俺が双極の丘に戻った時、恋次は卍解状態のまま藍染と戦っていた。 だがどう見ても恋次の方が圧されている。 なにせ相手はまだ始解すらしていないのだから。 ・・・ああでも、始解されちまったら最悪だよな。 確か藍染の斬魄刀は始解を見せたことのある相手にいつまでも、そしてまたいつでも完璧な幻を見せることが出来るのだから。 「恋次、一旦退け!・・・月牙天衝!!」 はっとした恋次が慌てて卍解の蛇(に見える何か)を退かせ、それと入れ代わるように俺の放った黒い月牙が藍染を捕らえる。 舞い上がる土煙。 俺の奇襲に驚いたような、残り二人の隊長達。 渾身の力で月牙を放ったつもりなんだが・・・。 しかし二人の隊長達は驚きの表情をすぐ元に戻し、こちらに攻撃を仕掛けるでもなくその場に立っていた。 嫌な予感がする。 「一護!後ろだ!!」 「・・・ッ!?」 「遅いよ。」 恋次の声で振り向くが、眼前に迫る刃。 ぞっとするほど穏やかな声を耳に入れながら、俺は必死に身を捩る。 視界に赤が飛んだ。 一瞬遅れて脳に伝わったのは左腕の焼けつくような激痛。 くそっ、やられた! 瞬歩で恋次達の所へ移り、自分が今まで立っていた位置に目を向けると、白い羽織を靡かせて藍染が薄らと微笑んでいた。 「あんな攻撃如きで僕を傷つけられると思ったのかい?随分と見くびられたものだ。・・・ああそれとも、これが君の実力ということかな?旅禍の少年。」 「んなワケ、ねーだろ。」 こちらが強がってその台詞を吐いたことに相手は気付いているのだろう。 今この場では和むどころかムカつきしか起こらない笑みを湛えて藍染は「そうかい?」と目を細める。 奇襲は失敗。 力技も効かねえ。 じゃあどうすりゃいい? 恋次と力を合わせて戦ってみるか?前みたいに。 でもそれで本当に藍染を倒せるのか? ちっともマトモな案が浮かんでこない。 圧倒的に力が足りないのだ。 なら、虚に似た白いアイツの力を頼るか? いや、それは駄目だ。やっちゃいけない気がする。 一度でもこちらから頼ってしまえば取り返しが付かなくなるような、そんな予感がするのだ。 左腕の痛みと相俟って脂汗が頬を伝う。 視界の先で藍染の笑みが微かに深くなった。 「何を考えても無駄だよ。君は僕に勝てない。」 「ッ、」 うるさい。 それでも俺はお前に勝たなきゃなんねーんだ。 ルキアを助けて崩玉を死守する。 そうじゃねえと・・・。 「何言ってるんすか藍染隊長。俺達はあんたに勝つ。勝ってルキアを守り抜くんですよ。・・・そうだろ、一護。」 「恋次、」 俺の隣で藍染を睨み付けていた恋次が次いでこちらを見、ニッと口角を上げた。 こいつだって自分と相手との実力差は解っているだろうに。 ・・・ああ、そうだな。 それでも俺達はやるしかないんだ。 どんなに絶望的な差があったって、万に一つの可能性のために全力を出し切るしか。 「おう。ルキアは俺達が護る。」 恋次の台詞で迷いが消えるなんて情けないが、それも事実だ。受け止めるとしよう。 天鎖斬月を握り直せば、恋次の方からニヤリと笑う気配。 そんな俺達を藍染は、しょうがないな、という顔で眺めている。 でも構うものか。 さあ、始めるぜ。 |