「・・・っ、チャドがやられちまったか・・・」 記憶通りチャドの霊圧の異変に息を呑んだのは剣八との戦いを終え、やちると名乗ったあの小さな女の子が負傷した剣八を連れて何処かへ去った後のことだった。 出来ることならチャドの所へ向かいたい。 しかし今の俺にはそれが出来ないのが現状である。 剣八との戦いで俺は左脇腹に傷を負っていた。 はからずとも『前回』と同じところだ。 痛みで気を失うほどではないが、容易に動ける傷でもない。 そして勿論、チャドが負けた相手に対して勝利出来る体調だと言うつもりもない。 ただし今回のことでチャドが死ぬはずないと知っているからこそここで夜一さんが来るのを待っていられたが、もし知らなかったとすれば俺は這ってでもチャドの所へ向かったに違いないな、とは思う。 斬月が傷口を塞いでくれているおかげで大量出血は免れているが、それでも余り長くは持たないだろう。 花太郎に救急セットの一つか二つ貰っておけば良かったな。 そう思いながら小さめの溜息を一つ零す。 動作が控えめなのは傷に響くからだ。 早く夜一さん来てくれねえかなぁ。 目の前が霞み始めたような気がする。頭もくらくらするし。 なんか、ちょっとヤバイ・・・? と思っているうちに俺の思考はブラックアウトした。 やはり出血を侮ってはいけない。 目を覚ますと見覚えのある天井。 どうやら気絶している間に双極の丘の中腹にある隠し部屋に運ばれたらしい。 顔を横に向けると黒猫の足が見えた。 「夜一さん・・・」 「気が付いたようじゃの。」 金色の眼でこちらを見据えながら無音で(猫だからな)歩み寄ってくる。 『今回』も夜一さんが怪我を負うという事態は起こらなかったようだ。 さすが夜一さん。 心中で拍手喝采をした後、出血多量で気絶していた俺を助けてくれたことに礼を述べる。 「助けてくれてありがとな。ここまで運んで来るの、重かっただろ?」 「何。おぬし一人運ぶくらい儂にとっては軽い運動にすらならんよ。」 そう言って小さく笑うのに合わせ、黒い尻尾がゆらりと揺れた。 「それにしても更木剣八相手によくぞこの程度の傷で済んだもんじゃ。」 「浦原さんに鍛えてもらったからじゃねーの?あの人、なんか凄い人なんだろ。名前出しただけで目の色変える奴とかいたし。」 実はそれだけじゃないのだが、ゲームで言うところの二周目だったから俺も多少は強くなってるんです、とは流石に教えられないので当たり障りの無い方の理由を挙げる。オマケつきで。 すると夜一さんはほんの少し目を見開いたかと思うと、 「おぬしは喜助の正体を知らされておらんかったのか。」 そう言って、またゆらりと尻尾を揺らした。 ええ、知らされていませんとも。 『今回』も『前回』同様、浦原さん本人からその正体――元死神だったこととか――はこれっぽっちも聞かされていない。 まぁその必要も無かったしな。 それに、もし"何も知らない俺"が浦原さんの口から元死神だったことを聞けば、どうして浦原さんは尸魂界に行かないのか問うてしまうかもしれない。 だとすれば、浦原さんが永久追放によって尸魂界に行かないのではなく行けないこと、永久追放になった理由つまり特殊な義骸や崩玉のことまで芋蔓式に明かされることになるだろう。 それを聞けば、俺は当然怒るし、浦原さんに大きな不信感を抱くことになる。 結果、修行があまり上手くいかなくなるかもしれない。 良いことは何も無いのだ。(あったとしても他人から知らされた時にあまり驚かずに済むとか、そんな程度だ。) きっと浦原さんはそういうことも考えて俺に正体を教えなかったんじゃないかと思う。 心情的に言い辛かったってのもありそうだけどな。もしくは面倒臭かったとか。 何も知らない(はず)の俺を見て、夜一さんは溜息を一つ零した。 まったく彼奴め・・・と、ここにはいない人物を詰り、次いで『前回』ならばもう少し後で教えてくれたはずのことを話し始めた。 「喜助は元護廷十三隊十二番隊隊長であり、また技術開発局創設者にしてその初代局長でもあった男じゃ。」 意図せぬちょっとした変化に驚きながらも俺は黙ってその話に耳を傾ける。 勿論、初めて聞くフリをして。 |