『前回』において夜一さんとの修行――実際には斬月と、だが――は二日間しかなかった。 その二日が終わった翌日にルキアの処刑が早められてしまったからだ。 たった二日。されど二日。 どうやら俺の成長速度はもともとの霊圧が大きかったことも手伝って他より随分と速いらしい。 まあ、必死に滅茶苦茶な鍛え方をしたってのも大きいんだろうけどな。 そんなわけで、たった二日であろうともそれは意味を持った二日間だったのだ。 しかしほぼ『前回』通りやってきた『今回』だが、大きな違いが一つ生じていた。 それは白哉達が藍染の企みを俺から知らされたと言うことだ。 白哉は、対外的には冷血な兄を演じているが、本当はルキアが大切で仕方ない。 だから彼女を助ける理由を得られるなら無茶くらい平気でやってのけるだろう。 でも俺は藍染のことを白哉達に教えた時、その後で彼らがどんな行動に出て、それがこの事態にどんな変化を齎すのか、きちんと考えちゃいなかった。 俺が己の失態に気付いたのは夜一さんとの修行初日。 本当なら二日目に訪れるはずの恋次が双極の地下に現れた時だった。 予定とは違う人物の登場に驚いていると、恋次は焦った様子で俺と夜一さんに告げた。 「ルキアの処刑が明日になった。明日の正午だ。・・・もう時間が無ぇ。」 「そんな馬鹿な!」 処刑日は明後日のはずだぞ!? 「馬鹿も何も、本当のことだ。なんでか知らねえが、いきなり中央四十六室が通達してきやがった。それに・・・」 舌打ちでもしそうな様子で喋っていた恋次が、ふと口篭る。 何だ・・・?何か嫌な予感がする。 「どうした恋次。他にマズいことでもあるのか?」 尋ねると、恋次は険しい表情を更に険しくして静かに言った。 「朽木隊長と浮竹隊長が行方不明なんだ。」 「・・・ッ、」 その一言に息を呑む。 間違いない。 きっとあの二人は俺が言ったことを信じて藍染を探っていたのだ。 でもそれが藍染達に知られて―――。 ルキアの処刑が『前回』より早まったのも、白哉と浮竹さんが行方不明になったのも、俺が要らぬことを教えてしまった所為。 俺は、なんて馬鹿なことを・・・。 ぐらりと視界が揺らぐ。 タイミングから言って、きっとその場には治療のエキスパートである四番隊の隊長はいない。 だから中央四十六室(禁踏区域)に向かったであろう白哉達が助かる可能性も・・・。 そう、向こうは三人なのだ。 しかも判っているだけで藍染は他の隊長格とは比べものにならないくらい強い。 他の二人だってそれにつり合う実力を持っているはず。 そんな三人と白哉達二人じゃ結果は見えているではないか。 どうして俺はそれに気付けなかったっ!? 本当は教えちゃいけなかったんだ。 白哉がルキアを大切に思っているなら尚更。 あの二人を藍染達に近付かせてはいけなかった。 それなのに・・・! 「・・・い、おい一護!どうしたんだよ。」 「れ、んじ・・・」 罪悪感が込み上げる。 「俺、は・・・」 「一護?」 「一護。儂らはまず、ルキアを助けることを第一に考えるしかない。他はもう考えるな。」 強い意志を込めて俺に囁いたのは、傍らに立った夜一さん。 金の瞳が俺の内心を理解した上で「しっかりしろ」と告げていた。 「・・・・・・・・・あ、ああ。わかった。」 ・・・そうだ。 今出来ることをやる。 立ち止まってる暇なんてないんだ。 夜一さんに頷いて見せ、次いで恋次に向き直る。 「絶対にルキアは助ける。だから恋次、お前の方もよろしく頼むぜ。」 「はっ、誰に言ってやがんだよ。テメーに頼まれなくても俺はルキアを助ける気満々だっつの。」 「そうだな。」 ニヤリと笑う恋次にこちらも笑い返し、そうして俺は修行に戻った。 少しでも藍染との差を縮めるために。 |