恋次との戦いから一夜明け、岩鷲も、その傷を治療した花太郎の体力も回復したので、俺達は再び地下水道から地上へ出た。 花太郎の持っていた滋養強壮剤とやらの効き目は怪しいものだが、俺の傷を手当する必要が無かったので『前回』ほど疲労せずに済んでいたのは確かだろう。 これから懺罪宮の長い階段を上るわけだから体力があるに越したことはない。 「・・・なあ、そういや他の連中は大丈夫かな。白マントのメガネとか胡桃色の髪のカワイ子ちゃんとか。」 地上に出て周囲を見渡していた岩鷲がそう言いながら俺を見た。 なんとも古い言い方をするもんだなってのは、たぶん『前回』の俺も思ってたんじゃないだろうか。覚えてねえけどな。 あの会話の後、懺罪宮の階段を登って剣八との戦いになった。 その最中、チャドの霊圧が途切れたような気がして色々と思考が吹っ飛んじまったし。 『前回』の自分の剣八戦でのうろたえっぷりを思い出して内心苦笑する。 おっと。それよりもまず岩鷲の問いに答えるのが先か。 「石田も井上も大丈夫だろ。あいつらだってこっちに来るために修行してたみてぇだし。」 少なくとも皆、怪我を負っていても死んではいなかった。 双極の丘で白哉との戦いを終えた俺に駆け寄ってこれたくらいだしな。 「もう一人は?あのチャドとかいう・・・」 「チャドも大丈夫さ。霊圧もちゃんと感じられるし、俺はあいつが死なないってことを知ってるからな。」 「知ってるたァ随分と自信のある言い方じゃねーか。」 「今までの付き合いから導き出した予想ってことにしといてくれ。」 本当は一度体験したからなんだけど、流石にそれは言えないしな。 ふーん、となんとなく納得したらしい岩鷲。これで会話も終了だろう。 俺達を静かに眺めていた花太郎を促し、懺罪宮へ足を向ける。 「それにしてもこの辺、警備が手薄すぎやしねえか?」 走りながら岩鷲が訝しげに呟いた。 確かにそうだ。 下っ端の一人すらいやしない。 『前回』の俺では気付きもしなかったが、岩鷲の呟きを聞いて俺も首を捻る。 ・・・が、その理由はすぐに思い至った。 懺罪宮の階段を上りきったその先に"アイツ"がいるからだ。 下手に弱い死神がいてはアイツの霊圧に当てられて使い物にならなくなってしまうのだろう。 その思考に至り、これからのためにも俺は岩鷲達に注意を促しておくことにした。 「もしかしたらこの先に何かが待ってるのかもしれねえぜ。雑魚が何人いるよりも、そいつ一人の方が強いってのがな。」 「・・・それがマジだったらどうする気だよ。」 「俺が相手をする。岩鷲と花太郎は先にルキアを助けに行ってくれねえか。」 「・・・・・・・・・・・・、わかった。」 少々長く考え込んでいたが、そう言って岩鷲は首を縦に動かす。 たぶん俺が副隊長である恋次をほぼ無傷で倒したことを思い出していたのだろう。 それで、まぁ俺に任せてもいいかなってことになったんじゃねえかな。 後ろを振り返って花太郎にも確認を取ると「わかりました。その時は先に行かせてもらいます。」と頷きが返って来た。 「頼んだぜ。」 告げて、再び前を向く。 そして俺達は長い階段を上り始めた。 |