先日、石田と会話する機会があった。 とは言っても『一周目』からの場合と同様に、期末考査が終了した日の夜、死神と滅却師という形で一方的に憎むだの何だの言われただけなのだが。 そんなお決まりのイベントも終了し、テストの結果が発表された日。ぶっちゃけ今日。 俺は帰宅する石田の後を現在進行形で追いかけている。 勿論、大虚出現という大事件を起こすためだ。 これが無いと尸魂界がルキアを発見する時期に遅れが生じる(最悪、発見自体が無くなる)可能性があるからな。(俺の記憶が確かなら、あの時、尸魂界の小型偵察機が姿を見せたはずなのだ。) ・・・おっと。石田に我慢の限界が来たらしい。 不機嫌さを隠すつもりなど全く無いと言った顔でこちらに振り返り、これまでと似たり寄ったりの――ただし石田本人にとっては始めての――台詞を吐かれた。 そんでもって霊絡の話にまで到達。(繰り返しているところは中略、だ。) 石田は俺の霊絡を掴み取ると、声音は変えないまま眼鏡越しに鋭い瞳を向けてくる。 「知ってたかい?死神の"霊絡"は色が紅いってことも。」 知ってますとも。 それを教えてくれたのは目の前にいる人物、つまりお前だしな。 この台詞のおかげで『一周目』の俺は自分の内にある力を目覚めさせ死神になることが出来たんだから、忘れられるわけがない。 嫌味な言い方を差し引いたって感謝の言葉を告げることも出来るだろう。実際にはやらねぇけどな。 「―――僕は滅却師。」 石田が静かにそう言うのを聞きながら、思う。 死神の霊絡が紅いなら滅却師は何色なのだろう、と。 「虚を滅却する力を持つもの・・・」 シリアスな雰囲気を出す石田には悪いが、俺は「今度機会があれば滅却師の霊絡の色を確認してみるか」と暢気に考え、態度だけ相手に合わせておく。 この前、石田が対虚用の撒き餌を買ったってことは浦原さんから聞いてるし、こちらが大きなヘマをしない限り予定通りに事は進むだろうからな。 「勝負しないか、黒崎一護。死神と滅却師とどちらが優れているか。解らせてあげるよ。死神なんてこの世に必要ないってことをさ。」 こちらの思惑になど気付くはずもなく、石田は淡々と何度も耳にしている台詞を吐いた。 で、それからまた少し話(言い合い?)をした後、石田が撒き餌を空中に飛散させた所為で強制的に勝負がスタート。 もとよりこれが目的だったから俺はその行為を止めるつもりなんて無かったけど、一応それっぽい仕草を見せてから死神化し、身体をコンに任せて駆け出した。 足を動かしつつ懐から取り出したのはケータイ。 電話をかける先はこのケータイを俺に持たせた本人だ。 数コールの後、目的の人物が電話に出る。 「・・・あ、浦原さん?予定通り石田が餌撒いたんで、井上とチャドのこと頼むな。・・・・・・ん、そう。それが済んだらこっちのサポートよろしく。大虚は俺が追い払うから。」 相手から了承の言葉が返って来たのを確かめて通話を終える。 これで『一周目』や『二周目』のこの時期、虚に襲われていたはずの井上とチャドの身柄は安全ってわけだ。 あいつらが死ぬはずねえって思ってるけど「もしかしたら」ってこともあるし、保険をかけておくのも悪くはないだろう? まぁ俺が言わずとも浦原さんはやってくれてたみたいだけどな。 とにかくそう言うわけで、俺は町中に現れている虚を昇華しつつ、夏梨のことだけを考えて行動すりゃあいい。 そんでもって時間が来たらルキア達と合流して石田とも話し、大虚の出現に立ち会う・・・と。 ふと思ったんだが、『今回』は石田の力を借りずとも最後までやっちまえるんじゃないだろうか。 "最後"ってのは勿論、暴走した霊力の後処理のことだ。 毎度毎度自分の霊力を制御しきれず暴走って事態にはならないようにしたい。 俺の霊圧を抑えるために石田が重傷だなんて後ろめたくてたまんねーし。 まぁそのために、一応浦原さんに言って、もしもの時は暴走した力を処理する手段も用意してもらっているんだが。 ・・・なんつーか、浦原さんサマサマ? これで崩玉のことが無かったら、俺絶対浦原さんに頭が上がらなかったと思う。 実際には浦原さんにも俺にやって欲しいことがあって、なんとかギブアンドテイクの状態を保てているんだけどな。・・・たぶん。 おそらく。ひょっとすると。 あまりの自信の無さに、思わず苦笑が漏れる。 「・・・っと、目標発見。」 そうこうしているうちに虚が姿を見せた。 向こうもこちらに気付いて向かってくるが、生憎こっちは死神になりたての素人でも、ましてや無力なだけの霊でもない。 素早く背中の斬月を構えてアスファルトを蹴る。 降下の勢いを乗せて斬魄刀を振り下ろし、終了。 地面についた足をそのまま前に踏み出し、虚が昇華する気配を背中に感じて先に進む。 大虚が現れるにはもうしばらく時間がかかりそうだ。 |