―――で、ここからが本番だ。 白道門の通行許可をくれたジダン坊はその巨大な門を一気に持ち上げる。 しかし途中でその動作が止まり、顔は蒼白に。 視線を辿れば風に揺れる銀髪と白い隊長羽織が目に入った。 さあ、今の俺の立ち位置は?・・・ジダン坊のすぐ隣。 瞬歩は出来そうか?・・・ばっちり。 斬月は?・・・既に右手に持っている。 「あァ。こらあかん。」 ―――ギィンっ! 「・・・な、」 上手くいったみたいだな。 眼下と真横の驚く顔を見ながらそう思う。 市丸ギンの一撃を弾き返し、そのままジダン坊の左肩に飛び移った俺は、今さっき何が起きたのかいまいち解っていないらしいチャド・井上・石田、そしてきちんと理解しているであろうジダン坊・夜一さん・市丸ギンを順番に眺めて小さく笑った。 「攻撃も防御も出来ない相手にいきなり斬り付けようとするなんて、あまり褒められた行為じゃねーぜ。」 「ふうん。ボクの攻撃に反応できたんか・・・おもろい子やな。」 こっちの台詞は総無視ですかキツネ野郎。 別に構わないさ。別に構わないけどね? 展開的にはこのあと市丸が「俺=黒崎一護」ということに気付いて流魂街に押し返してくれればOKなんだから。 それにしても“黒崎一護一行”を瀞霊廷に入れないっていうのは、やっぱり藍染の指示なんだろうな。 もしそれが失敗してたらどうなるんだろう。 空鶴さんの花火による侵入も無く、死神達の目も余計なところに向かなければ・・・。 想像すると少しばかり気が晴れる。 藍染が動きにくくなるんだしな。 だが今更そんな状況に持って行けるはずもなく(そんな状況に持って行きたいなら、市丸を素早く倒せる程の実力を身に着けておくか、白道門以外の門を使用するしかない)、『今回』も『前回』に倣うだけだ。 夜一さんの焦った顔が見える。 猫に表情なんてないと思っていたのだが、元が人間である所為か、彼女のそれはなんとなく判った。 俺が市丸に敵うはずないと思っているのだろう。 その通りです。今の俺じゃ力不足だ。でも別に此処で正面からやりあうつもりはないから安心してくれ。 でもって、さっさと俺の名前を呼んでくれ。 「一護っ!!此奴はおぬし一人で敵うような相手ではないぞっ!!」 「・・・一護?・・・そうか。キミが黒崎一護か。」 「知ってんのか、俺のこと。」 言いながら俺はジダン坊の肩から降りてその前に立つ。 視線の先では一人納得したように「なんや。やっぱりそうかァ。」と呟きつつ、市丸が背中を向けて歩いていく。 距離を取ってからピタリと止まった男は、そうしてゆっくり振り返り、口端を吊り上げて笑った。 「ほんなら尚更、ここ通すわけにはいかんなあ。」 はいはい。今は通してくれなくて結構ですよ。 と、俺の頭の中ではややシラけた声。 けれどこれから強烈な一撃を防がなければならないので、気は抜いていられない。 相手が攻撃の体勢を取った。 「射殺せ『神鎗』」 「っ、」 脇差サイズだった斬魄刀の刀身が伸びて斬月に受け止められる。 しかしそこで止まるはずもなく、俺の身体は後ろに押されてジダン坊と激突。 二人諸共門の外へ押し出された。 「く、黒崎くん!!」 「黒崎っ!!」 俺が吹っ飛ばされている所為で、井上と石田の声がドップラー効果で聞こえる。 しまった!!と叫んでいるのは夜一さんだろう。 門が下りる大きな音とそれに紛れるようにして「バイバーイv」と軽い声を耳に入れながら、俺はジダン坊と一緒に地面の上で転がっていた。 ・・・いってぇー。ちょっと受身取り損ねたかも。 |