「なるほど。信じられませんと言いたい所ですが、信じるしかないですね。キミの話にはちゃんと筋が通っている。」 俺の今までの経験(『一周目』の、ルキアと出会った所から)を全て聞き終えた後、浦原さんはそう呟いて茶を啜った。 話を頭の中で整理しているのか、浦原さんはそれからしばらく口を噤み、部屋には沈黙が訪れる。 俺も、未だ黒猫姿の夜一さんも、何も言わない。 次に浦原さんが口を開いた時、零れ落ちた声は研究者の色をしていた。 「黒崎サンがこの世界を繰り返しているのは崩玉の影響と見て間違いないでしょう。本来、崩玉とは死神と虚の境界を取り去る物っス。しかしそれを使われたキミは――キミの言い方から察するに、キミは内なる虚との融合を酷く嫌がっているようですからね――強い拒絶を示した。ゆえに、強制的に融合させようとする力と、元々霊力がずば抜けて大きいキミの拒絶する力がぶつかり合ってこの現象が起こったものと推測することが出来ます。」 反発する力によってスタート地点に戻されちまったってわけだな。 もしそうなら『四周目』を迎えないようにする方法もある。 「じゃあ崩玉と反応させられなければ、俺はこの繰り返しから抜け出せるのか。」 「おそらくは。まだ情報も足りませんから言い切ることは出来ませんがね。」 「希望が見えただけでも十分だ。」 あとはどうやって崩玉が使われないようにするか、である。 やっぱり藍染に勝って崩玉を奪われない又は取り返すのが一番なのだろうか。 この後何度も世界を繰り返して「藍染が俺に興味を持たない世界」ってやつが来るのを待つのも、また別に、俺が内なる虚との融合を受け入れるってのも案の一つなんだろうが、出来ればそれを遠慮したいのが今の正直な心境だ。 『前回』『前々回』と、俺が崩玉に異常な恐怖感を抱いていたのも、それによる融合を厭っていたからだろうし。 「じゃあ、俺がこれからやる事は決まったな。まずはルキアの力じゃなく、俺自身の力で死神化しねえと。」 「それが今取ることの出来る最善の策でしょうね。話からすると、逆行してくる前の黒崎サンの死神としての力は失われていないようですし。」 お手伝いしますよ、と浦原さんが口元に弧を描く。 夜一さんもそれに異論は無いらしい。 「ありがとう、ございます。」 「いえいえ。もとはアタシの作った物が原因っスからね。これくらいやって当然のことですよ。」 「ま、そうじゃな。・・・黒崎一護、儂も同罪じゃて、おぬしの力になろう。」 「浦原さん、夜一さん・・・」 『前回』の夜一さんが言った通りだったな。 早い時点でこの二人と接触出来て良かった。 今から二人の下で己の死神の力を磨けば、必ず『前回』より強くなっているはずだ。 そうなれば今度こそ藍染に勝てるかもしれない。 先に、進めるかもしれない。 いや、「かも」じゃない。進んでやる。 ただ時間を遡るのが嫌なだけならルキアやこの人達と係わらないようにすればいい。 でも俺のこの性分じゃ、ルキアを放っておくなんてこと出来るはずねぇし、それに。 「・・・ッ、」 『前回』の光景が脳裏に浮かび、俺は奥歯を噛み締めた。 歪んだ顔を二人に見られないよう、しっかりと俯いて。 ・・・あの男は、藍染惣右介は『前回』でルキアを殺した。恋次を殺した。白哉を、浮竹さんを。 その原因が俺自身の軽率な行動にあることは解ってるけど、やっぱり、あの男を憎まずにはいられない。 気を抜けばあの男を殺すことを考えている自分がいる。 俺の大切な仲間の命をあっさりと奪ったアイツを、この手で切り裂いてやりたいと。 しかし物騒な感情を悟られまいと必死に押し隠す一方で、俺は自分がそんな想いを抱けることに安堵もしていた。 『二周目』での時、俺は自分のいる世界をゲームか何かのように捉えていることがあった。 とてもリアルなロールプレイングゲーム。 ラスボスは尸魂界の裏切り者で、俺は奴らに捕らえられたオヒメサマを仲間と共に助けに行くってな。 でも本当に丸々その世界をゲームとして捉えていたならば、今こうしてルキア達を殺した人物を憎もうとする感情すら湧いてこなかっただろう。 だから俺はまだ自分が"マトモ"であったことに安堵したのだ。 「・・・浦原さん、夜一さん。よろしく頼む。」 顔を上げて二人の名前を呼び、もう一度(ただし今度は感謝の意を表すために)頭を下げる。 さぁ気持ちを切替えて、先に進むためにもやるだけの事をやってやろうじゃねぇか。 |