今、俺達は空鶴さんの家を目指して移動している。 随分村外れまで来ており、俺の記憶が確かならもうそろそろ見えてくる頃だろう。 あの奇怪なオブジェが。 と思っていたら、夜一さんが立ち止まって此方に視線を寄越した。 「あれじゃよ。」 「こ、これは!」 夜一さんからその向こう側へと目を向けた石田が大袈裟なくらいに息を呑む。 きっと頭の中では『前回』の俺と同じようなことを考えているんだろう。 いやー。それにしても何度見たって 周囲に俺達以外の人が居ないことに安堵しながら(あんな家に入るところを見られるなんて絶対嫌だ)、草を踏みしめて近づく。 そう言えば家のすぐ前まで歩いて行ったら、デカい双子の門番がいたはずだよな・・・。 「待てい!!」 出た。 こいつらの台詞についてはよく覚えていないのだが(何せ此方の気分を悪くさせるものと役に立たないアドバイスが殆どだったからな。覚える気なんてさらさら無い)、たぶん言ってることや態度は『前回』と同じなんだろう。 死覇装姿の俺を見て険しい表情を作り、しかし猫姿の夜一さんを見てその態度を180度変えてしまった。 双子は俺達のことを夜一さんのお供と表現しつつ、地下へと繋がる階段を下りて行く。 地下一階(と表現すべきなのだろうか?)に辿り着くとすぐに右隣の障子の向こうから声がした。 「珍しい奴がいるな!」という空鶴さんの台詞は随分と楽しそうに聞こえる。 「開けろ。モタモタすんな!」 「はい!ただいま!」 双子の一方――金彦――が急いで障子を開ける。 部屋の奥に座っていた空鶴さんが此方を、いや夜一さんを見て薄らと笑った。 「よう。久しぶりじゃアねぇか、夜一。」 僅かな間の後、石田とチャドと井上が揃って間抜けな顔を晒したのは言うまでもない。 皆、空鶴さんが女だとは思っていなかったのだから。 きっと『前回』の俺も同じような面をしてたんだろうな。 驚く俺達(いや、俺は知ってたから驚かなかったけど)を余所に、夜一さんは空鶴さんに事情を説明し終えてしまった。 空鶴さんは勿論OKしてくれたが、彼女が信用しているのは夜一さんであって俺達じゃない。 と言うわけで、手下をつけると言い出した。 いよいよ岩鷲の登場か。 まぁとりあえず、『前回』みたいに殴り合うのだけは勘弁だな。 そのあとの空鶴さんの踵落としを喰らうくらいなら、俺は岩鷲に何言われたって無視出来るぜ。 空鶴さんが腰を上げ、(俺達から見て)右側の襖まで歩いて行く。 取っ手に手を掛けて「おい!用意できたか!」と問えば、中からバタバタと慌てる音。 「あけるぜ!行儀よくしろよ!」 「お・・・おう!オッケーねえちゃん!!」 そしてガラリと襖が開く。 「は・・・初めまして!志波岩鷲と申します!以後、お見知りおきを!」 記憶に違わぬ格好で岩鷲が接客スマイルを浮かべていた。 が。 互いの顔を確認して時間が止まる。(主に俺の左隣の三人と岩鷲) 接客スマイルも消え失せる。 「あああーーーーっ!!」 「よっ。」 今にも人を指差さんばかりの表情で岩鷲が叫んだ。 俺はその大声に紛れるような音量で一応挨拶らしきものを呟いておく。 空鶴さんが「何だ?知り合いか、おまえら?」と目を丸くしていた。 全くもってその通りです。 昨夜、俺は貴女の弟さんに絡まれましたから。 にしてもガンジュ、「てめえ!」とか言いながらいきなり殴りかかってくるのはヤメロ。 「昨日、長老の家で会ったんすよ。で、死神の俺が気に入らなかったらしくて。」 空鶴さんに事情を説明しつつ岩鷲の右ストレートを避ける。 お、次は足払いか。 しかし俺から手を出すわけにもいかない。 空鶴さんの目の前でそれをやったら喧嘩両成敗で『前回』の二の舞だ。 保険として、にへら、と笑って早々に相手へと服従の意を示しておく。 俺は貴女に逆らいません、ってな。 それが通じたのか、結局、空鶴さんの鉄拳制裁を喰らったのは岩鷲だけだった。 ただし「騒ぐなこの馬鹿野郎がっ!!」というお叱りの声は、そのあまりの大きさに岩鷲だけでなく俺の鼓膜にもかなりのダメージを与えてくれたが。 倒れ伏す岩鷲に視線をやる。 「オマエの姉ちゃんは最強っつーより最凶だな・・・」 「・・・おうよ。」 漢字の違いは上手く伝わったらしい。 俺と岩鷲の間に弱者特有の結束力みたいな何かが芽生えた瞬間だった。 その後、岩鷲のダメージが回復しきらないうちに空鶴さんは俺達を連れて家の奥へ進み、巨大な花火台を見せて、瀞霊廷へは空から侵入すると告げた。 無理だと叫んだ石田に霊珠核(別名:球状の殺人道具)が飛んできたのは言うまでもない。 ・・・うわ。血ィついてるよ、この玉。 |