『前回』と同じく斬月で燬鷇王の一撃目を防いだ俺は、その炎の鳥に背を向ける格好のままルキアに笑いかけた。

「よう。」
「い、一護・・・!」

潔く死ぬつもりらしかったルキアは俺が突然現れたことに驚いて目を瞠り、次いでハッとしたように、ただし声を潜めて囁く。

「貴様がこんな風に姿を現わしたということは、兄様と浮竹隊長が動いてくださったのか・・・?」

数日前、俺の突拍子も無い話をルキアも聞いていたため、彼女の中では俺が隊長達の前に現れたイコール俺の話を信じて白哉と浮竹さんが動き、何か証拠を掴んだという考えに至ったのだろう。
そうでなければ隊長達に負けて殺されるかもしれない俺がわざわざ出て来たりするはずがない、と。

兄や自分の隊長の協力を得られた(彼らが自分のために動いてくれた)と嬉しそうに表情を緩めるルキアを見つめ、俺は酷く胸が痛んだ。
しかし今ここで彼女に白哉達のことを教えるわけにはいかない。
高確率で彼らが危機的状況もしくは最悪の事態に陥っていることを知れば、ルキアは自分の所為だと言って壊れかねないのである。

俺は崩れそうになる表情を取り繕いながら彼女の喜びを訂正せず、第二撃のために距離を取る燬鷇王に合わせて後ろを向いた。
流石に二度目の攻撃を受け止めるなど不可能だと焦った声が背中にぶつけられるが、俺は何も燬鷇王の突撃を受けるために正面を向いたわけじゃない。

浮竹さんがいない今、防御してばかりでは燬鷇王は倒せない。
だからルキアを助けるためには俺がこいつを何とかしなくてはならないのだ。

視界の真ん中で燬鷇王が一度大きく羽ばたく。
俺は自分が纏う天踏絢の肩口に付いた四楓院家の紋をひと撫でし、斬月を構えて膝を曲げ―――――跳んだ。
空を滑るように飛んでくる燬鷇王とぶつかり合い、斬月でその嘴の横っ面を思い切り打つ。
同時に霊圧を上げて威力を増したその一撃でバランスを崩す燬鷇王。
すかさず追撃。

まずはその標的からルキアを外す。
俺が攻撃を避けた所為で後ろにいたルキアが消滅しました、なんて洒落にもならねえからな。

嘴の側面に二つの大きな刀傷を付けた燬鷇王の射線は目論見通りルキアからずれ、磔架のすぐ横を炎の翼が掠って行った。
俺もその軌跡を追う。

しかしこのまま戦い続けるつもりは、実のところ無い。
ルキアを磔にしたまま放置するなんて、なあ?ちょっと酷すぎるだろ。
それにきっともうすぐ卍解を修得した恋次がこの場所に現れる。
その時、俺はルキアを磔架から解放してスムーズに恋次へと彼女の身柄を預けなければならないのだ。
でもって、それが済んでから、ようやく俺と燬鷇王の対決本番と言うわけ。

つまり白哉がここにいない今、『前回』における白哉戦の代わりに俺は燬鷇王と戦うわけだ。
その間におそらく四番体の隊長と副隊長が藍染達のことを突き止めてくれるはず。
『今回』は『前回』と違う部分も幾つか生じてきているが、何とかなる・・・と思いたい。
この辺りは今の俺じゃあどうしようもないことだからな。


射線がずれた燬鷇王を追った俺は、相手が方向転換する前にその一方の翼のすぐ横に付いた。
熱気が周囲の空気を焼いている。
それでもさして熱く感じないのは霊圧のおかげだろうか。
相手の力より自分が纏う霊圧の方が強ければ、相手の刃は己を貫けない。
そんなことを『前回』の剣八が言っていたはずだ。

天踏絢で空中を駆けながら斬月の柄を握る手に力を込める。
そして燬鷇王の翼目掛けて月牙を放った。
純白の力の塊が翼の三分の一ほどを斬り飛ばず。
斬り飛ばされた炎の翼は膨大な熱量で周囲を満たしながら空中に霧散。
飛行する術を欠いた燬鷇王は地響きを立てながらそのまま地面に墜ちた。

これでしばらく時間が稼げるだろう。
霧散した翼が徐々に修復されていくのを舌打ちして眺め(最終的にはもっと強い力で燬鷇王の身体全てを消し去る必要があるのだろう)、次いで俺はルキアの元へ飛んだ。
さぁ、磔架を壊すとしますかね。

「一護・・・貴様、燬鷇王を・・・。」
「まだ倒しちゃいねーけどな。回復まで少し時間がかかるみてえだから、その間にお前をここから助け出す。」

磔架の上に立ち、こちらを見上げる格好になったルキアに笑いかける。
これで少しはその驚愕の表情を和らげることが出来ればいいんだが・・・。

ほんの少しの硬さを解消した彼女の表情を確認し、俺は刃先を下に向けて斬月を構えた。

「いくぜ。」



























(07.11.06up)










<<  >>