「君の成長率の高さには驚かされるよ。死神になってからたった数ヶ月でここまで強くなるとはね。しかし、」 穏やかなその声を俺は激痛の中で聞いた。 暗く不鮮明な掠れた視界の真ん中で藍染が微笑む。 「その程度で僕に刃を向けるのは無謀な行為でしかない。それは奇襲が失敗した時点で君自身も解っていただろうに。阿散井君の余計な言葉で変にやる気を出してしまって・・・。これが若さと言うものなのかな。」 小さな苦笑は勝者の笑み。 俺は、俺達はまた負けたのだ。この男に。 『前回』と違い、『今回』は相手に始解をさせてしまった。 解っていても幻を見破れない俺達は藍染に良い様に翻弄され、そしてこのザマ。 まず恋次が凶刃に倒れ、続いて俺もまともに立ち上がれない状態に。 その目の前でルキアから崩玉が抜き取られ、そのまま彼女は・・・。 くそっ! 力一杯歯を食い縛ったってどうにもならねえだろうが。 『今回』、崩玉が抜き取られた後のルキアを持ち上げ、藍染が市丸ギンに彼女を殺せと命じた際、(当然のことながら)白哉が助けに来るなんてことにはならなかった。 だから市丸が放った一撃は彼女の胸を貫き、その鼓動を―――ッ! 何なんだよ、これ。 どうしてこんなことにならなくちゃいけねーんだ!? 前よりもっと酷い。 こんな展開・・・俺は望んでなんかいなかった。 望んでなんか、いなかったのに・・・! タイミングの所為か、まだこの場に隊長達は来ていない。 なあ、これからどうなるんだ。 こんな、最悪の結末を迎えた世界で。 「それでは僕達もこの場を去るとしようか。目的の物と・・・あとは面白いサンプルも手に入ったしね。」 「サンプルて・・・。その子のことですか、藍染隊長。」 藍染の呟きと不思議そうな市丸の声が聞こえる。 視界は殆どが黒く塗り潰されていて役目を全う出来ていない。 俺の身体も相当ヤバイようだ。 「そうだよ。この子供を実験台にしてみるのも面白そうじゃないか。」 誰かが近付いてくる気配。 藍染、か・・・? 浮遊感が身体を襲う。 もう何がどうなっているのか判らない。 最後に光の膜のようなものに包まれた気がしたが、その後すぐ俺の意識は闇に落ちた。 「―――――ッ!!」 叫び声すら上げられず、息が詰まったように喉を押さえて膝をつく。 どこだ、ここは。 膝をついた床にも、周りの家具にも全て見覚えがあった。 瞠った目のすぐ前を黒揚羽が通り過ぎる。 肌で感じる気温は夏がまだ先であることを示すもので。 「そ、んな・・・」 ―――俺は戻って来ちまったのか? ここは、現世の、俺の部屋。 視界の端を死覇装姿の小柄な人影が横切った。 |