「こんばんは、浦原さん。」
「おや、黒崎サンじゃありませんか。」

いつも通りの格好をした浦原さんがこちらの声で振り返り、そう言って口の前で扇子をばさりと広げる。
キミがこんな所に来るなんて思いませんでした、という台詞には俺も同意するが、生憎(浦原さんには別に必要ないと思って話してなかったけど)ここには来なくちゃいけない理由があった。
ここは、空座町にある廃病院。
普段なら静かで(と言うよりも不気味で)人は近寄らず、心霊スポットの一つとして多少有名な程度の場所である。
しかし空が紺色に染まりきった現在、この場には沢山の人が溢れていた。
そう。今日は空座町に"アイツ"がやってくる日だ。

「アタシの場合はホラ、この子達が来たいと言いましてね。」

浦原さんの陰から顔を出したのはジン太とウルル。
この人の店で働く店員であることからも一般的な子供として見るのは適当じゃないと思うんだが、まぁそんなこともあるかな、という感想は抱ける。

「・・・ドン・観音寺も人気者だな、ホント。」

間違った方法で除霊をしている派手なオッサンなのに。

独り言ちると、それを聞き取ったらしい浦原さんがくくっと苦笑を噛み殺した。
やはりこの人も観音寺のオッサンが現世で彷徨う霊の穴を広げて虚へと変化させていることに気付いているんだな。
だからって何かしようと思っているわけでもなさそうだが・・・。
この人に言わせれば、どうでもいいですよ、ってところなのかもしれない。

「キミはご家族の付き添いで?」
「あ?ああ、その通り。夏梨はこういうことに興味ゼロって感じなんだけどな。親父と遊子が・・・」
「視えない人間ほど、こういうものには興味を引かれるんでしょうね。」

扇子と帽子で表情を隠しながら浦原さんがくすくすと笑う。
微笑ましさを滲ませるそれだが、どうにも半分くらい別のものが混じっているような感覚を受けるのは俺の気のせいなんだろうか。

「正直言うと、興味を引かれすぎ、だ。もうちょっと落ち着いてくれてもいいと思うんだけどな。特に親父。・・・あと俺が今日ここに来たのにはもう一つ理由があるんだ。しかも浦原さんに手伝ってもらいたいことで。」
「・・・虚っスか。」
「その通り。話が早くて助かるぜ。」

今夜、テレビの撮影中に観音寺が半虚の穴を広げ、無理やり虚に変えてしまう。
その際スムーズに死神になり事を進めるため、俺は浦原さんの所に来たというわけだ。

ただ死神になるだけならルキアのグローブや義魂丸に戻したコンを使えばいいのだが、事情を教えていないあの二人の協力を事前に得るのは少々面倒臭い。
かと言って半虚が虚化を始めた時にゴチャゴチャやっていては時間がかかりすぎるし、加えてその騒ぎを全国ネットでテレビ放映されてしまっては後日学校で呼び出しを喰らう羽目になる。それは勘弁願いたい。
と言うわけで、俺の事情を知っている浦原さんに協力を頼むということになるのだ。

そんな理由を掻い摘んで説明すると、浦原さんは気軽な調子で「いいっスよ。」と手に持っている杖を揺らして見せた。

「しかし今日ここで半虚が虚になるのを知っているなら、昼の間にでも魂送しておけば良かったんじゃないスか?」
「それは『前回』俺も考えた。で、実際にやってみたけど、また別の霊が現れてさ。そいつが観音寺の手でチョチョイとな。だから『今回』はそんな無駄なことはしねえで、『一周目』と同じ奴を相手にしようと思ったワケ。」
「へえ・・・歴史の修正ってやつっスかね。一つの"出来事"が潰れたら世界がその代わりのものを用意するって話、聞いたことありますよ。」
「無駄な足掻きをするなってことか?何だかあんま受け入れたくないけど・・・。」
「そういう時は自分に都合のいい部分だけ信じればいいんスよ。どうせ確かめようのないことなんですから。」
「だな。・・・まぁとにかく、今夜は頼むぜ。頃合を見計らって合図するから死神化させてくれ。あと俺の身体のことも。」
「わかりました。頑張ってきてくださいね。」









そういうわけで、テレビの収録が始まり、俺は死神化して観音寺のオッサンを助けたり諭したり――これ以降も霊の虚化をされちゃあオッサン本人も周りの人間も危険だからな――して、『一周目』や『二周目』とあまり変わらない結末を迎えた。
ただし『今回』、俺は特に騒ぎを起こすこともなく死神化したのでテレビに映ることはなく、全国ネットでお茶の間に登場したのはルキアのみ。
どうやら俺が傍にいなかったことで、とりあえず自分だけでも観音寺を止めようと暴れたのがいけなかったらしい。
しかしまぁアイツは学校じゃ猫被りだし、呼び出されても平気だろ。
だから俺が懸念すべきことは、呼び出しを喰らった後のルキアが「どうして近くにいなかったのだ!?」と怒鳴ってくることくらいである。
今からでもそン時の言い訳を考えておかねぇとな。

ところで・・・浦原さんの「歴史の修正」の話が事実なら、もしかしてルキアがテレビに映ったことにも何か大きな理由があるのだろうか。
たとえば、そう。現世で捕捉不可能になっていたルキアが尸魂界の奴らに見つかったのも、死神の誰かが偶然このテレビ放映を見ていたから、とか。
・・・まさかな。考えすぎか。



























ルキアがこの時テレビに出るのは必須事項ですよ。
と言うか、ルキアが死神達に見つかるという出来事が必須事項なので、そのための『何か』は絶対起こることになっています。


(08.02.01up)










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