白哉達から離れ、双極の丘の下にある隠れ部屋に向かおうとした俺に掛けられた声は、 「どういうことか説明してもらおうかのう、一護。」 鋭さを増した夜一さんの声だった。 「やっぱり聞いてたのか・・・」 「ああ。本当はすぐにおぬしらの前へ出て行くつもりじゃったが、おぬしの話に興味を引かれてな。」 隠し部屋に戻った後、俺は夜一さんと向かい合わせに座り、その会話を始まりとして全てを話すよう要求された。 俺が何を知っているのか。そして、何故それを知っているのか。 ここまで来て誤魔化してしまうのも意味が無いと思い(その前に夜一さんを誤魔化しきれるとも思えないし)、そうして俺は全てを話した。 『前回』のことも、それによって『今回』がどう変化したのかも。 また俺が『前回』の記憶をどこまで持っているかと言うことも。 彼女は逐一驚いたり訝しんだり納得したりして様々な反応を返してくれていたが、ただ一つ、俺の中に居る白いアイツについて仮面を見せながら話した時にだけそれまでとは比べものにならない驚愕を見せた。 それこそ絶句、という言葉が似合うほどに。 まぁ最終的には「今はまだ様子を見るしかないのか・・・」と呟いて終わりにされてしまったのだが。 そう言えば『前回』でも夜一さんはこの仮面に異常なくらい反応していたよな。 やはり死神が虚を思わせる仮面を持っているのは異常だからだろうか。 でもそれだけで・・・? もしかして夜一さんは虚の仮面を持つ死神について、何か知っているのかもしれない。 例えば俺以外にも何人か確認されている、とか。 しかしまあ、とりあえず今はそれを脇に置いておくとしますか。 夜一さんもそんな感じだし。 「もう少し早く教えてくれればこちらもまた違った策を練れたのじゃが・・・」 「だけど今このタイミングじゃなかったらもっと信憑性に欠けてたんじゃねえの?」 今でも微妙なところだろうし。 「いや、それは判らんぞ。なにせおぬしは"二つのこと"をハッキリと断言したからな。」 「・・・?」 疑問符を浮かべる俺に対し、夜一さんはスッと双眸を狭めて真面目な顔をした。 「儂らの本当の目的が崩玉であること。そして、それを藍染惣右介が狙っておるということじゃ。」 「ッ、それじゃあ、」 夜一さん(と、きっと浦原さん)は最初からこの騒動の黒幕を知っていたということなのか。 「本当ならば崩玉の隠し場所とそれが藍染に狙われておるということを知るのは儂と喜助、そしてあと一人しかおらん。それほど崩玉とは危険なものじゃからな。にもかかわらず、何も知らされていなかったはずのおぬしがそのどちらをも断言出来るということは、『前回』と称しておる事態を体験したか、もしくはおぬしが実は藍染の手の者だということくらいに絞られてしまうのじゃ。」 「でも俺が藍染と繋がってるはずが無いから・・・」 「そう。だからおぬしの言っていることを儂は事実と認めるしかないんじゃよ。」 「な、んだ・・・。そうだったのか。」 それならもっと早く打ち明けておくべきだったな。 上手くすれば浦原さん達に協力してもらって本来よりもずっと前の時点で本物の死神になることだって可能だったかもしれないのに。 俺は藍染を倒すための修行も沢山して、もっと実力をつけなきゃなんねーんだから。 過去の自分の無用な慎重さに幾らかの後悔を覚えながら、しかし、と俺は思考を切り替える。 過ぎてしまった時間はしょうがない。 今は今で、やれることをこなして行くしかないのだ。 と言うわけで。 「だったら夜一さん、早速俺に修行をつけてくれねえか。卍解はもう可能だから、ルキアの処刑ギリギリまで他の所を鍛えて欲しい。どうせこっちが藍染と接触出来るのはそれからなんだ。頼む。」 そう言って夜一さんに頭を下げる。 立場上この人が否と答えるはずなど無いけれど、教えを請う者としては必要なことだろうから。 すると夜一さんは諾と答えて俺に顔を上げるよう促す。 「儂の方こそよろしく頼むぞ。おぬしが覚えている『前回』の二の舞にならんように、しっかりやらせてもらおう。」 だがその思惑は脆くも崩れ去ることになる。 |