「く、くそ・・・!長え階段だな・・・!何段あんだチクショウ!!」 「もうすぐてっぺんだ!!」 岩鷲の愚痴に叫び返しながら足を動かす。 本当に嫌になるくらい長い階段だが、にもかかわらずここまで誰にも見つかっていない。 やっぱり総員退避の命令でも出てるんじゃないか?剣八警報とか。 更木剣八ガ暴レマス。ゴ注意クダサイ、ってな。 自分の想像に苦笑しながら最後の一段に足をかける。 これで階段終了。 岩鷲も花太郎もお疲れさん。でもまだ走ってもらうぜ。 ここに居ちゃあ剣八と俺の戦いに巻き込まれちまう。 「止まらず行くぞ!」 「わかってるよ!」 「はっはい!」 その返事の直後、巨大な霊圧が辺りを満たした。 思わず足を止めそうになる岩鷲と花太郎に俺は怒鳴る。 「止まるな!走れ!!」 その言葉で二人とも解ってくれたらしい。 俺がここで相手を止めるから岩鷲達は先に行ってくれ、ということを。 走り去る二人に「頼む!」と告げ、俺だけがその場に残る。 剣八の気を引くようにわざと霊圧を上げながら。 「来いよ、更木剣八。俺のことは一角から聞いてるんじゃねえか?」 「てめえが黒崎一護か。」 声は背後から。 ゆっくり振り返ると、案の定、そこには凶悪に楽しそうな面をした剣八が立っていた。 「俺の名を知ってるとはな。一角が伝えた、なんてことは聞いちゃいねえんだが・・・。」 まあいい、と言って剣八は口端を吊り上げる。 そういや俺は『前回』のこともあって剣八を知ってたけど、『今回』の場合、本当なら知らないはずなんだっけ? 一角が目ェ覚ます前に別れちまったから剣八の存在をアイツの口から聞くこともなかったし。 でも剣八が「まあいい。」の一言で片付けてくれたから良しとしよう。 気にするような問題は無い。 「俺がここに来た理由は分かってるな。」 「殺し合いがしたいんだろ。」 即答し、ついでに霊圧も上げてやる。 ああもう、すっげえ嬉しそうな顔しやがって。 本当のところ剣八と戦り合うのは避けたい事態だった。 いくら一度戦って勝ったと言っても俺自身大怪我を負っちまったからな。 それに俺は尸魂界にルキアを助けに来たのであって、戦いを楽しむために来たわけじゃない。 もちろんここでグズグズしていた所為で岩鷲と花太郎を危険な目に合わせたこと――白哉と遭遇してしまったことだ――も忘れちゃいない。 しかしながらやはり剣八と出会ってしまった以上、戦いを避けることは不可能だろう。 俺に出来ることはこの戦いに岩鷲達が巻き込まれないよう先に行かせ、そしてあいつらがなるべく酷い目に遭わないよう神だか何だかに祈っておくことくらいだ。 苦虫を噛み潰したような表情を隠すこともなく俺は目の前の剣八を見据えて背中の斬月を抜く。 剣八もそれに合わせるかの如く名前の無い斬魄刀を抜いた。 『前回』はサービスと称して一度斬り付けさせてくれたのだが、どうやら『今回』それが適応されることはないらしい。 やはり俺の霊圧をいつもより上げているからか。 まぁそんなサービスされたって『前回』と同じように腹を立てるんだろうけどな、俺は。 確かに今の俺なら一撃で剣八に致命傷を負わせることも可能だ。 しかし構えてもいない奴に斬り付けるなんてやっぱり嫌だから。 「どうした旅禍。来ねえのか?それともこっちの出方を窺ってるつもりか?」 ニィと剣八が笑う。 まだ眼帯を外していないにもかかわらず物凄い霊圧だ。 圧し負けないようこちらも集中を高め、俺は返事の代わりに床のタイルを踏み抜いて走り出す。 正面から相手の懐に飛び込んで一太刀。 しかし斬魄刀で防がれ、金属音が鳴った。 他とは比べものにならない固めの手ごたえを感じながらギシギシと力の限り押し付ける。 俺は両手、相手は片手というところに、悔しいが純粋な力の差を実感してしまう。 でもそれがそのまま実力差になるわけじゃない。 霊圧、スピード、剣術、他様々ものが組み合わさって実力になるのだ。 そして己の斬魄刀とどれだけ信頼関係を築けているのか、ということも。 (・・・斬月、力を貸してくれ。) 心の中で語りかける。 返答は――― 『ああ、存分に使え!』 力強い声がするのと同時に俺の霊圧が跳ね上がった。 指先にまで力が満ち、周りの空気がビリビリと震える。 目を瞠る剣八に犬歯を見せるような笑みを向けながら俺はそのまま相手を斬魄刀ごと吹き飛ばした。 剣圧で周囲の建物が倒壊し、剣八の上に瓦礫が降り注ぐ。 大きな地響きを立てながら白亜の建造物が一つ消え去った。 しかしこれくらいで剣八がくたばるなんて思えるはずもなく、気を抜かずに斬月を構える。 それにもしあれで剣八がくたばるなら、剣八と一緒にいたピンク色の髪の女の子が何かしら行動を起こすはずだ。 でもその子は現れない。 と言うことで、そのことも剣八がピンピンしている証拠になるわけだ。 意識を研ぎ澄ませるように深い呼吸を一つ。 柄を握る手に汗が滲んでいた。 それを自覚した直後。 ―――ドォンっ!!! 「・・・ッ!」 見据える先で霊圧が爆発し――まさにそう表現すべき大きさだ――瓦礫が吹き飛ばされたり粉々になったりする。 この霊圧の大きさは、もしかして・・・。 「てめえみてぇな奴は初めてだ。楽しくてしょうがねえ・・・!」 現れたのは狂喜の表情をした剣八。 その右目に黒色の眼帯は―――――無い。 楽しげに歪んだ双眸がはっきりと俺を捉えていた。 どうやら『前回』と比べて随分早めに決着が付きそうだが、大変なのに変わりはないらしい。 (斬月・・・) 柄を握り直しながら胸中で語りかける。 ここからが本番だ。 おそらく俺も無傷では済まないだろう。 しかし絶対に負けはしない。 なぜなら敵は一人。対して俺は斬月と一緒―――二人だからだ。 (行くぜ。) 霊圧が更に上昇したのを感じながら駆け出す。 そして俺達は白亜の床を、建物を、全て巻き込み砕きながら切り結んだ。 |