さんが何処からともなく取り出したのはあの毒薬めいた薬瓶。 髑髏マークは相変わらずかよ。 なんちゅー趣味の悪さだ。 それともこうやって俺が顔を顰めるのを楽しんでやがんのか、この人は。 「・・・どうかしました?」 「いや、何でもない。で、こいつは一時間に一錠だっけ?」 瓶を受け取りながら一応確認しておく。 「その通りっス。しかし・・・イヤァ説明が省けて楽っちゃ楽ですけど、何だか奇妙な感じでもありますね、そうやって先読みされてると。」 「先読みってか、何度か体験したことだしな。」 俺に未来予知は出来ない。 精々が知ってることと現実を重ね合わせてみるくらいさ。 「それは黒崎サンだからっスよ。繰り返したことのないアタシにとって黒崎サンの発言は先読み以外の何物でもない。ま、別に不快ってワケじゃないんで構いませんけどね。」 浦原さんはそう言って苦笑し、立ち上がる。 俺も寝込むほど酷い傷ではないし、同じく立ち上がって傍に置かれていたTシャツを被った。 それを待って浦原さんが襖を開ける。 そんでこちらを振り返り。 「まずは朝御飯でも食べましょうか。それからキミは学校へ行ってらっしゃい。終業式の後は修行開始っスからね。」 「ああ、よろしく頼む。」 でも朝飯はテッサイさんが作ってんだろ、と続く俺の言葉に浦原さんが笑った。 あ、そういや浦原さんと前々から知り合ったおかげで「十日間アタシと 殺し合い、できますか?」の名台詞が聞けなかったな。 あン時の浦原さんって怖いけど格好良いんだけどなァ、かっこ苦笑い。 |