刑の執行当日。 日は昇り、徐々に高度を上げている。 やはり一日早まった所為だろう、恋次はまだ卍解に至っていなかった。 焦りを見せる恋次を横目に、夜一さん&具象化斬月ペア――ただし斬月は『前回』の卍解修行後半の時と同じように複数体――と戦っていた俺は、一旦それを中止して、ふう、と息を整えた。 「なんじゃ一護、もう終いか。ギリギリまで修行するのであろう?」 「おう。そのつもりだけど、アレをぶっつけ本番にしちまうのはちょっと如何かと思ってさ。」 他人が聞けば何のことだかサッパリな返答でも夜一さんには解ったらしい。 ふむ、そうじゃな、と呟いて俺から距離を取る。 「斬月、一度きちんとやっておこうと思うんだけど・・・」 「ああ、わかった。」 いつの間にやら一体に戻っていた斬月が小さく頷いて具象化を解いた。 こちらの様子に気付いたらしい恋次がチラリと視線を寄越してくる。 おいおい恋次、そんな暇があるなら卍解修行に力入れろよ。どうせあと少しなんだからな。 心の中でだけそう語り掛けて、俺は斬月を構えた。 両手で柄を握り、前に突き出した格好。 一呼吸ごとに霊圧が渦を巻き始める。 「―――――卍解ッ!!」 「ほう・・・。これはまた変わった卍解じゃの。」 「俺のは力を圧縮・小型化することで素早く動けるようになってんだ。」 漆黒の天鎖斬月を眺める夜一さんにそう説明する。 『前回』、白哉は俺の卍解を見て同じようなことを小難しく説明していた。 どうしてああも漢字変換に一瞬戸惑いそうな言い回しをするんだろうな、アイツは。 卍解としての戦力の全てをこの小さな形に凝縮することで、卍解最大戦力での超速戦闘を可能に〜だっけ? それはともかく。 俺の単純な説明で納得してくれた夜一さんは、次いで何か思い出したように「良い物を持って来てやろう。」と笑ってさっさとこの場から姿を消してしまった。 さすが瞬神。行動が早い。(え?意味が違う?わかってるって。) おそらく夜一さんが取りに行ったのは『前回』も俺に貸してくれた天踏絢。 空を飛ぶ道具が無けりゃ磔架に磔にされたルキアを助けられねえからな。 夜一さんが居なくなり、俺と恋次が残される。 視線だけでなく顔ごとこちらに向けた恋次は驚きに目を瞠り、絶句していた。 アイツ、俺がもう卍解出来るって知らなかったもんなァ。 「ってなわけで、俺はもう卍解可能だから。お前も頑張れよ、恋次。」 「なっ!テメー、いつの間に・・・」 「企業秘密だ。」 どうせ言っても信じねーだろうしな。 「まぁお前ももうすぐ卍解に辿り着けるだろうよ。だから驚いてばっかいねえでさっさと修行に戻りやがれ。」 「うるせえ!」 俺が既に卍解習得済みであったことを知り、恋次は驚きを覚えつつも同時に焦りをやる気へと変換することが出来たようだ。 俺に負けていられないとでも思ったんだろう。 それは何より。 今まで以上の勢いで修行を再開した恋次を横目に、卍解状態の俺は久々の感覚に慣れるため、そのまましばらく身体を動かすことにした。 流石にこんな所で月牙天衝を撃つわけにはいかねえけどな。 一旦外に出ていた夜一さんはルキア処刑の一時間ほど前に帰って来た。 取って来た天踏絢を俺に渡し、彼女はその使い方やら双極のことやらを「知っているかもしれんが一応な。」と前置きして教えてくれた。 その話の内容は、『前回』よりも時間があったおかげで幾らか詳しいものとなっており、燬鷇王を特別な道具も無いまま倒すことは可能なのかという話にまで至った。 どうやらあの燬鷇王(双極の鳥)、強い力をぶつけてやれば消えるらしい。 (勿論生半可なものじゃ如何にもならないけどな。なにせ斬魄刀百万本分の鳥だ。) 焔を纏ったあの身体を構成している霊子の結合が、強力な霊力との衝突によって砕けてしまうのだそうな。 つまり、頑丈だが基本は死神と一緒というわけ。 それなら俺の力だけで何とか出来るかもしれない。 一応、燬鷇王の一撃を受け止めた『前回』より力は更に上がっているはずだから。 こんなことを考えるのも、『今回』、浮竹さんが(おそらく)特別な道具を持って燬鷇王を止めてくれるという展開にはならないだろうからだ。 あの鳥を消し去った道具は隊長クラスの死神が二人以上必要らしい。 しかも息の合った行動を取らなくてはならない。 だから俺や夜一さんもしくは恋次があの道具を使えば・・・と考えても、それは無理なのである。 残念ながら、俺達はあの隊長達(浮竹さんと、あともう一人は京楽さんと言うらしい)より息の合った行動は取れないからな。 説明も終わって俺が外へと出て行こうとした時、まだ恋次は卍解に至っていなかった。 でもその顔に焦りの要素は少ない。 あと一歩・・・いや、半歩であることをアイツ自身が一番よく解っているからだろう。 だから俺は恋次を置いて先に行くと告げる。 後から絶対来いよ、とも。 夜一さんは恋次と共にもう少しここに残るのだと言って岩に腰掛けたので、俺は一人、その場を後にした。 ―――それじゃあ行きますか。ルキアを助けに。 |