『三周目』をスタートさせた俺はルキアと共に死神業をこなす傍ら、出来る限りの時間を使って浦原さん・夜一さん両名に修行をつけてもらうことになった。
今のままじゃ尸魂界に行っても藍染に勝てるわけがねぇからな。
ちなみに、藍染に奪われないようにと現世でルキアから崩玉を取り出しておくのはNGだ、と先に言っておくべきだろう。
例え取り出したってどうせ壊せないのだから、いずれは藍染が手にする可能性もある。
だから今はそのままにしておいて尸魂界に帰る義務があるルキアの身体ごとエサとし、藍染の悪事を暴くことで奴を幽閉(最悪、処刑という名の殺害)するというのが最善の策となるのだ。
あとはまぁ、浦原さん本人はルキアの魂魄が崩玉を内包したまま完全に人間のものとなり、尸魂界から捕捉出来なくなるという小さな可能性に賭けているフシもあったけどな。

という風に、これからやるべき事が着々と決まってきているわけだが、実は最大の問題が片付いていなかった。
それは。

「どーしたら朽木サンから譲り受けたものではなく自分自身の力で死神になれるんでしょうねぇキミは。」

顎に手を添えて浦原さんが唸る。
それは俺も知りてぇよ。
『前回』『前々回』の経験から、浦原さんにデッドオアアライブ気味な修行をつけてもらえば、そのうち死神になれるはずなんだが・・・。
何かが足りていない。
身体中に傷を作っても、どれだけ斬月に語りかけても駄目なんだ。

確か『一周目』では死神になるどころか虚になりかけて胸に穴が開いちまったんだよな。
そして『二周目』は浦原さんに胸をぐさっといかれちまった。
・・・あ。まさか。

別の方法を考えた方が良いんでしょうかねぇと呟く浦原さんを横目で見つつ、俺は自身のデカい斬魄刀を逆手に持ち、刃先を己の胸の中央に向けた。
失敗した後の事を考えると手に汗が滲んでくる。
でもとにかく死神化しねぇと前に進めないのは確実だ。
だから―――。
こちらの様子に気付いた浦原さんが驚愕に目を見開く。

「ッ!」

そして俺は己の胸に斬魄刀を突き刺した。














「やっとここまで来やがったか。」

呆れと苛立ちと愉悦の混じった声。
背後からかけられたそれに俺は振り返る。

正解、か・・・。
視線の先に立っていたのは白いアイツと斬月。
どうやら「胸に穴を空ける」というのがキーだったらしい。

真横から生えるビルの壁面に両足をつける格好で己の黒い死覇装姿と右手の斬魄刀―――斬月を眺める。
ちゃんと自分の力で死神になることが出来たな。
しかしどうして死神になる(力を目覚めさせる)=胸に穴を空ける、なんだ?

「そりゃアお前、刀をぶっ刺しゃ命の危機ってことになって、魂の奥に眠っていた死神の力が無理やり引き出されちまうからだろ。そんでもって更にお前は特殊で、俺の存在があるからな。穴を空けることで俺の力をも引き出すことになるわけだ。」

白い奴が飄々とした態度で言う。
わざわざ解説ありがとよ。でもな。

「お前まで目覚めて欲しくないっつーの。」
「はっ。生憎俺と斬月さんはお前の中に表裏一体のものとして存在してるんだよ。だからどっちかってのは有り得ねぇ。片方が必要ならもう片方も目覚めさせなきゃなんねーのさ。」

表裏一体って・・・。
マジかよ。
でも俺はこんなやつと融合するなんて嫌だぞ。
だってこいつは虚なのだから。
残虐性は俺を「内」に追いやって「表」に出てきた時にはっきりと示してくれやがったしな。

そんな思考が顔に出ていたのだろう。
白い奴はこちらを見やり鼻で笑うと、

「まぁいずれ、自分がどうしなきゃなんねーか気付くだろうよ。それまで精々俺を拒んでいやがれ。」

そう言い、話は終わったとばかりに背を向けて、「じゃあな。」と告げた次の瞬間、奴は空気に溶けるようにその場から姿を消した。
何なんだ。
どういう意味だよ、それは。


「――― 一護。」
「斬月のオッサン?」

今まで黙っていた斬月が口を開いた。
彼はちらりと白い奴の消え去った場所を一瞥し、それから視線をこちらへ移すと、「気にするな。お前の心が強くあれば、何事をも恐れる必要は無い。」と落ち着いた声音で語った。

「俺の心が強くあれば・・・?」
「そうだ。アイツが言った通り、アイツと私は表裏一体の存在。宿主である一護・・・お前の意思の持ちようによってどちらも表になり得るのだ。私が"斬月"となるか、奴が"斬月"となるか、お前の心の有りようにかかっている。」
「そんなこと言われても・・・具体的にどうすりゃいいんだよ。」

"強く"ってどういうことだ?
首を捻るが、斬月は黙ったままそれ以上何も言いそうにない。
答えは自分で探せってわけか。

「わかったよ。アンタばっかりに答えを聞くんじゃなくて自分でもよく考えてみる。」
「そうだ。いずれ、解る時が来る。」
「ああ。」

斬月もアイツと同じく「いずれ」とはねぇ。
それなら、その「いずれ」とやらを待ってやるとしますか。

視線の先で斬月の姿が消え始めた。
お別れの時間ってわけだ。
それじゃあ斬月のオッサン、またな。
そんでもって、『今回』もよろしく頼むぜ。



























(08.01.04up)










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