懺罪宮の四深牢に通じる橋の上。 俺がそこに辿り着いた時、岩鷲は血まみれで花太郎はすっかり腰が引けてしまっていた。 そんな花太郎を軽く宥め、俺はルキアと向かい合う。 「ルキア、」 今はまだ助けられないことを知っているからこそ、助けに来たぜ、と続けることは叶わない。 ただ名前を呼んで苦笑するだけ。 「・・・莫迦者っ!あの時の私の決意をどうしてくれるつもりだ。」 「それに関してはお前が考えてるものよりもっとマシな結果を出してチャラにしてやるさ。」 「一護・・・」 顔を歪め、終いには俯いてしまったルキアの頭を軽く撫で、俺は二人の隊長に向き直る。 白哉ともう一人、白髪の隊長。 旅禍である俺を睨み付けるでもなく、むしろルキアを心配し、なおかつ不機嫌さを隠そうともしない白哉が暴挙に出ないか気を張っているような感じからして、ルキアの処刑には反対か少なくとも積極的な賛成ではないことが窺える。 「ルキア、白哉の隣にいるのは―――」 「私が所属する十三番隊の隊長だ。」 「俺の名前は浮竹十四郎だよ、旅禍の少年。」 俺は背後のルキアだけに訊いたのだが、彼女の返答に続いて本人からも答えが返って来た。 その声も白哉の冷たさとは違って実に好意的だ。 「浮竹さん、か・・・。俺は"旅禍の少年"じゃなくて黒崎一護っていう名前があるんで、呼ぶ時はそっちで頼みます。」 「・・・変わってるな、君は。」 「浮竹さんの方こそ。」 苦笑を浮かべる浮竹さんにつられるようにして俺も笑う。 自分達の立場を考えれば容易にそんなことは出来ないはずなのだが・・・やはり浮竹さんの雰囲気の所為だろうか。 きっと隣に白哉がいなかったら、もっと和やかになってたんじゃねえかな。 そう思っていると、ふと浮竹さんの表情が苦笑から驚愕へと変化していることに気が付いた。 何を見てそんなに驚いてるんだ? 浮竹さんの視線は俺に固定されたままだし、後から来ると言った夜一さんが到着したわけでもない。 勿論不機嫌そうな白哉が何かをしたわけでもないし―――。 「海、燕・・・?」 「え?」 誰だそれは。 なんで俺の顔を見たまま違う奴の名前(たぶん)なんか・・・。 戸惑いながら背後に視線を移すと、ルキアさえ何かを耐えるような表情を浮かべていた。 その目は俺を通して俺じゃない誰かを見ている。 一体誰を。 「何をしている浮竹。兄ともあろう者があの男と他人を混同するか。」 「ッ、」 「・・・!」 白哉の声で二人が正気に戻る。 どちらも俺も顔を一瞥して気まずそうに顔を伏せた。 どうやらその海燕という人物は白哉・浮竹さん・ルキアの三人ともが知っている存在らしいな。 そしておそらく俺がその人にどこか似ていたりするんだろう。 異変があったタイミングから考えて、笑った顔とか。 また、二人の辛そうな表情を鑑みるに、海燕って人はもう既にここにはいない人物なんじゃないだろうか。 だとすると少々訊きにくい。その海燕ってのはどういう奴なんだ、って。 しかしルキアが顔を上げて俺を見た時、彼女は俺の抱いた疑問を読み取ってしまったらしい。 白哉と浮竹さんをチラリと見、痛ましい表情のまま口を開いた。 そして俺は"海燕"とある事柄の意外な繋がりを知る。 |