『一周目』および『二周目』と同様に、俺は『今回(三周目)』もルキアの力で死神になった。 しかし家族を襲ったサカナ面の虚を倒した後、過去二回ともがそうであったように、俺の意識は途切れてしまった。 そしてその翌日。 学校に遅れて行けば、隣の席に転校生がいて、そいつがルキアで。 やはり「死神の仕事を手伝え。」だとさ。 とりあえずOKして放課後。 俺はルキアと離れ、制服姿のまま家とは別の方向に歩いていた。 もうすぐ目的地という所で視界の端に映ったのは塀の上からこちらを見下ろす猫。 漆黒の艶やかな毛並みと理知的な金眼を持つその猫に俺は足を止めて笑いかける。 「こんにちは。」 (アンタが教えてくれたことを『今回』は早々に実行してみるよ。) 黒猫が双眸を狭めた。 訝しんでいるのだろう。 大丈夫だよ、夜一さん。 その疑問の答えはもうすぐ提示するつもりだからさ。 徒歩を再開。 角を曲がって辿り着いた先は―――。 「すみませーん。店長さんいますか。」 ガラガラと引き戸を開け、店番をしていた巨漢に問いかける。 その巨漢が身に着けているエプロンにはこの店のマークが染め抜かれていた。 浦原商店の「浦」と。 「何用ですかな。」 巨漢―――テッサイさんが口を開き、身体の大きさの割には他人に圧迫感を与えないよう近付いてくる。 少なくとも敵視はされていないってことだよな。よかった。 外に出ないよう胸中でのみホッと一息つき、この店の店員であるテッサイさんにここへ来た理由を一言。 「死神業代行として浦原さんにお話が。」 少し声のトーンを落として言うと効果的だ。 テッサイさんは僅かに逡巡した後、少々お待ちくださいと言って店の奥へ引っ込む。 その場に突っ立って戻ってくるのを待ってると、足元に気配を感じ、俺は下を見た。 金色の双眸と視線が絡まる。 「・・・夜一さんも一緒に話を聞いてくれ。大切なことなんだ。」 その台詞に黒猫の目が一際大きく見開かれる。 今はまだ人の顔ではないけれど、「なぜ儂のことを知っておる。」と言っているのがよく判った。 先刻よりも更に判りやすい表情だしな。 夜一さんが何かを言おうとして口を開く。 しかしその直後、店の奥からようやく"その人"が現れた。 「アタシがここの店長、浦原喜助っス。昨夜死神業代行になったばかりのキミがアタシに一体何の用っスか、黒崎一護サン?」 ばさりと広げた扇子の向こうで笑う気配を感じ取りながら、俺は浦原さんをひたと見据える。 緊張で手のひらに汗が滲んだ。 さぁ言え。 ちゃんとここで話して、物語の流れを変えてみせろ。 「俺が巻き込まれている事態についてあんたの意見が聞きたい。・・・アンタが作った崩玉の所為で俺はこの世界を繰り返しているらしい。」 崩玉という単語を聞いて浦原さんの笑みが消えた。 帽子の陰から覗くのは射るような瞳で、思わずごくりと音を立てて唾を飲み込んでしまう。 その双眸がスッと細められ再び帽子の陰へと隠れると、一気に高まった緊張状態も多少解れたようだが、浦原さん達の張り詰めた気配はびしびしと肌で感じられた。 沈黙が身体に圧し掛かってくる。 押し潰されそうだ。 「・・・あの、」 「奥へどうぞ、黒崎サン。詳しい話はそこでお聞きしましょ。」 そう言って靴を脱いで上がるよう示される。 浦原さんの声は穏やかだったが、決して笑っちゃいなかった。 |