「・・・・・・冗談はよしてくれないか。」 「冗談なんかじゃねえ。今の俺はその証拠も何も持っちゃいないが、これは本当のことだ。今、藍染が狙っているのはルキアの魂魄に隠された『崩玉』という物質。かつて技術開発局の初代局長が創った死神と虚を融合させるための道具。藍染はそれを手に入れて今度こそ本当に死神や虚を超えた存在を作り上げようとしている。・・・冗談で言えるようなことじゃねえんだ。」 「でも藍染の死体は本物だと卯ノ花が・・・」 否定するようにそう呟く浮竹さんを見つめながら俺は続ける。 「それが藍染の斬魄刀の能力、完全催眠だ。隊長達に完璧な幻覚を見せて自分は死んだと思わせ、おそらく今頃は大霊書回廊で崩玉の封印を解除するために文献でも探してるじゃねえかと思う。なんなら確かめてみりゃいい。藍染と、あとはもしかしたら市丸って奴、それと盲目の隊長も仲間だから、そのどっちかは一緒にいるかもしれねえ。」 ――― 一人で向かえば『前回』の日番谷隊長(だっけ?)みたいに返り討ちに合うかもしれないが。 こちらが話している間、ずっとその表情と態度で否定を続ける相手に多少の苛立ちを感じながら俺は口を閉じた。 さあ、どう出る? 『前回』とは随分違う展開になっちまったぜ。 「そんなこと・・・信じられるわけがない。君は朽木と仲が良かったとは言え、共に過ごした時間は数ヶ月、加えて俺達とはほぼ初対面だ。それに対して藍染はここでずっと同じ隊長職についてきた仲間。あいつの性格を俺達はよく知っている。決してそんな酷いことをするような奴じゃない。勿論、市丸や東仙に関してもだ。」 押し殺した声で静かに浮竹さんが告げた。 ああ、やっぱりそうなる訳か。 多少どちらが正しいのか未だ迷ってくれているようだが、天秤は大方藍染の方に傾いてしまっている。 これじゃあ大した事態の改善にはならないだろうな。 そうですか、と声を落として返事とし、そして俺は――― 「待て。貴様の言葉、全てが嘘と断定するのは些か早計に過ぎる。」 ・・・なっ!? 驚いて見つめた先には無表情を貼り付けた白哉の顔。 その顔を、ルキアも浮竹さんも俺と同じく驚愕の色を浮かべて見ている。 「兄、さま・・・?」 「どういうことだ、白哉。」 一番旅禍の言葉に耳を貸さなさそうな人物がそんなことを言うなんて。 いや、でもこいつは確か本心ではルキアを助けたがっていた奴だ。 でも掟に縛られてその心とは逆の方向に進んでいた。 だから正当な理由で妹が死なずに済むと言うのならそちらを取るのが当たり前だと言うことなのだろう。 白哉は浮竹さんの方を向いて口を開いた。 「兄は臥せっていた故にその場には居なかったが、旅禍が一度白道門から侵入した際、"たまたま"近くにいた市丸隊長が旅禍の対処に当たった。しかし今この場に黒崎一護がいることからも判るように、彼奴は旅禍を殺し損ねている。あの市丸が、だ。確か奴は藍染の元副官だったな。加えてその旅禍を取り逃がしたことに関する隊首会が二度目の旅禍侵入の警鐘で中断された際も、あの二人はわざとらしくいがみ合っていた。まるでその後の藍染の死の犯人が市丸だと我々に示すかのように。・・・あとは、その時の警鐘も実際には偽物だった。旅禍達が空から二度目の侵入をする大分前に鳴らされたからな。それも彼奴らの関係を演出するために鳴らされたと考えることが出来る。」 「白哉!!お前、藍染達のことをどう思って・・・!それに藍染の斬魄刀の能力、俺達は実際にあれを見ただろう!?彼が言ったものとは違う!」 そう言って浮竹さんは俺を指差す。 しかし白哉はこちらを見ないまま淡々と続けた。 「黒崎一護の言ったことが正しいなら藍染の斬魄刀の能力は完全催眠。我々に嘘を見せることも容易かろう。」 仲間を敵だと言われて激情を露わにする浮竹さんに対し、白哉は何処までも冷静だ。 話の通し方がかなり強引だけどな。そこは妹への愛情でカバーか? 隊長同士の会話に取り残されて唖然とする俺とルキアだったが、浮竹さんが黙り込み、白哉がこちらを向いた瞬間ハッとして、いつでも動けるように意識だけは張り詰めた。 「黒崎一護、」 「何だよ。」 「ここは退け。」 「・・・は?」 有り得ない。 こいつがそれを言うか?と、そんな台詞が頭の中で繰り返される。 「どういう意味だ。」 「私は貴様が言ったことを護廷の隊長として調べる必要がある。貴様が話したことはそれだけ重要だと言うことだ。ゆえにその真偽が判らぬ今、貴様を捕らえることはあまり好ましくない。全ての判断を下す中央四十六室が悪意ある者の手に堕ちている可能性があるのなら。」 刑の執行までまだ間はある。だから今は退け、と白哉は最後に付け足した。 これは・・・予想外の展開だ。 今後の流れによっては白哉(と浮竹さん他、護廷の隊長達)が味方になってくれるかもしれない。 はっきりと変わり始めた未来を感じて脈拍が速くなるのを自覚しながら俺は一度だけ頷く。 わかったよ、今は退く。 ああ、でも。 「岩鷲達は、」 「・・・彼らは俺が面倒を看よう。」 「浮竹、さん・・・」 冷静さを欠いていた己が今になって恥ずかしく思えたのか、浮竹さんは頭を掻きながら俺に笑いかけてきた。 そうだな。基本的に他人を大切にしてくれそうなこの人なら岩鷲達を任せても大丈夫だろう。 『前回』も平気だったんだし。 「それじゃあお願いします。」 隊長二人に向かって頭を下げる。 そして俺はその場を去った。 |