「茶渡クンのことっスけどね、彼、キミが言ったような力は持っちゃいませんでしたよ。それどころか虚に襲われもしなかった。」 「・・・は?」 浦原さんに淡々と言われ、俺は目を点にした。 数刻前に俺がつい"うっかり"で大虚を追い払うどころか昇華しちまい、その後を引き継ぎ現在進行形で浦原商店の店員三人が空に走った亀裂を補修するために動いている。 『今回』は上手くやれて石田にも怪我はなく、おかげでこちらは暇。 よって同じく、保護していた井上とチャド(と思っていたのだが、どうやら前者だけみてぇだな)を家に帰して時間を持て余している浦原さんと合流し、この状況になっているのだが・・・一体どういうことなんだ? 力に目覚めたのが井上だけだなんて。 「まあ、どうしてキミの記憶と現状が違ってきているのか、予想くらいは立てられますけどね。」 自然と眉間の皺を深めてしまっていた俺を見て、浦原さんが苦笑を零す。 視線だけで続きを促せば一度小さく頷いて浦原さんがくるりと指先を回した。 「要は死神化した黒崎サンと接触したか否かってことっスよ。」 「死神化した俺と・・・?」 「ええ。黒崎サンの周りにいた一般人が能力に目覚める原因は、おそらくキミから垂れ流される霊力。通常の状態でもそれなりに大きな・・・そう、浮遊霊を惹きつけてしまうくらいではありますが、死神化したキミはそんな比じゃない。ゆえに、死神として存在している時のキミと接近することにより、井上サンはキミの記憶通り力に目覚めたンでしょう。」 「それなのに『今回』俺はチャドと接近する前にアイツを襲うはずだった虚を倒しちまったから、」 「この世界で茶渡クンは一般人のままだった、ってことでしょうね。」 俺の言葉を継いで浦原さんがそう締め括る。 マジか。 それが本当なら、もしかすると井上も力には目覚めずこの後も現世で平穏な夏休みを送れていたかも知れねぇんだよな? 胸にチクリと痛みが走り、『今回』も巻き込んでしまった彼女に申し訳ない気持ちになる。 おそらく――力に目覚めなかったチャドは置いておくとして――井上は『今回』もまた消えたルキアのことに気付き、そして尸魂界へついて来てくれることになるのだろう。 自分の身が傷つくことも厭わず。 「・・・・・・・・・、」 「考えても仕方ないっスよ。『今回』は『今回』。次があるなんて考えちゃいけないンでしょうが、なってしまったことを悩んでいても時間の無駄っス。それならもっと建設的なことを考えましょ?」 これは、慰められているんだろう。 そんな相手の気遣いに、眉間の皺を緩めることで返す。 確かに過ぎてしまったことを考えても仕方が無いよな。 流れた時間はもう元に戻ってはくれない。 大事なのはこれからどうするかってこと。 「とりあえず、次は朽木サンを連れ戻すためにアチラの死神が来るんでしたっけ?」 「ああ、六番隊隊長の朽木白哉と副隊長の阿散井恋次だ。」 そんでもってアイツらと戦う時はわざとこっちが負けるように動く。 一度ルキアを連れ帰らせてから俺は十日間の修行を開始し、その一週間後に尸魂界へ突入するのだ。 「そのことなんスけどね、『今回』は出発の予定を早めてみてはどうです?確かキミの記憶通りその日に穿界門を通ると断界の中で拘突に追いかけられるんじゃありませんでしたっけ。」 「そういやそうだった・・・。でも修行期間を短くしちまったら、死神化出来てる俺はともかく石田や井上の方は・・・」 そう答えると浦原さんはしばらく思案顔をし、やがて小さく肩を竦めた。 「ま、大丈夫なんじゃないっスか?井上サンは茶渡クンが不参加になったおかげで夜一サンとマンツーマンでやることになるでしょうし、石田クンも一日や二日早まる程度なら何とかなるでしょう。もし必要とあらばアタシらの力もお貸ししますしね。」 それなら大丈夫、か? そうすると拘突と遭遇するイベントは無くなって、同時に断界を滅茶苦茶に通り抜けた影響で尸魂界に到着した日付が戻る(だよな、確か)って事態も起こらなくなるのか。 つまりルキアを助けるための期間も短くなっちまう可能性がある、と。 拘突に追いかけられて拘流に掴まる危険性を抑えるか、それともあえて危険を承知で突っ込んで自分達が動ける期間を長くするか。 ちなみに後者の「期間が長くなる」という可能性は必ずしも100%ってわけじゃない。 一周目・二周目と続いたあれはただ運が良かっただけだ。 そのことと、俺が既に卍解を会得していることを考慮すると、やっぱり―――。 「じゃあ、『今回』は出発を早めるってことで。」 「断界の中で石田クンを抱えて走ってくれるはずだった茶渡クンもいませんしね。」 「そうだな。」 と言うわけで、修行期間の短縮が決定。 穿界門の製作に一週間かかるのは――浦原さんに記憶があるならともかく――変わらないことだし、そっちの方で一日か二日縮めることにする。 さて、どんな結果になることやら。 (って、その前に恋次達を相手にするっていう厄介なイベントが待ち構えてやがんだよな・・・!) |