市丸ギンによって瀞霊廷の外へと押し出されてしまった後、俺達は流魂街の住人に迎え入れられた。 チャドと元インコ・・・じゃなくて、インコに取り憑いていた子供の霊・シバタユウイチとの再会で幾らか時間を取ったものの、それ以外は特筆するようなこともなく、俺達は今後どうするかを決めるため早々に長老の家に集まった。 『前回』では夜に行なわれていたこれがまだ日の高いうちに始められたのは、勿論ジダン坊に大きな怪我がなく井上がその治療に当たらなくて済んだからだ。 夜一さんは猫の姿であるにもかかわらず筆で紙に簡単な図を描き、白道門にあたる所にバツ印をつける。 それから話す内容は「門を正面突破する方法は得策ではなかった」の部分が「市丸ギンと直接当たり、なおかつ撃退されてしまったのは痛手である」という感じに変わっていたこと以外、殆ど同じだった。 つまり"門がダメなら門以外から"。志波空鶴の力を借りるという結果に辿り着くものだ。 ・・・しかしここでふと疑問に思ったんだが、『前回』の夜一さんの発言について―――。 門を直接突破するのは最初からダメだと思っていた、みたいなことを言っていたが、じゃアあの人はもともとどうやって侵入するつもりだったんだ? 空鶴さんの花火だろうか。 でも、もしそうなら、それは得策と言えるのだろうか。 花鶴大砲で瀞霊廷に侵入した場合、その派手さゆえに強い死神にも弱い死神にも一斉に目をつけられてしまう。 しかしその一方で、門からの侵入なら・・・。 結局は西流魂街にある白道門の内側に市丸ギンという隊長格が待ち受けているわけだが、普通はそんな強い奴が門のすぐ傍にいるわけがない。 つまり、藍染達の企みを知らない人間なら素直に門を突破して内側にいる雑魚を撃破。それからすぐに(強い奴が駆けつけて来ないうちに)移動という方法を取っても良いのではないか、と思うわけだ。 『前回』と『今回』の台詞の違いから判断するに、『前回』の俺ではジダン坊を倒すまでに時間がかかりすぎてその間に死神達が集まってしまうと考え、『今回』の俺ではジダン坊ならかなり早く倒せるのではないかと思ってもらえていたということなのかもしれない。(つまり、市丸が出て来るまでは門の正面突破も悪くはないと思っていたということ。) けどなァ。 『前回』だってジダン坊を倒すのは結構早かったし、それを見ていたなら途中からは「正面突破もいける」って考えなくもなかったのでは? なのにあの完膚なきまでの否定のしよう。 これには大人のプライドとやらを感じるな。 失敗した策には、例えその途中で成功するかもと感じていたって絶対にそれを匂わせないってやつを。 さて。 ところで俺がどうしてこんな益の無い、しかもちょっと夜一さんに八つ当たり気味なことを考えているのかと言うと。 「おんやァ!?なんでこんなトコにクソ死神サマがいやがんだァ!?」 夜になり、岩鷲が登場したからだ。 ちなみに、日中に今後のことを決めておきながらその日のうちに空鶴さんの家に向かって出発しなかった理由は、「今から向かっても時間が微妙で相手方の機嫌が悪・・・ごほんごほん。相手方の迷惑になるからじゃ。」(台詞そのまま)と夜一さんが言ったからだ。 ってなわけで、本日は長老の家に一泊することになったのである。 いやしかし。そういや岩鷲のことすっかり忘れてたぜ。 「おい!」 こいつどうするよ?『前回』みたいに九時(だっけ?)になるまで相手するか? 「おい死神!」 別に俺、喧嘩慣れしてるけど喧嘩が好きってわけでもないしなァ。 「聞いてんのかよテメエ!」 ここで岩鷲とやり合おうがなかろうが、空鶴さんに瀞霊廷まで飛ばしてもらえるのは確実だろうし・・・。 「おらァ!無視すんじゃねえよ!タンポポ頭!!」 ・・・・・・。 「誰がタンポポ頭だこのイノシシ原人!!」 「ぶほあっ!!」 「「「「アニキーっ!」」」」 「・・・あ。」 しまった。 つい反射的に手加減無しでやっちまった。 どうやら技の決まりが良かったらしく、岩鷲はそのまま気絶したらしい。 舎弟の四人が駆け寄って倒れた岩鷲を拾い上げ、凶悪な面をしたイノシシに乗せようとしている。 なんだか、これでコトは済んじまったみてえだ。 四輪駆動と胴体に書かれたイノシシが背に岩鷲を乗せて走り去るのを見送りながら、俺はそう思った。 |