気絶している一角の怪我を本人の血止め薬を拝借して治療した後、ルキアの居場所をわざわざ尋ねる必要も無かったので、俺はそのまま岩鷲を探すために歩き出した。 とは言っても、無闇に探し回るのではなく、優先すべきは花火が上がるまで敵に見つからないようにすることだ。 そういや花太郎は今頃何処にいるんだろうな。 アイツがいないとルキアの所に辿り着くまでかなり大変なことになりそうだ。 また『前回』みたいに一緒に行動出来れば有り難いんだが・・・。 と考えているうちに岩鷲の方も終わったらしい。 見事な花火が上がったのを確認して俺はそちらへと足を向けた。 花太郎、ゲットです。 すごいな。思いっきり『前回』と同じだった。 十一番隊のヤツらに囲まれた俺達(俺も岩鷲も合流する途中で見つかってしまったのである)の前へ「あうぉふ!」と間抜けすぎる悲鳴と共に現れたのだ。 四番隊の花太郎をその場で人質にしても意味が無いのは知っていたから、とりあえず逃げないように捕らえるだけ捕らえておくと、少し後に十一番隊の皆様のすぐ横の壁が爆発。 その隙に俺と岩鷲は花太郎を連れてその場から逃げ出した。 適当な所に身を隠し、「何で俺が死神なんかに!」と愚図る岩鷲の後頭部を一発叩きつつ互いに名乗りあった後、花太郎は俺が口にした「ルキア」という単語に反応して協力を申し出てくれた。 まぁルキアの名前を出したのはワザとなんだけどな。 それで今、俺達は花太郎に案内されて地下水道の中を進んでいる。 花太郎がどうしてルキアを知っているのか、そしてルキアが花太郎にどんなことを話したのかを聞いた後だ。 だから岩鷲は"ルキア"という死神に対して「変な死神だな」と、俺に対するものと似たような感想を抱いたようだし、やっぱり俺も二度目とは言え、ルキアの言葉に胸を締め付けられるような感覚を覚えている。 絶対に助け出してやる、って。 しばらく進むと花太郎が地上に出る合図をしたので俺も気を引き締めた。 『前回』通りなら次の相手は恋次だ。 面倒だが、このイベントをクリアしておかないと双極でのアレコレが駄目になっちまう。 最初は大技を使わずに会話を挟みながら。 恋次が十分揺らいだところでようやく月牙天衝。 そんな感じで良いだろう。 あ、それから恋次との戦いじゃあ俺もある程度は怪我した方が良いんだろうか。 いや、そんなことも無いか? 下手に傷を負って先に進めなくなっちまったら本末転倒だしな。 地下水道から地上に出ると、すぐ目の前に巨大な白亜の建物が聳え立っていた。 地上から随分高いところにあるその建物の入り口へと繋がる階段は下の方が土煙で隠れてしまっている。 俺の斜め後ろでガンジュが感嘆の息を漏らしているのを聞きながら少し意識を凝らしてみると、土煙で隠れた階段の所に"そいつ"の気配を感じ取れた。 背中の斬月を右手に持ち、一応いつでも応戦出来るようにしておく。 「・・・どうかしたか?」 「一護さん?」 こちらの様子が変化したのに気付いて岩鷲と花太郎が訝しみながら俺の視線を辿る。 それにタイミングを合わせるように土煙が晴れた。 見えた姿――赤い髪をした死神――に、それが誰なのか知っている花太郎の身体は少し可哀相になるくらい震えだす。 恋次を知らない岩鷲ですら、霊圧の大きさに冷や汗を流す始末だ。 俺達三人の視線を受けながら恋次は一歩一歩こちらに近づいて来る。 「・・・久しぶりだな。俺の顔を覚えてるか?」 「阿散井、恋次。」 「意外だな。名前まで憶えてたか・・・。上出来じゃねえか。」 「そりゃどうも。」 ま、あんなことがあったのに忘れてちゃあ、色々オシマイだろうけどな。 脳とか頭とか脳とか記憶とか脳とか。俺まだ若いのに。 「正直驚いたぜ。てめーはこの俺の攻撃で死んだと思ってたからな。」 それはそう思ってもらえるよう俺が頑張ったからで・・・って、ちょっと待てよ。 今こいつ驚いたとか言ったけど、俺達の前に姿を現した時はそんなに驚いた風でもなかったよな。 ・・・もしかしてそれより前に"旅禍"じゃなくて"俺"が来たことを知ってたのか? その上で何かの理由があって見逃してもらってたとか。 考えすぎだろうか。 一角から情報が伝わったってことも有り得るしな。時間的には微妙なところだが。 まあいいや。 そんなことは今からすることに殆ど関係ないんだし。 向かってくる恋次に合わせてこちらも前進する。 ガンジュが慌てて静止の声をかけてくるが、それくらいで止まるはずもない。 俺も動いたことで恋次は微かに目つきを鋭くし、それでも言葉だけは続けた。 「どうやって生き延びたか知らねェが大したもんだ。褒めてやるよ。―――だが、ここまでだ。」 恋次が抜刀する。 「解ってるよな。俺はルキアの力を奪った奴を殺す。てめーが生きてちゃ、ルキアに力が戻らねえんだよ。」 まったく。本心ではなかったとは言え殺す気で連れて行った奴が何を言うのやら。 胸中でのみ呆れを込めて呟き、俺は両手で斬月を構えると恋次に向かって走り出した。 戦闘シーンとその最中における会話は省略。 『前回』と違ったのは俺の怪我の具合くらいで、会話の内容も恋次から「ルキアを助けてくれ」っていう頼みごとも、たぶん全部一緒だった。 『今回』俺がほぼ無傷で恋次に勝利した所為で、アイツは「お前なら朽木隊長に届くかもしれねぇんだ!」なんて台詞までオマケでついてきたことには驚くやらむず痒いやら。 とりあえず恋次の話を聞いた後、気絶してしまった本人をその場に残して俺と岩鷲と花太郎は人目を避けるために地下水道へ戻った。 オカッパとの戦いで傷ついた岩鷲の治療が済んだら次はとうとう剣八だな。 ・・・ちょっと逃げたい。 |