夜一さんに頼んで霊力制御の方法を学んでいた俺だが、いざ本番、つまり瀞霊廷侵入の結果は・・・・・・情け無いくらい『前回』通りだった。
一日や二日じゃそういうものは身についてくれないらしい。
砲弾が発射された後、夜一さんは半ば諦め顔で霊力の制御に取り組む俺を眺めていた(ような気がする)。

瀞霊廷の障壁に砲弾がぶつかった後、やはり俺達はバラバラに飛ばされて、少なくとも俺は岩鷲と一緒になり、あの混乱の記憶が確かなら、チャドは一人、石田は井上と、夜一さんもギリギリまで俺の肩に乗っていたが結局は離れ離れになってしまった。
・・・で、岩鷲と二人、着地した場所で待っていたのは―――。



「ツイてる、ツイてる。今日のオレはツイてるぜっ♪」

一度しか聞いたことはないが、印象だけは強いあの歌。
ハゲとオカッパの二人組。

「そしててめーはツイてねえ。」

一角ともう一人が目の前に立っていた。

『今回』は一角が本人曰く"舞"と称する怪しげな動作を終える前に岩鷲製の砂の穴から抜け出した。
ちなみに、岩鷲とはまた意見が一致せず、あいつは早々にこの場を離れ、それをオカッパが追いかけるという状況になっている。
加えて残された俺と一角の会話も『前回』と同じような感じだ。
一角が俺より強いなら逃げても意味はなく、俺の方が強いなら倒して進めばそれで済む、ってな。
そしてすぐさま戦闘が始まったのも、まぁ大体『前回』と同じだろう。
ただ『前回』と違うのは俺が一角の戦い方を知っていて、なおかつ今の俺はこの頃の一角を倒した時よりも幾らか強くなってるってことだ。
ゆえに。

「・・・ッ、一応、名前を訊いとこうか。」
「黒崎一護。」
「一護か。いい名前じゃねえか。」

こういう風に間合いを取って交わす会話の内容は同じでも、

「そうか?名前褒めてくれたのはアンタが初めてだぜ。」
「あァ。名前に一のつく奴ァ、才能溢れる男前と相場は決まってんだ。」

ポタポタ、パタパタと地面に落ちる赤い血は、

「十一番隊第三席副官補佐、斑目一角だ!一の字同士仲良くやろうぜ!」
「やだね!」

一角のこめかみから流れ落ちるものだけだ。

血の所為で右目を瞑ったまま、一角は少し荒くなった息でこちらの返答に苦笑する。
対する俺は怪我もなければ呼吸が乱れることもない。
一角との戦いは鬼道などなく純粋な剣の戦いっていうところが多いから、きっと尸魂界に来る前、浦原さんに稽古をつけてもらったのが大きく影響しているのだろう。
期間がたった十日間とは言え、やはりあの人は凄かったのだ。
ま、『前回』の卍解修行で斬月に鍛えてもらった部分もあるんだろうけどな。

「まったく、良い体捌きしやがるぜ。しかも息すら切らしてねえってか。」
「師匠が凄い人だったんでね。」
「ほう・・・」

斬魄刀の柄に仕込んでいた血止め薬をこめかみの傷口に塗りながら、一角は興味深そうに息を吐く。

「教えてもらったのは全日数合わせても一ヶ月未満なんだけどな。」
「しかしお前を鍛えた人間ってことに変わりはねえってわけか。・・・師は誰だ、一護。」

この後の一角の反応を知っている所為だろうか。
ほんの微かに口角が上がる。

「―――浦原、喜助。」
「ッ!?」

浦原さんの名前を出した途端、一角は大袈裟なくらい息を呑んだ。
俺はまだあの人の役職名や崩玉を作ったってことしか知らないが、戦い好きの一角がこうなるくらい強さでも名を馳せている人だったのだろう。
そう思うと、いつかは浦原さんの本気を見てみたい気もする。
しかしまぁ今は遠くの浦原さんより近くの一角、だな。
浦原さんが俺の師だと知って一角のスイッチが入ったらしい。
本気モードになり、纏う霊圧が一気に重さを増した。

「それじゃあ、手ェ抜いて殺すのは失礼ってもんだ。―――延びろ!『鬼灯丸』!!」

刀の姿だった斬魄刀があっという間に槍へと変化。
次いですぐさま一角が突撃して来る。

「見誤んなよ!!」
「誰が!!」

こちらも一歩前に出ながら応戦。
途中から槍が三節棍に変わるも、そのタイミング(一角が「裂けろ鬼灯丸!!」って言う所だ)も知っていたので簡単に躱すことが出来た。
その時の驚いた一角の表情はちょっと見物だったな。

三節棍バージョンと槍バージョンを巧みに使い分けながら向かってくる一角。
それが初めて戦った相手ならかなり苦戦しただろう。実際、『前回』の俺は苦戦していた。
しかし今の俺にとってそれは二度目であり、躱すのも受けるのも、カウンターで攻撃するのも随分と容易かった。

暫らく戦っていると俺達の差(実力もあるけど経験ってのが大きいだろうな)は圧倒的となり、俺は無傷、一角は血だらけという様相を呈するようになる。
それでも戦いを続ける一角に「もう止めろ」と言いそうになったが、相手がこちらの言葉を聞き入れてくれないことは解っていたので、内心で溜息を一つ零すに留めた。
一角相手の場合はとことんやらなければならない、というのは既に学習済みだ。

そして俺は駆け出す。
相手へ最後の一撃を与えるために。







「・・・ちっ、ツイてねえや。」
「ツイてるも何も、俺がやってるのはある意味イカサマだしな・・・」

零れ落ちた苦笑は、生憎、気絶した相手には届かなかった。



























(07.09.09up)










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