「―――見つけたぜ。」 呟き、遊子を捕らえていた触手を切断。 支えを失って落下を始める前に妹の身体を左腕で捕まえて着地し、一呼吸置かずに今度は夏梨を地面に縫い付けていた脚も切り落とした。 「俺の妹達に汚ねえモンで触れるんじゃねーよ。」 夏梨と遊子を岩陰に隠し、グランドフィッシャーと対峙する。 こちらの霊圧に警戒心を強めたのか、相手は既に少女型の疑似餌と太い管で一体化を謀っていた。 「小僧・・・何者だ。」 「見りゃわかるだろ。死神さ。」 代行、だけどな。 でもそんなことは今ここじゃあ関係ない。 俺は俺で、自分の死神としての力を持っているのだから。 さあ、それじゃあ相手に先手を打たれる前に、俺から行かせてもらうとしようか。 既に二度経験したと言っても、記憶を探られんのは歓迎できねえし、慣れたくもねえからな。 瞬歩で相手の背後に回り、足を狙って斬りつける。・・・成功。 「ギャァァァアアアアア!!!」 耳を劈く悲鳴と共にグランドフィッシャーが振り返り、その勢いのまま切断されていなかった方の手を・・・って違う!? 切断したはずの腕が一瞬のうちに再生されてこちらに向かってくる。 「・・・ちっ、」 腕が左右違った所為で予想していたタイミングより僅かに早い攻撃。 回避は間に合わないと判断し、斬月で受け止めた。 勢いがついて身体が浮き上がる。 そういや忘れてたぜ。 こいつの腕、斬っても生えてくるんだったな。 視界の端でグランドフィッシャーがにたりと嗤った。 はっ、余裕の表情ってか。 だけどそれくらいで今の俺に勝てると思うな。 「甘ぇんだよっ!!」 斬月で受け止めていた攻撃を弾き返し、地面に着地するまでもなく霊子の床を作ってその上で体勢を整える。 そして間を置かずに今度はこっちから攻撃だ。 弾かれて次の動きにまだ移れていない奴の左腕へ再度斬月を叩き込む。 刃を斬り返し、続いてこちらの死角を狙ってきた右腕にも一撃。 ただ大きいだけの仮初の斬魄刀とは違う、確かな感触が手に伝わってきた。 と、ここで岩陰に避難させていた妹達を確認。 横目で見たそこには既にルキアとコンが到着していて、遊子と夏梨をここから移動させようとしていた。 ありがたい。 そのまま頼むぜ。ここはきっちり片付けるからよ。 腕を再生させる間も惜しいのか、グランドフィッシャーの仮面に開いた穴から触手が伸ばされる。 その速度は速い。 でも白哉や夜一さんの瞬歩を見せられた後じゃあな。 月とスッポン以上の差だ。 つまり、 「遅せえ!!」 伸びてきた四本の触手を一気に切断する。 そのまま相手の懐に入り込み、首の付け根(だと思われる部分)へ斬月を喰い込ませた。 虚の弱点は頭。 頭部を切り落として倒すのがセオリーだ。 それはきっと少々反則的なこいつにだって当て嵌まるはず。 ぼたぼたと降りかかる赤色の液体を黒の死覇装に染み込ませながら、柄を両手で握って思い切り横に引く。 物理的には無理そうなことでも、今ここでものを言うのは霊圧の高さ。 かつてあの剣八を傷つけることだって出来たこの斬月とそれに乗せた俺の霊圧が、刃の長さギリギリのグランドフィッシャーの頭と胴体を切り離した。 だが、「よし!」と思ったのもつかの間。 ふと目をやれば、疑似餌と獣のような身体を繋ぐ管が何かを送り込むようにどくりと動いていた。 グランドフィッシャーのやろう、身体を乗り換える気か。 「させるかよ!」 叫び、その管目掛けて地面を蹴る。 正面に見据えた部分がひときわ大きく膨らんだ。 「これで終わらせてやる!!」 感情が高ぶった所為だろう。 今まで以上に霊圧の籠められた一撃がその管を切断し、疑似餌部分をも巻き込んで消滅させる。 消える直前、驚愕の表情で相手が何か言おうとしたようだったけど、それももう知ることはない。(ただ、驚いていたのはおそらく俺が疑似餌の部分も本体だったと知っていたからだろう。) 白い破片となって空中に溶けていくグランドフィッシャーの身体を眺めながら、俺は張り詰めていた空気を解すように深く息を吐き出した。 「・・・やっとだ。」 小さく小さく呟いたその言葉は、きっと駆けつけて来たルキアの耳にまで届くことはなかっただろう。 それでいい。 三度目の正直で、ようやくおふくろの仇が打てた。 それは俺だけが知っていればいいことなんだ。 二度のあまりにも苦い記憶は、な。 |